軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

達成報酬

毒殺未遂事件から一週間。

サラの治癒状況の様子見を終えて、カレンもついに本当のお役御免である。

やはり万能薬は普通作れるものではないらしく、決して口外しないようにとヘルフリートから忠告を受けている。

もしも王家にバレると監禁されて一生万能薬を作らされることになるかもしれないという。

バレた先が悪の組織でも大体同じ運命を辿ることになるらしい。

どちらも嫌なので、カレンは貝のように固く口を噤む所存だ。

それに、あのあと何度かカレーを作ったものの、万能薬は再現できなかった。

ほとんど間違いなく、原因は最後に入れた隠し味の薬草の粉末だと思うのだが、だからこそ再現は迷宮入りした。

カレンは薬草のことなんて何も知らないのだ。

色々考えていたことのうちの何かが薬草の本質を掠めたのだろう。

でも、何がどう掠めたのかまったく思い出せなかった。

いつもこんな危険にさらされているらしいサラのため、ジークのため、エーレルト伯爵家の人々のために、できることなら作ってあげたかったけれど、みんなで美味しく食べるだけで終わってしまった。

「馬車までお貸しいただきありがとうございます」

「ジークを治してくれた錬金術師を歩いて帰らせるわけにはいかないだろう」

家から色々と持ち込んでいたので助かった。

ありがたく馬車に積み込ませてもらった。

エーレルト伯爵家の全員が今、カレンを見送るために庭に集まっていた。

ヘルフリート、アリーセ、ジークに……ユリウス。

遠くにはサラやゾフィー、東館の人たちの姿がある。

豪勢な見送りがありがたすぎて身の置き所がないものの、重要な話をしなければならない。

カレンは咳払いをすると口火を切った。

「達成報酬について、お話できれば幸いです」

「私もその話をしようとしていたところだ。君は依頼を受理する際、ユリウスとの結婚を報酬として望んだ。だが一晩考えてそれを撤回した。ここまでは相違ないな?」

「はい、おっしゃるとおりです」

だから、達成報酬はあとから考えさせてほしい。そういう話になっていた。

今こそカレンが望みを口にするべき時だろう。

カレンがごくりと唾を飲んだとき、ヘルフリートは言った。

「ジークの命を賭け事の具にしたくはないという君の高潔な意志をありがたく思う。だが、君の本当の願いはあくまでユリウスとの結婚だろう?」

「……はい?」

「私は依頼において、『報酬は思いのまま』と記載している。その言葉を違えるつもりはない。君がユリウスとの結婚を望んでいると知っている以上、私は君とユリウスを結婚させよう」

「ちょっと、待ってください。わたしは全然別の報酬でよくってですね」

「遠慮する必要はない」

「遠慮ではなくて。その、ユリウス様との結婚なんてわたしにはもったいなさすぎますので」

「私は貴族として正当な報酬を支払う用意がある。他の報酬を与えて茶を濁すことなど、決して許されないのだ」

カレンは言葉を失った。

ヘルフリートがしょっちゅう屋敷を明けている理由をサラから聞いたことがある。

サラによれば、ヘルフリートもまたジークのために戦っていたのだという。

ユリウスが王都ダンジョンの攻略によって功績を挙げたとき、国王から望む対価を得られるように――必ずや王家が持っているという、レジェンド級の魔封じの魔道具を得られるように。

他の報酬を与えて茶を濁されることのないように。

社交界を飛び回り、根回しをしているのだと言っていた。

これは、ヘルフリートの鋼の意志だ。

カレンが中途半端なことを言っても、その意志は決して曲がらない。

カレンはユリウスを見た。

ユリウスを見れば、兄であるヘルフリートの意向を承知していたのか、甘やかな微笑みを浮かべてみせる。美しい蠱惑の笑みだった。

この人と結婚できるなんてすごいことだ。王都で一番結婚したい男。

ジークが復活したことでエーレルト伯爵家の爵位を継ぐことはなくなったが、ユリウスならいずれ自力で爵位を手に入れることも可能だろう。

いわずもがなの美貌。

エーレルト伯爵家の出身という高貴な血筋。

剣術大会で優勝し、領都のダンジョンを攻略するほどの純粋な強さを持ちながら、甥のために命すらかける心優しい人。

カレンが万能薬を作ったと言ったとき、一人だけ信じてくれた人。

殺されかけたカレンを、守ってくれた人。

こんな人と結婚させてくれるというのだから、飛びつくのが普通である。

実際カレンはのどから手がでそうなほどユリウスと結婚したい。

この男の妻になったらみんなに自慢できるし、鼻が高くて、胸を張ってライオスやマリアンを見返せるだろう。

――でもそれが、カレンの本当の望みなのか。

前世から自分が心の底から願っていたことなのかといえば、絶対に違う。

「正直に言わせていただきますね」

「ああ。身分の気兼ねなく、我々の恩人の本音を聞かせてくれ」

「ユリウス様ほどの方との結婚よりも望むことなんて、何もない――最初はそう思っていました」

カレンの言葉に、ユリウスが目を丸くする。

黄金の視線を感じて怯みそうになりつつ、カレンは無理やり胸を張る。

「でも今は、ユリウス様との結婚で 妥協したくない(・・・・・・・) 、と思っています」

「……それはつまり、私の妻になりたいということか? それともジークの?」

「そうではありません! わたしは、錬金術師として生きていきたいんです!!」

カレンは叫んで目をつむった。

どんな反応が返ってくるのか恐ろしくて、しばらく目を開けられなかった。