軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

呪術師集団

俺たちは宿に入った。

主人に話しかけ、手続きをする。

宿帳を書き終えると主人が顔を上げた。

「お二人は傭兵なのですね?」

「ええ。傭兵ギルドには、まだ未登録ですが」

未登録の傭兵もたくさんいると聞いた。

不自然さはないはずだ。

「訪れた目的はやはり 血闘場(けっとうじょう) ですか?」

「目的の一つではあります」

もちろん嘘だが。

血闘場の話はセラスから事前に聞いている。

奴隷や傭兵が殺し合う闘技場。

古代ローマの剣闘場みたいな感じだろう。

戦う者は” 血闘士(けっとうし) ”と呼ばれるそうだ。

セラスはこう説明した。

『今では民衆の娯楽の側面が強いですが、その起こりは傭兵団が入団させる戦士を品定めする場だったようです。もちろん、今でも傭兵として引き上げる文化は残っていると聞きます』

なので傭兵が血闘の観覧目的でモンロイを訪れるのは珍しくないらしい。

『試合に勝てば報酬があります。ですので食い扶持に困った傭兵が出場することも多いようですね。人気の血闘士は所有者にとってよい稼ぎ頭にもなりえますので、傭兵団へ売らず人気者としてあえて血闘場に置いておくこともあるとか』

運営母体は二つ。

ウルザの公爵家。

傭兵ギルド。

それにしてもセラスを引き込んだのは正解だった。

この世界の大抵の基礎知識は知っている。

歩く人間辞書。

いや、エルフ辞書か。

「傭兵ギルドってのは色んなトコに噛んでんだな」

俺は書状マークの看板を眺めて言った。

今は宿を出て、セラスと大通りを歩いている。

「ギルドは国を 跨(また) いで存在しています。国を渡り歩く傭兵にとっては、頼りがいのある組織ですね。特に傭兵ギルドと魔術師ギルドは、各国での影響力も大きいようです」

