軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そして今日も、その名を呼ぶ

テーゼが天界へ帰ってから、どのくらい経っただろうか――

俺はまだ、アライオンの王都エノーにいる。

半神となってからもそれなりに時間が経過した。

最初は違和感も多少あったが、今はもう半神の状態にも慣れた。

今は、

”寿命が長くなって、見た目も当面そんな変わんなくなるんだな”

くらいの認識である。

蠅王のマスクを被る機会は減った――、

……のだが、今も”蠅王様”や”蠅王殿”と呼ばれることは多い。

ロキエラは正式にヴィシスの代わりとしてその存在を公にした。

ストーリーは創ったので反発もほぼなかった。

暴走したヴィシスを止めにきた神族、と喧伝した。

ロキエラが俺たちと協力し巨大な邪悪ヴィシスを討った――と。

ミラ帝国発端の女神討伐軍の動きは広く知られていた。

ゆえに、嘘のストーリーでもない。

”正しき神と正しき人々が間違った神を討伐し、世界を救った”

創ったとはいえ、決して的外れでもないストーリー。

蠅王が”正しい”ってのは、いささか腹落ちが悪くもあるが。

各国も現状は落ち着いている。

どこも復興メインって感じだ。

国と国の交流も活発になっている。

新たに最果ての国が得た領土も今のところ順調。

周辺の貴族や民との目立ったトラブルは確認されていない。

現在は、

”世界を救った亜人や魔物たち”

こう認識されている。

本番はこの”魔法”が切れてきた時だろう。

あと、元々ミラが匿っていた形の亜人兵団――亜人たち。

彼らはミラ西部に残る者、最果ての国に行く者とで分かれた。

こちらも現在のところ大きなトラブルは聞こえてこない。

あいつら――特にリィゼあたりが奮闘してるんだろう。

リィゼからはたまに軍魔鳩で手紙が届く。

……いや、手紙を書いて送ってくるのはいいんだが。

最果ての国の運営関係が3割。

残りの7割が、

”手紙でやるレベルなのか……?”

な雑談(それも手紙なので、一方的な)なんだよな……。

……今度ムニンやイヴたちを連れて、ちょいと足を運んでみるか。

久々に最果ての国のヤツらとも会いたいしな。

ジオも手紙で”生まれた子どもに会わせたい”と書いていたし。

ムニンたちも、このエノーで楽しくやっている。

娘のフギも、リズやニャキとすっかり仲よしになった。

毎日、本当に楽しそうだ。

ただそこにニャキの姉妹も加わると、ものすごく騒がしくなるが……。

イヴは土地と家を手に入れ、王都のすぐ近くで農業をやっている。

というか、今だとそこは小さな集落みたいになっている。

エリカも王都にセカンドハウスを持っているが、メインの家はそちらだ。

いや……魔群帯の家まで入れればサードとセカンドになるのか。

当然リズも、イヴと一緒に暮らしている。

その暮らしは、二人が夢に思い描いた生活だ。

つーかあの二人の生活基盤に関しては俺が動いて、下地を完璧に整えた。

権力ってのは、こういう時にこそ振るうべきものだろう。

あと、イヴを定期的に城へ招き騎士たちに稽古をつけてもらっている。

で、その報酬にちょいと色をつけて渡している。

イヴも何も貢献せず金だけ貰うってのは気が引けるだろうからな。

あいつの性格だと絶対、金だけ渡すパターンは断ってくる。

”何も仕事をしていないのに、受け取るわけにはいかぬ”

