軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

いびつな自慢

「――つーわけで、イザークが死ぬ前に口にした犯人像に当てはまるやつがこの階層には大勢いて、しかもそいつらと親戚関係にあるやつがダンジョン調査隊の中にワラワラいやがる。仮におまえらの親戚が犯人だった時に情報が筒抜けにならねーよう、オレの方で先行調査してたってワケだ。なんか質問はあるか?」

「どうしてその錬金術師を抱いている?」

怪訝な顔をしたボロミアスからの問いに、トールに抱っこされているカレンは手で顔を覆った。

トールは平然と答えた。

「ねーちゃん寝込んでたから、歩くとフラフラするんだよ。危なっかしーから、抱っこして運んでやってんの」

「ハァ……なるほど……」

カレンが指の隙間から見た限り、まったく納得していない顔で納得してみせると、ボロミアスは次の話題に移った。

「ユリウスはその中の一人であるエーレルトの貴族に会いに行き、行方不明になったと言うのだな?」

「その可能性が高い。そいつが犯人なのか、それとも別の犯人がユリウスが勘づいたと思って何かしたのかはわかんねーけど。アンタらも自領の貴族を問い詰めたくてたまらないだろーが、ユリウスと同じ轍は踏むなよ」

ボロミアスの天幕の中、会議に参加していた貴族たちはばつが悪そうに目を逸らした。

この場にいるのは各騎士団の長たちであり、責任者たちだ。

万が一にも自領の貴族がダンジョンの異変に関わっていては困るから、何らかの対処をしたくてたまらないだろう。

トールがそれをさせないために黙っていたと主張し、無事にその言い分が通った形だ。

カレンのため、エーレルトのために黙っていたと思われずに済んで、カレンはトールの腕の中で静かに胸を撫で下ろした。

「では、身内による証拠隠滅の疑いを排除するためにも、公開尋問を行うこととしよう。まずはエーレルトのブラーム伯爵から尋問を行おうと思うが、皆もそれで構わないな?」

ボロミアスの言葉に誰も反対はしなかった。

この場には、唯一反対しうるユリウスがいないから、そうなるだろう。

ヴァルトリーデの護衛として参加しているテレーゼだけが複雑そうな表情を浮かべ、他の貴族たちは安堵の表情を浮かべていた。

ギュンターはそんな貴族たちの顔を無表情で眺めている。

「それでは、ブラーム伯爵の下へ向かい調査への協力を要請しにいくが――おまえはその状態で付いてくるのか? 鮮血の雷よ」

「うん」

トールはあっけらかんと応え、ボロミアスは頭痛をこらえる表情になる。

カレンはボロミアスの訴えかける眼差しから逃げるために目を閉じた。

事件に直接的に関係がない、Cランク錬金術師とはいえ戦う力がなく、立場がそれほど高いわけでもないカレンには尋問の場に立ち会う権利がない。

その場に立ち会うためにも、カレンは頑としてBランク冒険者であるトールの腕から降りる意思がないことを示した。

カレンを追い出したいなら、ボロミアスはトールを説得するしかない。

「……まあいい。トリスタン、行くぞ」

「はい、殿下」

諦めた様子のボロミアスにカレンが目を閉じたまま小さくガッツポーズを取ると、舌打ちされた。

薄目を開けて見ると、なんと舌打ちの主はボロミアスだった。

ガッツポーズを見ていたらしいが、王子様なのにお行儀の悪いことである。きっと王国騎士団内で学んだのだろう。もしかしたらライオスあたりから学んだのかもしれない。

カレンはそっと目を閉じて何も見なかったことにした。

「ユリウス殿? 知りませぬなあ」

ホルストはホカホカしながら言った。

ボロミアスを先頭に、カレンたちがホルストのところに到着した時、ホルストはまさに入浴中だったためだ。

入浴場から連れてこられたホルストは、「膝が悪いので失礼」と断って脱衣場の椅子の一つを持ってきて座っている。

仕方のないこととはいえ、だらしなく椅子に座る姿はニヤニヤとした笑みと相まってひどく傲慢に見えた。

「お話をお伺いするに、ユリウス殿が行方不明となり、私の仕業ではないかと疑われているのですね? いや、これは面白い! 確かに私はユリウス殿を妬み、僻んでおりますとも! 憎んでいるとすら言える。生まれながらに膨大な魔力を持った美しく高貴な青年、ユリウス殿!! あの寸分の狂いもなく整った顔を引き裂いてやりたいと、一体何度思ったことか! じわじわと苦しめて、私たちが日夜味わっている無力感を噛みしめさせてやりたいと、どれほど願い続けてきたことか!!」

ホルストの明け透けな物言いに、カレンはぎょっとした。

カレンだけでなく、ボロミアスも険しい顔をしてホルストを見下ろし、警戒の姿勢を取った。

そんなボロミアスを見て、ホルストは高笑いをあげた。

「だが、私 たち(・・) に一体何ができると思うのです!?」

ふと気づくと、周囲の者たちから視線が集まっていた。

トールが調べた情報によれば、魔力量が少なすぎて不遇を託つ者たちばかりがここにいる。

「剣の柄に手をやるだなんて! 私ごとき、王子殿下なら指先一つで一ひねりでしょうに、そのように警戒されるとはなんと光栄なことか!」

「ふざけるな、ブラーム伯爵。何か知っていることがあるのであれば洗いざらい話せ!」

「エーレルトではこの膝は、ダンジョンの 大崩壊(スタンピード) を未然に防ぐための探索中に負った怪我がもとだと思われております」

ホルストは膝をさすりながら言う。

突然身の上話をはじめたホルストに、ボロミアスは顔を歪めた。

「一体何の話をしている!?」

「ですが、実は私が自ら膝を砕いたのですよ! 当時パーティーリーダーであらせられたヴィンフリート様亡き後の私には、ダンジョン探索など荷が重い! 私はヴィンフリート様の活躍を謳うためだけに連れられていた吟遊詩人、道化でしかなかったのですから! ゆえにダンジョンで怪我をしたふりをして、わざと治さなかった! 私を見つけた者に治されてしまわぬように、砕けた膝の痛みに耐え、一週間隠れ続けた! これからも英雄と呼ばれ続けるためとはいえ、なんとも惨めな一週間だった――そんな私がユリウス殿に一体何ができると思う!?」

己の弱さ、醜さを吐露するホルストの言葉に嘘はなかった。

それでもカレンは、そしてその場にいる誰もが、ホルストが 何かした(・・・・) のだと確信した。

すべてを曝け出すホルストは、満面の笑みに喜悦を滲ませ得意げだった。

こんな自分の刃がユリウスにまで届いたのだと、まるで自慢するかのようだった。