軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

戻りゆく

「…………」

――さて。

セラスには、いつ話すかな。

その日の夕刻、

「トーカ、ちょっとよろしいでしょうか?」

俺の部屋を訪ねてきたのは、テーゼだった。

今、俺は城内の一室を借りている。

ベッドが二つあり、セラスと同室。

ピギ丸とスレイも一応同室ではあるのだが……

あいつらは日中、ニャキやムニンと一緒にいる。

フギとも大分仲よくなったらしい。

まあ、俺の方も日中はアライオン関係の後処理の手伝いをしている。

だから構ってやれない分、むしろニャキたちには感謝だろう。

セラスにしても今日は朝からカトレアと一緒に過ごしていた。

なので勢揃いするのは夜だけ、というわけだ。

今も、セラスと早めの夕食を終えて部屋に戻ってきたところである。

「なんでしょう、テーゼ様」

「実は今日の午後、ヒジリと話しまして」

「聖と?」

「そなたのスキルで氷漬けになっている裏切りの勇者を今、こちらに移送しているとか」

「ああ――桐原の話ですか。ええ、遠い国からの移送ですので到着には時間がかかるかと」

一方、白狼王はそろそろ到着するかもしれないとのこと。

軍魔鳩でそう伝えてきたそうだ。

魔導馬という稀少な馬を使用しているため、そちらは移動が早い。

「生じる歪みの矯正ができるとはいえ、天界の状況と立場を考えるとわたくしはあまり長く滞在できません。 神々の夕闇(セカンドラグナロク) は解決しているので特に危機はありませんが、序列二位のわたくしが長らく不在でいるのもそれはそれで問題がありますから。ただ、勇者たちの送還の儀までは残ろうかと」

残るのは、神族としてのロキエラの力が弱ってるからだろうか。

「ありがとうございます。あなたに立ち会っていただけるなら俺も安心です。それで――桐原のことで何か?」

「その氷漬けになった裏切りの勇者なのですが……もしかしたら、もっと早く移送できるかもしれません」

俺はセラスを伴い、とある場所にテーゼを連れてきていた。

城内の、高雄聖が転移石の術式陣を刻んだ場所である。

元々はフギを城内に転移させるため聖がスキルで描いたものだ。

場所は、聖から聞いていた。

彫り込まれた転移陣は今も床に残っている。

が、対応する転移石はすでに使用されている。

なのでもう役目はないはずなのだが、

「ふむ……いけそうですね」

しゃがんで術式の刻まれた床を撫でたテーゼが、確信に近い調子で言った。

「いけそう、とは?」

「ぬか喜びさせてはならぬと思い、まだ話していませんでしたが――この転移陣とあなたの存在によって、往来で転移を行えるということです。もちろん、対応する転移石がなくとも」

「……【フリーズ】状態の桐原ごと、ですか?」

「はい。ただ、こちらは転移先の陣ですので――送る側の陣の方にも案内してもらえますか?」

俺は、そっちにも案内した。

再び確認を行ったあとテーゼは、

「よし」

さらに確信を得た反応をして、

「ではトーカ、 ステータス(女神の加護) のスキル項目を表示してください。【フリーズ】のものを」

言われた通り【フリーズ】の項目を表示する。

テーゼの指先が光り、その先端が【フリーズ】の表示部分をなぞった。

まるで、解析でもしているみたいに。

「……よかった。発動済みのスキル効果には干渉できませんが、こちらは大丈夫なようです」

「今のは?」

「場所のイメージを共有できればそこに転移しやすいのですが、その裏切りの勇者の正確な現在位置はわかりませんよね?」

「確かに……おっしゃる通りです」

「ですので、こうして該当スキルの概念に触れることでその【フリーズ】が”発動中”である位置を探ったのです。念のためですが……もう一つの小さな存在力の方ではありませんよね?」

「そちらは【フリーズ】を試用した虫のものかと」

「であれば、もう一つの存在力の方に飛べば問題なくいけるはずです」

ちなみにテーゼが確認したところ、アルスはやはり消滅していた。

なので一応【フリーズ】はひと枠、空いている。

ま、当面使うこともなさそうだが。

「どうしましょうか? もう日も落ちていますし、明日にしますか?」

「そうですね、明日がよろしいかと」

「わかりました」

「…………」

「…………」

「……あの、テーゼ様? まだ何か?」

なんだろうか。

テーゼが腰の後ろに手をやったまま動かない。

いや……微妙に、身体が揺れている。

後ろ手に持っている杖も、ピコピコ揺れている。

「トーカ……大事な話が」

「なんでしょう」

「そなたの世界の飲食物――それを転送できる、勇者の特殊 付帯(ふたい) アイテムがあるとか。しかも、それはとても、とても美味だとか……美味だとか……聞いたのです、が」

「もしかして、聖から?」

つーか……なんの話をしにいったんだ?