とか言ってな。

なので、その稽古役は俺の方から提案させてもらった。

そもそも元モンロイの血闘場でトップを張ってた血闘士だ。

実戦経験は申し分ない。

加えて魔群帯の金眼の魔物、果ては神徒と戦った経験まであるのだ。

イヴも、

『ふむ、戦いからは身を引いたつもりだが……稽古をつけるくらいであれば、引き受けてもかまわぬ』

こう言って、最終的には承諾してくれた。

ちなみに稽古を受けている者たちからも評判は上々。

セラスの時もそうだったが、イヴは指南役とかに向いてるんだよな。

相手のよさを引き出すとか、そういう役割が。

あと、現在エリカは城の敷地内に小さな家を得て住んでいる。

そして毎日、ロキエラと共に研究や実験に勤しんでいる。

エリカを見ているとやはりこっちに連れてきてよかったと思う。

ロキエラも、

『ほんと頼りになる相棒だよ、エリカは』

そう喜んでいる。

ただ、エリカは城の研究室とかに泊まることが多い。

なので……せっかく得た家にあんま帰ってないんじゃねーか説は、ある。

ニャキは、ニャンタンや他の姉妹たちと暮らしている。

本住まいはイヴのいる集落。

が、ニャンタンが元々住んでいた部屋も王城内にある。

それもあってか今は、二つの家を行き来する感じになっているようだ。

そう――ニャンタンといえば、である。

現在、彼女は俺の秘書みたいな役割をやってくれているのだが……。

これが、とにかく優秀。

事務処理能力や調べ物もほぼ完璧な上、仕事が早い。

報告も無駄がなく的確。

なるほど。

ヴィシスが半神にしてまで傍に置きたがったのも、よくわかる。

さて、アライオンの国としての現状だが――

前王が殺されたため、新たな女王を擁した。

王族の血を引く幼い二人の孫。

男児の方は過剰な人見知りだった。

一度会ってみたが、あれだと人前に出るのはかなり難しいだろう。

一方、女児の方も引っ込み思案でおとなしい性格の子だった。

が、男児の方よりはまだマシと判断された。

ヴィシスは、極めて自我の薄い二人を選んで残したと思われる。

自分が、操りやすいように。

ただ、幼王に政務は難しい。

そのため、ポラリー公爵がいわゆる摂政の位置についている。

幼い女王は催事の時などに象徴として姿を見せるくらい。

他は、年相応に適度に遊びながら過ごしている。

というか俺が口を出して、そうさせた。

王族としてのアレコレを教えるのも確かに必要だ。

が、あの子は女王を押しつけられた形でもある。

だからあの年齢で”本来得られるもの”をできるだけ奪うな、と。

俺から、そう要求した。

アライオンといえば――中心戦力だった騎兵隊。

十三騎兵隊の後釜としてヴィシスが創設した新生騎兵隊は、解散。

中核戦力は元第九騎兵隊の面々を中心に再編が進んでいる。

彼ら第九騎兵隊は聖眼防衛戦で、それなりに生き残っていた。

竜化したニコや不死王ゼクトらと共に南方面で戦っていたそうだ。

『自分たちが生き残れたのは……どう考えても、ニコさんのおかげですよ……』

と、隊長のナハト・イェーガーは申し訳なさそうに言っていた。

隊長の彼も副長のスノー・ヴァンガードも、引退を考えていたらしい。

しかしニコに報いる気があるならこの話を受けてほしい、とお願いした。

正直、二人は適役だと思った。

で、二人とも今の役割を引き受けてくれた。

その分、二人がずっと支援している孤児院を今後も守る約束をした。

聖眼防衛戦といえば、剣虎団もだ。

剣虎団は、実質的なロキエラの協力部隊として活動することになった。

旧剣虎団も合流し、アライオンの拠点で仲よくやっているらしい。

ただ、アライオンの状況が落ち着いたら俺やロキエラは王都を離れる。

その際、剣虎団にはナハトたちとの連携を強めてもらう予定だ。

そう――この王都にいる皆の寿命がずっと続くわけではない。

俺やセラス、ロキエラは長い間生き続けるだろう。

しかし世代が進んだ時、俺たちは表舞台から姿を消す――その予定である。

そうして世代が移り変わったあと……

再び俺たちが表舞台に姿を現すのは、次の根源なる邪悪が降臨した時となるだろう。

