軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

夕食ポーション

「まだ一日しか経ってないのに……三階層に着いちゃった!?」

日が沈む頃、気づくと三階層に辿り着いていると知らされたカレンは驚愕した。

ゴトゴト揺れる荷馬車の隅で論文を読みあさっていたので、すでに二回、ダンジョンの門を潜ったことにすら気づかなかったらしい。

門を出てすぐのところには、目の前には雪に覆われた真っ白な林が鬱蒼と広がっていた。

寒々しい景色を見て、カレンはコートのモコモコの襟にきゅっと首を埋めた。

「ダンジョン一階層につき一日かかるっていうのは、あくまで平均というか、指標だからな」

「それは聞いたことがあるけど、こんなに早いとは思わなかったよ」

「それだけ騎士の方々がお強いってことだな。特にあのゼンケル卿がついてきてくださったのは嬉しい誤算だぜ」

セプルの言葉にカレンはほうほうとうなずいた。

リヒトのおかげで、カレンたちはかなりの速度で進めているらしい。

だが、カレンのようなお荷物を抱えた状態でこの速度なら――。

「ユリウス様はもっと早く進んでるってこと?」

「そうだねえ。あの御仁なら、何ならすでに十階層に到着していて、ボス討伐に挑んでいてもおかしくないねえ」

「すごい!」

ウルテの言葉にカレンが息を呑むも、ウルテは肩をすくめた。

「だが、ダンジョンの様子が変わらないからまだボス討伐はしていないようだね」

「ダンジョンが攻略されると、どんなふうに変わるの?」

「明らかに空気が変わるから、カレンでもすぐにわかるさ」

「へえ……」

ダンジョンの十階層ごとのボスが攻略された時の空気の変化は、薬草などの魔力植物に影響を与えるだろうか?

魔力植物だけではない、ダンジョン内の無魔力植物にも影響を与えるかもしれない。

もしも立ち会えたらサンプルを採って帰ろう、とカレンは強く決意した。

「で、夕食はカレンが作ってくれるんだろ?」

「何を作るんだい?」

「何を作るかは、二人が何を採取してくれたかによるね」

朝・昼は歩き続けながら薬草固パンなどの行動食を食べ、夜は足を止めて夕食と休憩を取るのがダンジョン攻略のスタイルだ。

カレンが魔物蔓延るダンジョン内をウロチョロして採取をするわけにはいかないので、道中の採取は基本セプルとウルテに任せていた。

「あたしは雪ウサギを捕まえたよ。やっぱりダンジョン攻略中には肉がなくちゃね」

「お肉は大事だよね」

「俺は根っこばっかりだ。もっといいもんが見つかりゃよかったんだが」

そう言ってセプルが包んでいたマントを広げると、そこには種々雑多な根菜がゴロゴロと入っていた。

「根菜! ダンジョンの気候的に、まさに旬だよ! きっと美味しいよ!」

「前から冬が来るとコイツらを採ってきてほしいってカレンちゃんが言ってたのは、そのシュン、ってヤツだからなのか?」

「そう!」

「よくこれほどの野菜を見つけられたな」

ぬっと現れたゴットフリートがセプルの手元を覗き込む。

「エーレルトのダンジョンのでは食える植物を採取するのが難しいのだが」

「そうなんですか? それだと、エーレルトダンジョンは攻略が難しそうですね」

ゴットフリートの登場にぎょっと固まるセプルに代わってカレンが答える。

カレンの言葉にゴットフリートは首を傾げた。

「薬草固パンがあれば食事には困らないだろう。それにエーレルト領のダンジョンの魔物は比較的狩りやすく、特に領都ダンジョンの十階層以下には鉱床が多い。ある程度の腕があれば金を稼ぎやすく、冒険者に人気なのだぞ」

