軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

捜索開始

ヴァルトリーデが出ていくのを見送り、カレンはベッドから立ち上がった。

長らく寝ていたせいでふらつくカレンをトールが支える。

カレンは礼を言い、スリッパを履くと、天幕の端にある箱を開いた。カレンの荷物入れである。

替えの服を引っぱり出し、寝間着を脱ぐカレンを気にせずトールは話し出した。

「魔物を呼び出した犯人についてはねーちゃんも聞いただろ? どこで魔物を呼び寄せる黒い石を手に入れたのかオレとユリウスで聞いたんだよ」

「商会で手に入れたんじゃないの?」

「もしそうだとしたらグーベルト商会全体が真っ黒だな。でも、アイツはそういう言い方はしなかった。杖をついたチビの男の貴族って言ってたんだ。オレもユリウスも、嘘は吐いてないって思ったよ」

「……杖をついた背の低い貴族男性」

カレンはシャツに袖を通しつつ、真っ先にホルストを思い浮かべた。

同じように、ユリウスもまたホルストを思い浮かべたのだと簡単に想像がつく。

「ユリウスが、この情報を聞いて思い当たる節があるって顔をした。ユリウスは詳細については言葉を濁して、オレが付いてってやろうかって聞いたら、『相手は魔力をほとんど持ってないし膝を故障しているから問題ない』って言ってたんだ。ユリウスがこう言って会いに行きそうなヤツについて調べたら、ホルスト・ブラームってやつが今ダンジョンにいるじゃん。コイツがエーレルトのヤツだから言葉を濁したし、一人で会いに行ったんじゃねーかな」

「そうだね。わたしもそういう流れだと思う。こんな事態にエーレルトが関わっているだなんて思われたら、困るもん」

「やっぱ、ねーちゃんも困るのか」

カレンは照れるべきか一瞬混乱したあと、真剣な顔をしている弟を見て真顔でうなずいた。

「うん、困る――だけどユリウス様が帰ってこない方が困るよ。だからみんなに、この情報を共有しよう」

スリッパを脱ぎ、靴下とブーツに履き替える。

ホルストがもしも怪しげな魔道具らしき黒い石をイザークに渡した犯人だったとして、ユリウス相手に一体何ができるだろうとカレンも思う。

同じように魔道具を使うとしても、警戒しているユリウスの敵となるだろうか。

ホルストは、今回の件とはまったく無関係の可能性がある。

だが、可能性が少しでもあるなら手当たり次第に確かめたいし、使える人員は最大限に確保したい。

「じゃあ、もう一つオレの方で調べがついてる情報をねーちゃんに教えとく。上手く使えばエーレルトの責任にはならないはずだ」

「情報って?」

「杖を突いた背の低い貴族の男。この条件に当てはまるヤツで、ダンジョンのこの階層にいるヤツは、ホルストだけじゃない」

「そうなんだ? でも、ブラーム伯爵がやった可能性が高い犯罪の濡れ衣を、他の人に着せるようなことはできないよ?」

「濡れ衣じゃなさそうだったら、どうだ?」

「えっと、ブラーム伯爵よりもっと首謀者っぽい人がいるってこと?」

トールは「うーん」と首をひねりつつも横に振った。

混乱するカレンに、トールは「オレもよくわかんねーんだけどさ」と前置きして言った。

「調べてみたらさ、あの商人野郎が言ってたチビの杖を突いた男性貴族って条件に当てはまりそうなやつが、他にも十人以上いるんだよ。身長が平均以下って意味じゃなく、あの商人より背が低いって意味なら二十人以上いる。色んな領地の貴族たちだ。しかも、そいつらはホルストを含めてみんな湯治仲間で、お仲間だからかどいつも似たような杖を持ってて、魔力量が少なすぎてそれぞれの領地で冷や飯を食ってるやつらばっかりなんだ」

カレンは妙な背筋の薄ら寒さを覚えた。

トールも眉を顰め、不快感をにじませている。

「どいつもこいつも、ダンジョンで何かできそうなやつじゃないんだよ。見ただけでわかる。ものすごく弱いやつらだよ。スライムとだって戦ったら死ぬかも。ダンジョンのひとかけらにでも影響を与える権利を持っているようには見えない。女神がその権利を与えるとは思えない。だけどさ、なんか、怪しいよな?」

「……ものすごく、怪しいね」

「だけど、誰一人として、ダンジョンで何かできそうなやつらじゃない……護衛がいたからって、コイツらに何ができるって言うんだ?」

「魔力がなくても、できることはあると思うよ? 色々と」

カレンはハラルドを知っている。

魔力がなくてもとてつもなく記憶力がよく頭のいい子だ。

「だけど、ここはダンジョンの中だぜ、ねーちゃん」

トールがカレンに対していつになく強い口調で言う。

ぽかんとしているカレンにハッとした顔をしたトールはへらりと笑って言った。

「ともかく、ユリウスが会いに行ったのはホルストだろーけど、ホルストが魔物寄せの犯人だとは限らねーってこと。だからエーレルトが悪いかどうかはわかんねーって話な」

トールはポーチの中身を確認していたカレンのピアスに手を伸ばした。

「魔力をこめると熱を発する救助要請の魔道具だな。ユリウスとペアになってたはずだよな?」

「うん……わたしが寝てる間にユリウス様が助けを求めてきてたのに、わたしが気づけなかったんだとしたら、どうしよう」

「それはねーよ。この手の魔道具はこめた魔力がなくなるまでずっと熱を発し続けるし、光る種類なら光り続ける。どんだけ魔力量が少なくとも、一週間かそこらは熱を持ったままになるだろ」

「それじゃ、ユリウス様はまだ助けを求めるような状況じゃないってことだね」

カレンはホッと胸を撫で下ろしたあと、以前思いきり魔力をこめてしまった時のことを思いだした。

あのピアスは、ユリウスの方でずっと熱を持ったままだったのだろうか――。

「まー、男には意地があるから、どんな状況でもねーちゃんに助けを求める気がないってだけの可能性もあるけどな」

トールは肩を竦めてカレンを現実に引き戻した。

カレンは唖然としたあと、明後日の方角をギロッと睨んだ。

「……もし助けが必要な状況なのに意地を張って助けを求めてないなら、たとえユリウス様といえども説教してやる」

「おお、ユリウスはねーちゃんを怒らせたな」

トールはおかしげに笑ったあと、真剣な顔つきに戻った。

「実はユリウスが翌日に戻って来なかった時点で、オレは調査を始めて、午後にはホルストの存在を突き止めて、パーティーメンバーに交代で見張らせてる。優雅に湯治を楽しんでいるだけにしか見えねーらしい。が、どうする?」

「まずはトールの情報をみんなに共有してから、ホルストに話を聞きに行く」

「よし。じゃ、ここ数日黙ってた理由はオレが上手いこと王子サマに伝えるから、ねーちゃんはそれに合わせといて」

「助かる。色々とありがとう、トール」

カレンはマントを羽織り、いつもならなくしたくなくて外しているブローチを身につけた。

Cランクの錬金術師であることを利用しなければならない場面があるかもしれない。

トールはマントの襟に巻き混まれてくしゃっと乱れたカレンの後ろ髪を梳いて言った。

「礼はいらないって。家族だし――ユリウスはオレの義兄になるかもしれないもんな?」

「それはまだわかんないけどね!?」

にやりと笑うトールに顔を真っ赤にして抗議したあと、カレンは咳払いして気を取り直し、決然とした面持ちで天幕を出発した。