「ピギーッ」

「パキューッ」

ピギ丸とスレイが、手紙を運んできた。

手紙はこいつらが連係して一緒に持ってくることが増えた。

最近はこれが自分たちの仕事と思っているらしい。

「ありがとな」

手紙を受け取り、開いて読む。

「――そうか、いよいよか」

ミラの狂美帝――ツィーネが近日、帝位を退くらしい。

退位後、俺と直接顔を合わせる機会を設けたいそうだ。

今は大魔帝降臨の影響で長らく使えなかった海路も使える。

だから、船で来るとのこと。

「直接あいつと会うのも、久々だな」

しかも聞いたところ、ツィーネの退位を残念がる国民も多いようだ。

普通に慕われている皇帝では、あったんだろうな。

ま……あいつもそろそろ、自分の人生をやってもいい頃合いだろう。

時計を見る。

このあとはロキエラとムニンと食事の予定だったな。

一応、対ヴィシスで多段禁呪作戦を目論んだメンバーでもある。

ただあの二人の、最近の妙な母親ムーブは……どうにかならないのか。

俺の過去をそれなりに知るようになって、

”母親に甘える経験も必要”

とかなんとか言って、最近はいやに母親を意識させる接し方をしてくる。

つーかロキエラはともかく、ムニンはそんな年齢でもないだろう……。

あの二人と会う前に、ナハトとスノーに会う予定もある。

俺はピギ丸を懐に入れて部屋を出て、二人の待つ部屋へ向かった。

スレイも、パキュパキュ鳴きながらついてくる。

蠅王が普段からこいつらを連れている光景はもう、誰もが見慣れている。

ナハトの相談は、セラスについての苦情(?)だった。

イヴが不在の時、騎士たちにはセラスが剣を教えている。

セラス・アシュレインは世界を救った英雄としても知られている。

師範的立場に文句を言う者はいない。

が、ナハトは悩みがあるようだ。

「申し訳ございません、トーカ様……その……あまりにセラス様が魅力的すぎるのか、騎士連中のセラス様への憧れが強すぎる印象でして……。いなくなられた時、どう騎士連中の気力をつなぎ止めればよいのか悩んでおり……」

ぐったりしているナハトに対しスノーが、

「別にいいのでは? イヴ様の時に気力が減退している様子も、ありませんし」

「いや、それはそうなんだけどね? ただ、さすがにあの子たちはセラス様を崇拝しすぎというか……おれの目から見て、のめり込みすぎというか……」

なるほど。

企業で創業者がカリスマすぎる問題とかにも近いか。

そのカリスマが去ったあとどうすればいいか――という悩み。

セラスも一応、今は臨時でってことになってるしな……。

スノーがいつもの澄まし気味な能面顔のまま、

「個人的な意見を言わせていただきますと、隊長は先のことを気にしすぎかと。それに隊長……のめり込むといっても、あの子たちはあなたみたいにイヤラシイ目でセラス様を見てはいませんよ? あなた以外は、問題ないかと」

「え? 問題部分も違うし……そもそもおれは、そんな目でセラス様を見てないから。というか、おれはずっとスノーちゃん一筋でしょーが……あのさ……わかってて、言ってるよね?」

「あら? 何か言いました?」

「はぁ……なんでもありませんよ。というかその反応、スノーちゃんらしすぎるよ……いつまでも、連れないなぁ……」

「隊長……今夜二人で一杯、どうですか?」

「行きましょう」

……俺はここに 夫婦(めおと) 漫才を見せられに来たのか。

つーか最近ずっと思っているのだが。

この二人、さっさと結婚すりゃあいいのに……。

そういえばセラスも、最近は以前より少し着込めるようになった。

やはり精霊の力をほぼ頼る必要がなくなったのが大きいらしい。

また、ここについてはテーゼの精霊干渉のおかげもある。

ちなみに今の装いのデザインは、カトレア主導のもの。

”どのような装いであれ、セラスの魅力を引き出せないのではなんの意味もありませんわ!”

そう息巻いていた。

ちなみにカトレアといえば。

この前も、また催促の手紙が来てたな……。

”先延ばし先延ばしになってますけど、一体いつになったらそちらの状況が落ち着きますの? 早く二人の婚姻式を、我がネーアでやってくださいまし!”