「トーカに協力的な姿勢を見せたら、恩返しに……その魔法の皮袋から転送された飲食物を提供してもらえるかもしれない――と、そうヒジリが言っていたのですけど……ですけど?」

いや……

そんな台詞をそんなシリアス顔で言われると……。

なんか、シュールだ。

……思えば。

テーゼがこんな協力を申し出てきたのは親切心かとも思ったが。

聖。

釣ったのか。

序列第二位の神族を。

俺の魔法の皮袋をダシに。

ていうかおまえそもそも……

どこから、テーゼの食いしん坊情報を得たんだ。

結局その夜、俺はテーゼに元の世界の飲食物を振る舞った。

ちなみに、ロキエラも同席。

そして……

テーゼのテンションの上がりっぷりに若干、ロキエラは引いていた。

しかしまあ、こうして協力する”理由”が明確な方が安心という見方もある。

タダより高いものはないとも言うしな。

それと、ロキエラは魔法の皮袋にかなり強い興味を示していた。

「これって実は、かなり珍しい種類の特殊付帯アイテムだよ……待って、ほんとに原理がまったくさっぱりわからない。そして構造的に、どうやら研究のしようもなさそうだし……えぇー……こんな付帯アイテム、ボク初めて見たんだけど……テーゼ様、どう思います?」

「もぐもぐ……とても美味しいので、どうでもいいですね」

「ええ、そうなんです――、……って、えぇっ!? いやいや、待ってくださいよ!? どうでもよくはないでしょ!? この皮袋の転送物! どう考えても! 次元の軸を飛び越えて! 転送されて! ますよね!?」

「でも一応分析しましたけど、危険なものではなさそうですよ? 使用時に歪みも発生してませんし、あと――こんなに美味しいですし。それにほら、特殊付帯アイテムはいずれ自然に消滅しますから」

「いやだからその歪みが発生してないの、おかしいですよね!? 次元の軸越えてるんですよ!? 召喚の儀や送還の儀の時じゃないのに!」

「ですが……もぐ、もぐ……わたくしの干渉分析でもロキエラの分析でも構造が不明なら、これ以上の構造解析は進まないのでは?」

「そ、そうですけど……ほんと、ものすごいことですよこれ! 何か思うところとかないんですか!?」

すると突然テーゼが狼狽し、ガタッ、と勢いよく椅子から腰を浮かせた。

「――これも、美味しいっ。美味しー」

「だ、だめだこの上司……」

なんというか。

スイッチオフが極まった時の”テーゼ様”は、ほんと省エネモードなんだな……。

翌朝、予定通りテーゼは転移を行った。

想定対象が移動中だった場合、精度が下がるかもしれない。

その場合、人数は少ない方が精度は上がるとのこと。

なのでテーゼだけが転移することになった。

念のため俺とツィーネがスマホで動画を撮影。

たとえば突然テーゼがどこからともなく現れ、

”神族です”

輸送中のミラ兵にそう話して信用されるかは、甚だ怪しい。

が、現ミラ皇帝の映像付きの言伝があれば信用されるだろう。

俺――蠅王ベルゼギアの方は、念のためのオマケだ。

テーゼが転移陣を再起動し、青白い光に包まれ消える。

そして――思ったより早くテーゼは戻ってきた。

時間にすると案外、30分も経っていないかもしれない。

青白い光が薄らいでいく中、

「戻りました」

疲労した様子もなく、さらっと言うテーゼ。

”あまり時間はかからないと思います”

事前に本人からそう聞いてはいたものの。

ちょっと時間感覚がバグるくらいには、お早い帰還である。

あれだ。

いわゆるチートってのは、まさにこういうのを言うのだろう。

で……

「なんだか……ひどく久しぶりにその 面(ツラ) を拝んだ気がするな」

あの時のまま。

そう――【スリープ】で眠り、そのあと【フリーズ】をされた時の状態。

眠ったまま時間が停止しているような状態の――桐原拓斗。

よかったな、と俺は氷漬けの桐原に言った。

「あんだけやらかしておきながら、ことによっちゃ五体満足で戻れるらしいぜ――元の世界に」

そして翌日――マグナルの白狼王が、王都エノーに到着した。