「カレンちゃん、そもそも王都のダンジョンを攻略する冒険者も大した料理はしないんだぜ」

「そういえば、そうだった……」

ダンジョンの中で採れる作物を必要としているのはダンジョンの外に生きる人々だ。

実際にダンジョンを攻略している人たちは、毎日違うものを食べるために採取をしたり料理をしたりせず、持ち込んだ薬草固パンを食べるのが普通なのだ。

「それじゃ、料理――いえ、調合に取りかかりますね」

「雪ウサギの下処理はあたしがやってあげるよ」

「ありがとう、ウルテ」

雪ウサギの肉の他に、セプルが採ってきてくれたニンジン、ダイコン、ゴボウ……冬が旬の食材だから、真冬の気候のこのダンジョンでも見つけられたのだろうか。

カレンは包丁代わりのナイフを手に食材を見下ろした。

「しっかし、これがポーションになるのか? 俺の目には全部の食材を適当に切って煮こんでるだけに見えるんだが……素材も俺が適当に採っただけだぜ!?」

「できるよ、セプルおじさん」

カレンはにっこりと笑いつつ、袋から秘密道具を取り出した。

「じゃーん。万能薬の素~」

袋から取り出した途端に漂うカレールーの香りに、セプルとウルテたちはぎょっとした顔をする。

「こんなところで万能薬を作ってどうするんだい!?」

「そうだぜ、カレンちゃん! 今万能薬を使ったら、後になって万能薬が必要な時に効かなくなるぞ!!」

「クールタイムのことならご心配なく」

慌てるセプルとウルテに、カレンはにっこりと笑った。

「万能薬としては壊しちゃえばいいだけだからね~」

オリハルコンの錬金釜を火から下ろして、カレンはカレールーをポンと放り込む。

セプルとウルテは悲鳴を上げた。

「ヒィ!! 俺の月給!? まさか年収!?」

「なっ、なんてことを! こんなっ、貴重なもんを、あんた……!」

「なんてね」

カレンはにやりと笑った。

「わたしがついていく理由の一つは、わたしがポーション料理を皆様にふるまえるからって話になってるんだから、ポーションを壊したりしないよ~」

「あ、あんたねえ……!! 脅かすんじゃないよ!」

「心臓に悪いぜ」

「話は聞かせてもらったが、それでは大元の問題が解決していないんじゃないかい? カレン。万能薬を食べさせてもらえるのはありがたいが、今それが必要かい?」

割り込んできたリヒトに、カレンは微笑んで視線を錬金釜に戻した。

ぐるりと中身をかき混ぜて言う。

「わたしがこのカレールーを使ってカレーを作る分には、作る度に別の万能薬になるので大丈夫ですよ」

「別の……万能薬?」

「元々、わたしがエーレルト伯爵家のジーク様の血筋の祝福を癒やせたのは、『熱を下げる』という効果を持つポーションを様々な素材で作れたからなんです。素材が違えば、同じ効果のポーションでも別のポーション判定で、クールタイムは発生しません」

カレンはカレールーを溶かした錬金釜に鑑定鏡をかざして確認すると、リヒトを仰いだ。

「この塊は万能薬を固めたもので、薄めれば小万能薬ポーションになります。わたし以外の人がこのカレールーをお湯で溶かせば、『みじん切り野菜カレー』という名前の万能薬になりますが――わたしが追加素材も万能薬の素材として扱ったので『雪ウサギ肉の根菜カレー』の小万能薬ポーションになっています」

カレンは鑑定結果を見て不満顔になる。

「中万能薬くらいにはなると思ったんだけどな……やっぱり魔物素材がネックかな」

「えっ、あたしが採ってきた雪ウサギが悪さをしたのかい!?」

「いえいえ、わたしがまだ未熟で魔力素材を扱いきれてないだけです」

魔物素材は鑑定が通る。

だから他の人々と同程度の『理解』はできているはずで、カレンの今の『魔力』なら足りているはずなのに、中々思い通りに扱えない。

それに他にも原因がありそうだった。

カレンはすでにカレールーとして完成している万能薬の魔法薬を使って、別の万能薬を作ったのだ。

二つの魔法薬を組み合わせるなんて話は聞いたことがないから、そこに問題があってもおかしくない。

普通に手早くカレーを食べたくてカレールーで作ったら、別の万能薬になってしまったのだ。

想定していた状況ではないのでカレンとしても謎が多い。

王都に帰ってユルヤナに聞けば何かしらの助言をもらえるだろう。

「つまり君はその気になれば、クールタイムが発生しない万能薬をすぐにでも作れる、と?」

「はい、そういうことです。毎日カレーは飽きちゃうかもしれませんけどね」

「……ユリウスが止めるなって言っていたのは、こういうことか」

「何か言いました?」

「何にも」

リヒトの返答にきょとんとしつつ、カレンは気を取り直して立ち上がった。

「皆様! 本日の夕食ポーションが完成しました! 『雪ウサギ肉の根菜カレー』の小万能薬ポーションです!」

「おお!!」

カレンとリヒトの会話は聞こえていただろうに、騎士たちは盛り上がってくれる。

「食べる方はお皿を持って並んでください!」

ゴットフリートが率先して皿を持って並んでくれたため、アルバン以下騎士たちは借りてきた猫のごとくである。

配膳を終えてカレンも自分の分のカレーを食べつつ、噛みしめるように呟いた。

「野外調査って、楽しいなぁ……!」

「我々は野外調査のために君の護衛をしているわけではないのだが!?」

「あ、もちろん、ユリウス様を迎えにいきたいのもありますので」

早速おかわりに来た真面目なアルバンをぎょっとさせつつ、カレンは矢継ぎ早に質問した。

「お味はいかがですか? ポーションとしての効き目はどうですか?」

「味は……美味い。万能薬の効能が必要な体ではないはずだが、体が軽く感じる。だが、そんなことよりも――」

「お肉、多めでよそっておきますね」

「……」

カレンはコソッと言うと、怪訝な顔つきのアルバンの皿に雪ウサギ肉を多めにカレーのおかわりを盛ってあげた。