軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

錬金術師の準備

「カレン! 戻ってきたのだね」

「ヴァルトリーデはどうしたのだ?」

早朝、野営地に戻ってきたカレンを出迎えたユリウスとボロミアスに、カレンは一瞬言葉を呑んだ。

これから万能薬を作ってペガサスというSランクの魔物のもとへ戻らなくてはならない。

この万能薬でペガサスの子を治してあげることができなければ、カレンとヴァルトリーデは死ぬことになる。

ボロミアスだけならばともかく、ユリウスはどう思うだろうか。

今ヴァルトリーデを見捨てればカレンが命をかける必要はなくなるという、この状況を――。

「要点だけで失礼します。ブラーム伯爵の仲間たちは魔物に殺されたので彼らに襲われる心配はなくなりました。ヴァルトリーデ様は無事です。でも、すぐにでも万能薬がないと命が危ない状態です。万能薬を作れる状態まで魔力と体力を回復させるためにも、一刻も早く休ませてほしいです」

カレンは事実だけを話した。いくつかの重要な情報を省いて。

「よし。いまいち状況がわからんが、無事ならいい。おまえ以外の錬金術師たちが魔力回復ポーションや回復ポーションの薬香を作っている。それを使え。後ほどそなたの天幕に運ばせよう」

「ああ、それは助かります」

カレン以外の錬金術師に万能薬は作れないが、他のものは作れるのだ。

継続回復効果のある薬香と魔力回復ポーションを併用して、患者を安置しているらしい。

「私のために足を止める必要はない。歩きながら話すぞ」

ボロミアスは一刻も早く休みたいというカレンに配慮して歩き出した。

こうして話してみると、融通の利く王子様だった。

妹の命がかかっているからか、彼にとってはカレンが力ある者だからなのか。

後者だとしたら、力ある者たちにとってボロミアスはとてもよい君主になってくれそうだった。

「今日の回復分だけでは全員分の万能薬は作れません。ヴァルトリーデ様のためだけに休ませてもらいます」

「それでよい。他に必要なものは?」

「万能薬を作るためにこれぐらいの大きさの魔法金属製の鍋を借りたいのと、身繕いしたいので、温泉の区画を一つ空けておいてください」

「わかった。鍋は見つくろおう。魔物は一掃させておく」

トントン拍子で話が進み、カレンはヴァルトリーデの天幕に到着するとヨロヨロと中に入った。

イルムリンデやドロテアが心配そうな顔をしてこちらを見ているが、ユリウスがカレンの代わりに事情を説明してくれている。

「カレン、魔力回復ポーションと薬香を持ってきたぞ」

魔法薬を運んできたのはライオスだった。

「おまえ、大丈夫なのか?」

「大丈夫って、何が?」

「……父親が約束の日に帰って来なかった時と、同じような顔をしているぞ」

カレンはきょとんとした目でライオスを見た。

まさかライオスに何かを気取られることがあるとは思わなかった。

そこまで過去の自分を見ていたライオスがいただなんて、はじめて知った。

不安に押しつぶされそうだったあの日と同じカレンが今ここにいることを、誰にも知られたくはなかったのに。

カレンは誤魔化すためにじっとライオスを見すえた。

「……わたしがいない間にユリウス様とライオスの間で何かが起きてたらどうしようと思ったら、つい不安で」

「何かとは何だ!? いやッ、絶対に答えるなよ!! 実際何もなかったからな!!」

ライオスは怒鳴りながら天幕から出ていった。

それを見送り、カレンは薬香に火を付けて魔力回復ポーションをぐびりと一気飲みした。

カレンの作る魔力回復ポーションとは違って、キノコの出汁が感じられない。そして、酩酊感が少なめだった。

魔茸はそのまま使うと危ないお薬になる素材なので、ポーションとしての品質が上がるほど酩酊感が少なくなる。

これは間違いなくカレンが作る魔力回復ポーションよりも上のランクのポーションだった。

魔力回復ポーションを飲むと、カレンは汚れた格好を着替えもせずにベッドに横になった。

まぶたを閉ざす寸前、ライオスと入れ違いに入ってきたユリウスと目が合った気がした。

「二刻で、起こしてください……」

呟くようにお願いして、カレンは泥のような眠りに落ちていった。

「カレン、起きられるかい?」

優しい声。揺り動かされて、カレンはゆっくりと重たいまぶたを押し開けた。

まだ眠たいが、体はだいぶ回復していた。

天幕の中に薬香が焚かれているおかげだろう。また、魔力回復ポーションと睡眠のおかげで寸胴鍋一杯分の万能薬を作れるぐらいは魔力が回復していた。

「ユリウス様……起こしてくださって、ありがとうございます。そちらにある料理って、わたしのですよね?」

「温め直させることもできるが――」

「あまり時間がないのでこのままいただきます」

ベッド近くの机におかれていたトレーの上には冷めた麦粥が載っていた。

カレンはマナーに配慮せず、速さだけを重視して大口を開けて麦粥をペロッと平らげた。

「湯殿の準備はできているよ。案内しよう」

「お願いします」

岩に囲まれた区画にある温泉に到着すると、カレンは言った。

「ユリウス様に見張りをお願いしてもいいですか?」

「ああ、私は外で見張りをしているよ。万が一魔物が現れた時に君を一人では危ないので、湯殿には今回被害を免れた女性騎士が待機してくれている」

「湯殿での見張りをユリウス様にお願いしています」

「――それは」

「背中を向けてはもらいますけどね。ユリウス様と話がしたいんです」

カレンは湯殿に入っていく。中には見張りの女性騎士が立っていて、カレンに気づくと目礼をした。

振り返ると、ユリウスは湯殿には入らずに立ち止まっている。

最期になるかもしれないから、話をしておきたかった。

だが、最期になるかもしれないなんてユリウスは知らない話だ。カレンが言っていないのだから。

カレンが諦めてユリウスから視線を逸らそうとした瞬間、ユリウスがカレンの肩を掴んだ。

「君が望むのならば私が見張りをしよう。だが、君の名誉に関わることだ。君はそれで本当によいのか?」

「構いません」

カレンは目を細めて微笑むと、戸惑う女性騎士に湯殿の外に出ていってもらった。