軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

仲裁者

呼び出されたカレンは、騎士と冒険者のトラブルの渦中に頭から突っ込んでいった。

「はいはいはい、ちょっと止まってくださいね!」

「カレン姐さん!!」

「わたしはあなたたちの姉ではありません」

カレンを姐さん呼びしたのは冒険者たちである。カレンがそちらにジト目を向けると、騎士たちの姿を確認した。

双方大きな怪我はなく、カレンは息を吐いてから言った。

「ボロミアス王子殿下から冒険者の管理監督を仰せつかったヴァルトリーデ王女殿下から派遣されて参りました、カレンと申します。皆様、状況をお聞かせいただけますか?」

カレンは王国騎士の方に訊ねた。冒険者たちは放置である。

トールが一体何を言いふらしたのか、再会した日を境に冒険者の中でもDランクの人たちが何故かカレンを『姐さん』呼ばわりしはじめた。

Cランクはまだ普通だが、ギュンターは明らかにカレンに対する態度が丁重になった。

数少ないBランクの人たちとはトールのパーティーメンバー以外とはあまり関わり合いにならないので、よく知らない。

ともかく、カレンを姐さん呼ばわりするということは彼らはDランクの冒険者である。

放置しておいても従順に待っていてくれるので、そちらは放っておいてカレンは騎士の対応に専念することにした。

騎士たちは借りてきた猫のようになった冒険者たちを胡乱な目で見やってから、カレンを見下ろした。

「この者たちが、私たちが探索区域を越境したと言いがかりをつけてきたのだ」

「言いがかりじゃありませ~ん!」

「ちょっと黙っててもらえます?」

「ハイッ! すんません!」

カレンにピシャッと言われて背筋を正す冒険者の姿に、騎士たちは眉をひそめて言った。

「もしや彼らは何か悪いものでも食べたのか? それとも魔物の影響か? だとするなら、早く治療した方がよい。越境問題については後で解決しよう。早くポーションを飲みなさい。手持ちにないのであれば融通しよう」

「いえ、彼らはそういうのじゃないので大丈夫です」

冒険者たちが魔物の影響でおかしくなったと思ったらしく、騎士たちが気遣わしげに言う。

まともな騎士に気づかわれた冒険者たちは、毒気を抜かれた顔でお互い顔を見合わせた。

「……それじゃとりあえず、お互いの探索区域の確認でもします?」

冒険者の申し出に、貴族たちもうなずいた。

「そうしよう。もしかすると、誤解があるのかもしれないな。しかし、本当に大丈夫なのか?」

「冒険者に上下関係はなくっとも、人間関係ってのがあるんすよ」

「なるほど? 人間、どこでも同じようなものなのだな」

何やら丸く収まってお互いの探索区域を確認しあった結果、王国騎士たちが探索区域を越境していることが明らかとなった。

「これは、すまないことをした。詫びをしよう。君たちの所属と名前を教えてもらえるか?」

「いや、気にせんでください。どうも今の岩の迷宮、常より更に迷いやすいんですわ」

「前回の会議の場で聞いた話だな。ゆえに、一人に壁に手をつかせて歩いていたのだが、どこで迷ったのだろう」

「なるほど、壁に手をついて歩いても迷う、と。冒険者の側でも検証してみますわ」

「貴族側には私たちの越境について周知しておく。どちらが越境しているか判明するまでは余計なもめ事を起こさぬように、まずは冷静に話し合えるように場を整えよう」

「そいつは助かりますね。こっちが越境する可能性もあるんで、こっちでも言っておきますよ」

「カレン殿、仲裁に入っていただきありがとうございました」

「理解し合えたようで何よりです」

「俺たちも失礼しますっ!」

「しまっす!」

礼を言う王国騎士と礼儀正しい冒険者たちを見送っていたカレンに、トールが近づいてきた。

ユリウスを避けるとなると、ダンジョン内で護衛をしてくれる人がいなくなる。なので、カレンはトールについてきてもらっていた。

冒険者たちが大人しかった最たる理由である。

カレンは眉尻を下げて言った。

「トール、もしかしてトールの探索区域に入ってきた近衛騎士たちも、悪気があったわけじゃなかったのかもしれないね……」

「だとしても、うちの魔法使いを強姦しようとした馬鹿の首を一瞬とはいえ斬り落としたことを逆恨みして、仇討ちとかしてくるやつらだぜ?」

「襲われかけたの、ワンダさんだったんだ」

「ま、一蹴だったけどな。で、仇討ちとやらを蹴散らしたら、お次はオレの家族に手を出すと言いやがる。救いようはなかっただから、あいつらのことなんか気にすんなよ、ねーちゃん」

「そっか」

八階層に入ってから、冒険者と騎士たちのもめ事はいや増した。

だが、幸いにも冒険者たちがカレン――カレンの背後に控えるトールに遠慮してくれるため、もめ事は最小限に押さえられている。

「それじゃ、王女様のところに戻るか?」

「うん、そうだね」

カレンがヴァルトリーデに事の次第を報告して指示を受けて天幕を出ると、そこにはユリウスもいた。

共にいたトールがカレンを見て言う。

「ユリウスに報告しといたぜ、ねーちゃん」

「ありがとう、トール」

「カレン、私は君と話がしたいのだが、時間はあるかい?」

「仕事がありますので後でいいですか? ヴァルトリーデ様からご命令を受けているんです」

これは本当のことだった。カレンは手に持っていた資料をユリウスにも見せた。

「見てください。ダンジョンの地図なんですけど、これまでに騎士と冒険者の衝突があった場所に印を付けていったものです」

「これは……この場所を囲っている?」

「そう見えますよね? トールによればここの囲われたところって、少し拓けた台地になっている場所なんだそうです」

トラブルがあった場所に印をつけていくと、ある場所を囲うように歪な円形になった。

「意図してこの円形の場所に向かおうとしたんですけど、道に迷ってしまって辿り着けませんでした。トールの案内があってもです」

ユリウスがトールを見やると、トールは応えるようにうなずいた。

「オレ、八階層を探索するのが久しぶりだし、このあたりは下層に向かう門につながる道でもないし、ただ迷ってるだけかもとも思ったんだけど、こんな時だし何かあるかもって思うべきだろ? この階層について詳しく知りたかったらEランクの冒険者を呼んで聞いた方がいいと思うぜ。オレだけじゃなくDランク以上は、こんな場所でぐずぐずしたことないからさ」

「このこと、ボロミアス王子殿下に伝えるようにヴァルトリーデ様に言われたんです」

「私がトリスタン殿に伝え、トリスタン殿からボロミアス殿下に報告をあげてもらおう」

カレンから地図を受け取ったユリウスは、険しい顔をしてすぐに駆け出した。

何か用があったようだが、緊急の用ではなかったらしい。

「ねーちゃんって、たまにものすごーく頑固になるよなぁ」

「何のこと? トール」

「別にー」

とぼけるトールに唇を尖らせつつ、カレンもこれからの事態に備えるために動き出した。