傭兵ギルドか。

確かミルズ遺跡の探索にも噛んでたな。

俺たちはまず道具屋へ足を運んだ。

なるべく持ち運びやすそうな器具を揃えた。

セラスの値切りは、変わらず冴えていた。

道具屋を出たあと俺は懐の小袋に触れた。

中には青竜石が入っている。

換金は――やめておいた。

市場へ出回れば少なからず話題が広まる。

当然、売った者も話題になるだろう。

無意味に目立つのは避けたい。

小袋の口をしめる。

幸い懐は、まだまだ温かい。

廃棄遺跡のペア骸骨から得た金。

セラスを追っていた四人組から奪った金。

ミルズ遺跡で得た宝石&装飾品の高価買取。

合計するとけっこうな額になっていた。

金銭面では恵まれている。

路銀の心配がないのはありがたい。

とはいえ、節約は必要である。

「相変わらずあんたは値切り交渉が上手いよな」

値切り交渉になるとセラスはチョロくない。

露骨な威圧はせず。

物腰は柔らかに。

が、折れないところは絶対に折れない。

セラスは苦笑する。

「ケチくさい性格なのですよ」

「倹約家と言うべきだな。卑下することじゃないだろ」

フッと笑むセラス。

「我が主は、配下の心を掴むのがお上手ですね」

もう意識はすっかり配下状態らしい。

「ところで、ミルズ遺跡で見つけた黒い卵のこともできれば調べてみたいんだが」

ここモンロイには公開書庫があるそうだ。

簡単に言えばお国の図書館みたいなものか。

「そこって、誰でも自由に出入りできるのか?」

「モンロイの公開書庫は、確か――」

記憶を呼び起こすセラス。

「非認可の王都民ですと、許可証の発行が必要だったはずです。一日だけ有効の」

黒い卵のことは辞書エルフでも知らなかった。

なら公開されている書物に載っている確率も低い、か。

「卵のことは、目的地にいる人物に聞いてみるのがいいかもな」

禁忌の魔女なら、何か知っているかもしれない。

俺たちは酒場で夕食をとることにした。

情報収集も兼ねての酒場行き。

盛り場は最新の話題を得るには絶好の場だ。

二人で大きめの酒場に入った。

まずハーブ水と料理を頼んだ。

酒は飲まないが、一応これも頼んでおく。

場に溶け込むためだ。

異世界なので未成年云々は関係ないかもしれない。

ただ、実の親のせいで俺は酒にいい印象がない。

だから酒は嫌いだ。

酒自体に罪がないのは、わかっていても。

ちなみにセラスは少し飲めるそうだ。

食事をとりながら、俺は聞き耳を立てた。

近くの席の会話が聞こえてくる……。

「おい、聞いたかよ?」

「うぃぃ〜……ん? 何をだよ?」

「黒竜騎士団の話だよ」

「またその話かよ」

「違う違う。壊滅させたやつの話だ」

「お? 何か新情報でも出たのか?」

「こいつは、王城の人間から流れてきた話らしいんだがな?」

「ほほー、そいつは信用できそうだなっ」

関係者筋によると、ってやつか。

「壊滅させたと思われていたセラス・アシュレインは、もう死んでるらしい」

セラスの表情が急に苦しげになった。

「むぐっ!?」

食べものを喉に詰まらせたらしい。

「むぐ、ぐ……ッ」

水を差し出す。

「大丈夫か?」

セラスが水を飲み、ひと息つく。

「ありがとうございます……も、申し訳ありません」

急に自分が死んだなどと言われたのだ。

不意をつかれて驚いたのだろう。

男たちはこちらを気にせず話を続けた。

「五竜士と相討ちになったのか?」

「いや、どうもセラス・アシュレインは普通に負けて死んだっぽいんだよ」

「え? じゃあ誰が五竜士を?」

「へへ、やっぱまだ知らなかったか。五竜士を死に至らしめたのは、アシントって話だ」

アシント?

「このところ噂になってた呪術師集団かっ」

「ああ。五竜士は自分たちの呪術によって命を落としたと、そう主張して回ってるらしい」

セラスと視線を交わす。

声を潜める。

「どう思う?」

「このところ、呪術の噂は各地で流れていたようです」

「呪術ってのは一般的なのか?」

「いえ、一般的ではありません」

セラスが軽く説明してくれた。

術式。

詠唱呪文。

一般的に知られているのはこの二つ。

あえて三つ目を入れるなら、勇者の”スキル”だそうだ。

「精霊術ってやつは?」

使用者の絶対数が少ないのもあってマイナーな部類らしい。

そういえばミルズの酒場客も曖昧な認識だった。

そもそも精霊術を使えるエルフ自体、レアな存在っぽいしな……。

呪術が広まったのは最近とのことだ。

広めているのは、アシントという呪術師集団。

「 呪神(じゅしん) を崇拝している集団と聞きました」

「要は、自分たちの呪術を売り込みたいわけか……」

五竜士を殺した犯人役。

自ら引き受けてくれるならいいかもしれない。

当然、いずれはバレるだろう。

が、犯人捜しを多少はかく乱できるはずだ。

異世界の情報網がどの程度かはわからないが……。

まあ、明日にはどうせ魔群帯に入る。

それまでの時間稼ぎになればいいか。

ちなみに、そのアシントとやらは今どこに――

「私たちは、アシントの 守(も) り 人(びと) !」

酒場の扉が大仰に開け放たれた。

「我々は呪神の落とし子たるムアジさまを守りし 呪兵(じゅへい) です! さあ、席をお空けなさい!」

紫のローブを着た集団がゾロゾロと入ってきた。

例の呪術師集団。

ウルザにいたらしい。

「へぇ」

スプーンをくぐらせ、俺はスープを掬った。

「あれが五竜士を呪い殺したっていう、呪術師集団か」