軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

主張の舞台4

「待ってください!!」

「ハラルド、錬金工房で待っててって言ったのに」

現れたのはハラルドだった。

何故か汗だくで、息を切らしていた。

ただ走ってやってきたにしては疲労の色の濃い顔で、舞台の上に登ってくる。

「僕こそ、この諍いの当事者ですよ? カレン様を矢面に立たせて、一人逃げることなんてできるはずがありません」

「だけど、巻き込まれちゃうよ」

カレンが勝手にやりたいからやっているだけの試みに、ハラルドが巻き込まれてしまう。

元々、魔力がほとんどなかったハラルドは本人の言う通り、渦中の当事者だ。

「カレン様はこの場を未来への布石にしようとお考えのようですが、ここで勝ちきるのもありではありませんか?」

「それができればいいけどね?」

ハラルドは含み笑いを浮かべると、カレンに手を差し出した。

「カレン様、拡声の魔道具をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「マリアン、いいよね?」

「……別に、構わないわよ。無駄な足掻きだと思うけれど」

ハラルドは息を整えながら観衆を見渡した。

だいぶ白けた空気である。空気をここまで冷やしたのはカレンなので、何となく申し訳ない気持ちになった。

深呼吸すると、ハラルドは闖入者に冷たい眼差しを向ける人々に微笑んだ。

『みなさん、はじめまして。僕はハラルド。生まれた時の魔力量はFランク未満。魔力測定器ですら測ることができない、通称『魔力なし』でした。そんな僕を、カレン様は雇ってくださいました』

聴衆がざわざわと揺れ動いた。

マリアンの言う、魔力なしを憎む人たちもどこかからカレンたちを見ているのかもしれない。

今まさに、マリアンがカレンを糾弾しようとした理由こそがハラルドだった。

十分に聴衆の好奇の耳目が集まるのを待ったあと、ハラルドはすうっと息を吸って、吐いた。

『ですが僕は、今やEランクの錬金術師です』

ハラルドは握りしめていた箱を空けて聴衆たちに見せつける。

その中にはEランク錬金術師の証である、鉄のブローチが日の光を受けて煌めいていた。

その場のざわめきがピタリと止まった。カレンにはその理由がわかった。

カレンですら意味がわからなくて息を詰めてしまったからだ。

誰もがハラルドの言葉の意味が理解できずに、呼吸すら止めて困惑していた。

「……ハラルド、Eランクってどういう意味?」

『つい先程、昇級試験に合格して参りました、カレン様』

ハラルドは汗を拭いながら言う。

その顔に浮かぶ笑みは晴れやかで、喜びに満ちあふれていた。

『カレン様に黙っていて申し訳ありません。昇級できる確証がなく、がっかりさせたくなかったのです。実際に、一度目の昇級試験には落ちてしまいました。ですが、その時に限界まで魔力を使ったためか、再び階梯を昇ることができたのです』

カレンだってEランクの昇級試験の時に体中の魔力を使い切った。

けれど、階梯を昇ることはできなかった。

それなのにハラルドは階梯を昇ることができたという。

『二度目の昇級試験で何とかEランク錬金術師になることが叶いました――皆様、元は魔力なしの僕ですが、今の魔力量はEランクです』

そうえいえば、心なしかハラルドの身長がまた伸びているような気もする。

成長速度が速すぎる。

だが、その成長速度があったとしても、どうしてEランクの魔力量でEランクの錬金術師になれるのか。

当時、魔力量Dランクのカレンだって大変だった。

そしてそれすら普通のことではないと言われていたのに。

『魔力なしに生まれついても、階梯を昇ることでここまで高みに来ることができるのです。魔力なしだからという理由で人を弾圧するべきではありません。カレン様がそう主張するのでしたら、きっとそれは女神のご意志なのです』

そう言って、ハラルドはにっこりと笑ってみせた。

ハラルドは平民学校に行っておらず、これまでは当然論文を読むことができず、カレンに教えられたことしか知らない。

ハラルドの女神論はおいといて――ハラルドは、自分の成長速度の異常さを理解していない。

どうしてハラルドの成長速度がここまで異常なのか。

『たまたまよ!!』

マリアンが吠えて、カレンは物思いから引っぱり出された。

『仮にあんたが元々魔力なしだったとするわ! そこから階梯を昇ったなら、きっとよほどの努力をしたんでしょう? 女神に階梯を昇るにふさわしいと認められるぐらい。それだけの話で、あんたが元魔力なしであることと関係あるかしら? この世のほとんどの魔力なしは階梯を昇ることなんてできないのよ! 今私たちの前にある現実が! それを証明しているわ!! 女神に愛されていないから、だからめったに階梯を昇れないんだわ!!』

「それは違うよ!」

『反論があるのなら拡声の魔道具を使いなさい、カレン!』

マリアンに怒られて、カレンはハラルドから拡声の魔道具を受け取った。

『それは違うよ、マリアン。たとえハラルドが努力していたとしても、この成長速度は異常なの』

『だから何!? それが元魔力なしであることと関係あるっていうの!? ……まさか、本当に関係があるの?』

マリアンが目の色を変えるのを見て、カレンはハッと息を呑んだ。

『いや! 待って! これ、わたしが説得したい方向性と違う!! わたしは、努力をしているのならたとえそれが女神に認められるようなことじゃなくても、蔑ろにするべきじゃないって話にしたかったのに……!』

カレンが拡声の魔道具を下ろそうとすると、野次が飛んだ。

「逃げるんじゃねえ!!」

カレンはビクッと体を震わせたあと、声の主を見やって口をへの字にした。

「なんでアヒムがこんなとこにいるわけ?」

「おまえがバカなことをしていること、そんなおまえを討論の場に引っぱり出すっていう噂を聞いたんでな。どんなもんか見に来たんだよ。錬金術師のくせに、自分のいいように現実を歪めようとしてんじゃねえよ。真実を解き明かすのが錬金術師の務めだろうが!」

アヒムの糾弾に、カレンはぐっと唇を噛んだ。

必死の努力はたとえ女神に認められなくても尊いものだという話がしたい。

それなのに、強者の理論に辿り着きそうな気配がする。

真実を確かめたいという欲求も、カレンの中に芽生えつつあった。

カレンの中に芽生えた何らかの確信のために、空がじりじりと迫ってきていた。