軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

気になるモノ

「ユリウス、戻ってきたのだな」

ヘルフリートはどこかほっとした面持ちで言うとユリウスとついでにカレンを天幕の中に招き入れた。

ダンジョンから出るとユリウスはすぐにヘルフリートの元に向かうように求められた。

カレンはいくつかのことに気を取られていて、ぼんやりしながらその後についていった。

幸いにもユリウスを連れていく騎士たちはエーレルト伯爵家にいた頃からヘルフリートの近衛をしていた騎士たちで、カレンも顔見知りだったので入れてくれた。

ダンジョンから出たら体がとても軽いし、息がしやすい。

それに――とても気になるモノがあることにも気がついた。

「何が起きているのですか?」

「大森林内のダンジョンがいっせいに 大崩壊(スタンピード) を起こしている。普段ならそれなりに時期がバラけるのだが、それ自体はありえることだ。それを鎮めるために狩猟祭を行っているのだがな。問題は、各地のダンジョンも大崩壊を起こしかけているらしいことだ」

「各地の?」

「ああ。アースフィル王国各地でだ。幸いエーレルト領都ダンジョンは無事だがな。恐らく、昨年ユリウスがダンジョンを攻略してくれたからだろう……近年、ダンジョンの攻略がおざなりになっていた領地のダンジョンが大崩壊を起こしているらしい。攻略をしていたダンジョンも大崩壊を起こしかけているという話だ」

「神官からの情報、と聞いていますが……」

「ああ。だから間違いないだろう。彼ら独自の情報網は正確かつ速いからな」

ダンジョンの門の管理をするのは神殿。女神に仕える神官たちだ。

彼らは神聖魔法という魔法を使う。

理解と魔力によって使う魔法ではなく、女神への信仰心によって使うことができるという魔法だ。

その神聖魔法のうちの一つに、遠距離でも連絡を取れる魔法があるらしい。

他にも様々な門外不出の神聖魔法を有している。

その特別な魔法がダンジョンの門の管理に必要不可欠だそうで、だから大抵の国では神聖魔法が使える神殿がダンジョンの門という、重要施設を管理している。

この世界では女神の影響力が大きい割に、神殿の影響力はさほど強くはない。

だがたまに重要ポジションにいる――それが神官という存在である。

「ユリウス、おまえのこの狩猟祭の意気込みを知っているのにすまないが、魔物狩り部隊に協力してもらえないか? 例年の通りであればしばらく狩り続けていれば魔物の勢いは弱まるはずだ。……例年の通りであればな」

「構いませんよ」

快くうなずくユリウスに、ヘルフリートは苦い笑みを浮かべた。

「……ユリウスならそう言ってくれるとわかっていた。すまない」

「謝る必要はありませんよ、ヘルフリート兄上。そもそも、私の獲物はもう討伐し終えていますから。だろう? カレン」

「え? あ、そうですよ、ヘルフリート様!」

「そうなのか?」

「はい。ただ、その部隊に参加する前に少しユリウスを借りてもいいですか?」

「うむ?」

ヘルフリートはユリウスを呼び捨てにするカレンに軽く目を見張ったものの、やがて何事もなかったかのようにうなずいた。

「無論、構わない。今この状況を知った上で君がそうしたいと望むのであれば、何か意味のあることなのだろう」

「信頼していただけてありがたいような、重荷を感じるというか……」

カレンは苦笑いしつつ天幕の中でありながら、狂いなくただ一つの方角を見やり、指をさした。

「森から出てきた魔物が向かうのはあちらで間違いありませんか? ヘルフリート様」

「あちら?」

ヘルフリートは怪訝な面持ちでカレンの指差す方角を見やった。

「君が指差す方角の先には森がある。広い森なのでな。そちらに向かうというより、そちらからも魔物は出てくるというのが正しい」

「ですが、広い大森林の淵のあちこちから湧き出てくる魔物は、森のどの淵から出てきてもあちらに向かっていませんか?」

確信めいた口ぶりのカレンの言葉にヘルフリートはやがて真剣な顔をして問い質す。

「――カレン、魔物は人の気配を目指して我々に向かってきているわけではないのか?」

「説明は後でもいいですか?」

「急を要するのだな?」

一方向をじっと見つめつづけるカレンの代わりにユリウスがうなずくと、ヘルフリートは険しい表情でうなずき返す。

カレンはヘルフリートに問うた。

「あちらには、天幕以外に他に何がありますか?」

「……天幕くらいだが、狩猟祭の参加者たちが天幕に何を持ち込んでいるのか、誰を同行しているのか、そのすべてを把握はしていない」

「なるほど」

「カレン、あちらに向かいたいのかい?」

「はい、ユリウスさ――」

「カレン」

ぼんやりしながらうなずこうとしたカレンの言葉をユリウスが遮る。

カレンは揺るぎないユリウスの笑みを見上げて、言い直した。

「そうだよ、ユリウス。わたしはあちらに向かいたい。それは魔物たちが目指す場所でもあるから、守ってほしい。お願いしていい?」

「もちろんだよ、カレン」

嬉しげにカレンのお願いを聞き入れると、ユリウスは再びカレンを抱き上げた。

ここはダンジョンではない。地上で、エーレルト騎士団が周りを固めている。

ヘルフリートもとてつもなく何か言いたげである。

抵抗はあるが、カレンは拒まずに抱き上げられておくことにした。

「あちらへ向かって、ユリウス」

「ああ」

そう言ってユリウスは笑顔でカレンを抱きしめる力を強めた。

カレンはユリウスの首に腕を回すと、その後ろ頭をそっと撫でた。