とのこと。

まあそこは今、時期をセラスと相談中である。

カトレアには悪いが、今しばし待ってもらうとしよう。

俺はナハトとスノーのおのろけコンビと別れると、自室へ戻った。

まだロキエラとムニンとの食事までは時間がある。

……少し、休むか。

いや、というか……。

俺がやることなんて本来、そんなにないはずなんだがな……。

ヴィシスと違って国に過干渉するつもりも、必要もない。

が、ポラリー公とかが定期的に国政関係の意見を求めてくる。

最終決定を俺に判断して欲しい、みたいな内容が多い。

外交なら多少は立場を使って役に立てるかもしれないが……。

内政や城内のことを俺に聞かれても正直、困る。

そこはセラスやニャンタンの助言もまじえ、どうにかやっている感じだ。

「…………」

軽く開いた窓から入ってきた風が、束ねられたカーテンの裾を揺らした。

ふと――あいつらのことを、考える。

「……あいつらは」

ちゃんと無事に帰還できて――そして、元気にやってるだろうか?

叔父さんと叔母さんもきっと元気にやってくれていると……そう願いたい。

まあそこについては、どこか安心している自分もいる。

面倒な頼みを押しつけちまったのは今でも悪いと思ってるが――

俺の大事な人たちのことを頼んだのは、他でもないあの高雄聖だ。

あいつならきっと、上手くやってくれるのではないか。

そんな気がする。

窓の外に広がる、青い空を眺める。

――――どうだ?

「そっちは……元気で、やってるか?」

かつて、2年C組が召喚された儀式用の地下空間。

膝をつき、俺は術式が刻まれた床に手で触れていた。

この場所は召喚だけでない。

あいつらが、帰還した場所でもある。

……そして。

この世界に残ったのは、俺だけじゃない。

そんな風に感じる時もある。

安智弘や戦場浅葱。

あいつらも俺と、こっちに 残(・) っ(・) た(・) 。

たとえば――

浅葱の墓へ足を運べば、そこには戦場浅葱がいた証がある。

まあ他の死んだ三名は関わりが薄く微妙なところかもだが……。

というか、小山田に至ってはヴィシスと同じ場所へ行ってくれててもいい。

ただ安や浅葱は――まだ俺と一緒にこの世界にいる感覚が、漂っている。

俺は床の上を、横一線に指先で短くなぞった。

そう、この世界にもまだあいつらの”手触り”が残っている……

そんな、気がする。

「…………」

いつか再び、根源なる邪悪が降臨した時。

新たな異界の勇者が、ここへ召喚されてくるのだろう。

次の根源なる邪悪が降臨したら、俺はその勇者たちを導かなくてはならない。

ロキエラと共に。

俺はもう――召喚する側の存在。

かつてのヴィシスの側だ。

半神化で身体能力は確かに向上している。

勇者のステータス補正と同じか、あるいはそれ以上に。

ただし、一部のスキルは消滅した。

残ったのは――【パラライズ】【スリープ】【バーサク】。

他のスキルはもう使用できない。

この三つだったのは、使用頻度の高かったものが残った可能性が高い。

ロキエラはそれらのスキルが残ったのを知り、

”もしかしたらいずれ、まったく新しい別の状態異常スキルを覚えるかもよ?”

なんてことを呑気に言ってたが……。

さすがにそれを期待するのはな。

というか、残った三つがそれでホッとした部分もある。

コンボ性能込みでどれも便利なスキルばかりだ。

ただ……半分神族になった以上。

俺も次は否応なく、邪王素の影響を受ける。

だから――

召喚された異界の勇者たちを、上手くコントロールしなくてはならない。

かつて自分が廃棄された術式が刻まれた場所の方を見て、

「……こっちが無茶苦茶な要求をする以上、できるだけ全員無事に帰してやりたいところだが」

その時、

「トーカ殿」

背後から声がした。

足音には気づいていたが、

「どうした?」

「エシネ様があなたに、ご相談したいことがあると」

……またか。

相談相手なら俺以外にも、たくさんいるだろうに。

「俺じゃないとだめそうか?」

「ふふ、はい……女王陛下は、蠅王殿をご指名です」

どうも、幼き女王からすっかり気に入られてしまったらしい。

「……わかった」

やれやれと立ち上がり、振り返ってセラスの方へと歩き出す。

そうしていつものように――――

「それじゃあ、行こうか」

今日も俺は、その名を呼ぶ。

「セラス」