軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

首謀者の疑い

「あの男はどうなったんだい?」

「それよか、ねーちゃんはどうしたんだ?」

ユリウスの問いに、イザークを捕らえた天幕に向かうトールは問いで返した。

ずっとユリウスの腕の中にいたカレンがいないことが気になったらしい。

結果的にユリウスが折れて「カレンならヴァルトリーデ殿下と同じ天幕で寝かせてもらっている」と応えた。

「ああ、セプルが言ってたねーちゃんの友だちか。なら安心だな」

「うん? 友だち?」

「それで、イザークって野郎がどうなったかって話だったな」

トールから気になる話題が飛び出した気がしたものの、ユリウスは気を引き締め直して本題に耳を傾けた。

「半刻くらい前から、『助けて』じゃなくて『殺してくれ』って言うようになってきたぜ」

「……何か情報は?」

「これから聞きに行くとこ。さっきまでは情報を盾に取って、話して欲しけりゃ助けろの一点張りだったからさ」

「死を願うほどの苦痛に苛まれているのなら、苦痛の終わりと引き換えに話す、か」

「そーいうこと」

イザークの扱いは保留となった。

天幕の一つに隔離し、ボロミアスたちは今後の対処のために会議を続けている。

トールは貴族たちが結論を出すのを待たずに度々イザークを拘束している天幕を訪れているようだった。

「また来たぜ」

見張りの騎士たちはトールの姿を見るとむしろほっとした顔になる。

特に止めることもなくトールを天幕に受け入れた。

ユリウスもそれに続いた。

「あいつらも不安なんだろ。さっきは触れるだけで害が及んだが、もっとひどくなったら近くにいるだけでどうにかなるかもわかんねーし」

「そうだろうね。Bランク冒険者の君が様子を見に来てくれるだけで、彼らは安心するのだろう」

「それがわかってんならオレを勝手に入れてること、咎めるなよ」

見張りの騎士たちを気づかうトールに、ユリウスは頬を緩めた。

「ああ。エルダートレントを倒した私が無理を言って押し入ったことにしてもいい」

「Bランク冒険者のオレが押し入ったことにしてもいいぜ。ま、そのあたりは臨機応変に、だな」

「ウウ……」

呻き声が聞こえ、トールはストンと表情を落とした。

垂れ布の仕切りの奥にイザークがいた。

茨が体中に入り込んでうごめいているようで、その度に激痛が走るらしい。

だが、声をあげることもできないでいる。

声をあげればその衝撃でまた痛みが走るようだ。

「殺して……くれ……もう、もういいから……」

トールは恐れ気もなくイザークに近づくと、にっこりと優しく微笑んだ。

「おまえを殺してやる」

「本当、か?」

「ああ。だっておまえ、オレのこと殺そうとしたんだろ? ねーちゃんのことも殺そうとしたんだろ? だったら、貴族どもがおまえを苦しめてでも実験のためにおまえを生かしておきたいと考えても、オレはおまえを殺したい」

「アア……!」

「だが、その前に教えろ。この石に魔力をこめろって言ったやつは誰なんだ? おまえが自力で調達したもんじゃないだろ、これ。扱い方もわかってなかったみたいだし」

イザークはトールの言葉に被せるようにして言った。

「チビの、男……! 灰色の髪をした、貴族……! 杖を、ついて……ッ、これさえ、あれば、邪魔なやつ……ッ、いなくなると……!」

「それ以上の情報は?」

「ない……! いや、妙に気配が薄かった……」

「ふうん、そっか」

「殺して、くれ……!! 早く……!!」

「やなこった」

「は?」

トールはイザークから身を引いた。

「オレだけならともかく、ねーちゃんを殺そうとしたやつを楽に死なせるわけねーだろ?」

「そん、な――」

「行こーぜ、ユリウス……ユリウス?」

トールは動かないユリウスの顔を覗き込み、眉をひそめた。

「……ひとまずこっから離れるぞ、ユリウス」

トールはユリウスを引っぱり天幕を出て、ひと気のない森の傍までやってくると言った。

「あんた――なんか心当たりがあるんだな?」

「ああ……思い過ごしであればよいのだが」

「まさか、ねーちゃんに関わりある?」

熟練の冒険者たちにも一目置かれ、年上の騎士たちにも強者としての配慮を見せるトールが年相応に情けなく眉尻を下げた。

ユリウスは微笑ましさに笑ってしまわないよう顔を引き締めた。

「カレンに後ろ暗いところはない」

「そっか……よかった。ねーちゃんって、あんたも知ってると思うけど、なんでそんなことを知ってんのかわからないことを知ってることがあるからさ……」

ユリウスは目を瞠った。カレンが持ついくつかの謎の知識について、Bランクの冒険者である弟のトールがいたことが判明した今、トールからの知識ではないかと想像しているところがあったが、どうやら違うらしい。

「これ、あんただから言ったんだから、余所で言うなよ」

「ああ……たとえカレンが何と関わりがあろうと、エーレルト伯爵家はカレンを支持する意向だよ」

「何と関わりがあろうと、か」

もしかすると、弟のトールもカレンが『暗夜の子どもたち』という組織と関わりがあるのではないかと考えたことがあるのかもしれない。

「トールくんの今の言葉は、家の者にも話さないでおく。君の存在がカレンの防波堤となるだろう」

トールは目を丸くして、口を押さえた。

「なるほど……オレ由来の知識だって思うやつもいんのか。なら、ねーちゃんはすごいんだって、あんまり言いふらさない方がいいか?」

「そうだね。Bランクの冒険者でしか知り得ない情報なのかもしれない、それを教えてもらっているのかもしれない――周囲の者にはそう思わせておく方がいいだろう。カレンにもし探られると痛い腹があった場合、矛先を逸らすことができる」

「助言、助かる。なるほどな……」

トールはカレンがいるヴァルトリーデの天幕に向かおうとした。

だが、ユリウスは道を違えた。

「どこ行くんだ?」

「首謀者の可能性がある者に、話を聞きに行く」

「おい、一人でかよ。だいじょーぶか? ついてってやろうか?」

「相手はほとんど魔力を持たず、膝を故障していて、戦う力も持っていない。今回の事件に関わりを持っているかどうかも怪しい者なのだ」

「膝を故障……それで杖、か」

「政治的にならともかく、ダンジョンにおいて私が彼に負けることなど万に一つもありえない。彼らはうら若い令嬢の化粧品に毒を混ぜて陰湿に苦しめることはできても、私と戦って勝つことは決してできないだろう」

いっそ正面から向かってきてくれるのであれば楽なのにと、何度思ったことだろう。ユリウスは溜め息を吐いた。

小男、杖を突いた灰色の髪をした貴族の男――ホルストが何か知っていたとしても、のらりくらりとかわされる未来しか見えない。

だからといって、イザークの証言を見過ごすわけにはいかなかった。

「なので、心配する必要はない」

「そっか」

ユリウスがエルダートレントを倒した姿について、トールは知人の冒険者たちから聞き及んでいるし、実際に手合わせをしてその実力の片鱗を味わってもいた。

だから、トールはあっさりと見送った。

だがユリウスはそれから何日経っても戻ってくることはなかった。