軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

暗き牢獄のともしび

「召喚のあと、俺たちは大して言葉を交わしちゃいない。なのに――どうしてだろうな」

俺は拘束具の向こうで何か声を出しているヴィシスに、

「ここへ至る旅を通して、おまえとはかなり”対話”した気がするよ」

過去にヴィシスがしてきたこと。

聖など、ヴィシスと関わったヤツらから聞いた話。

俺の中にあったヴィシスのイメージそのままだった。

ほぼ一致していたと言ってもいい。

逆に驚いたくらいだ。

再会した時のヴィシスの印象が、一致しすぎていて。

まあ――最後に対面した時から変わってないとも、言えるのか。

一方でヴィシス側は俺が変わったと感じたらしい。

さっきの戦いの様子で、それがわかった。

「ブザマだな」

「……ッ!」

反応しすぎだ。

他者に腹を立て、憎悪することはあっても。

ここまで一方的に他者から虚仮にされる経験は、なかったのか。

……ただ。

キリハラ辺りは相手がヴィシスでも下手に出るイメージがない。

いや……ヴィシスはコントロールできてるつもりだったのか。

仮にキリハラから不遜な言葉や暴言を吐かれても。

所詮――操られている者の戯れ言とでも、思っていたのか。

最後に笑っているのは自分だ、と。

そう思っていたから、ヴィシスには余裕の領域が残っていたのだろう。

なんだよ、と。

俺は、笑わずに言う。

「女神ともあろうものが、ずいぶん余裕のないご様子じゃねぇか。俺を廃棄遺跡に送った時の、あの虫けらを潰す直前みたいな笑みは…… ど(・) こ(・) に(・) 、 置(・) い(・) て(・) き(・) た(・) ?」

「……ッ」

殺意を滾らせて俺を 睨(ね) め上げるヴィシス。

なるほど。

半端にプライドが高いのだ。

いや――

半(・) 端(・) で(・) は(・) な(・) く(・) 、 高(・) い(・) の(・) か(・)

だったら。

俺の言葉など、聞かなければいいのに。

無反応を貫き通せばいい。

おまえの悪感情なんかに誰がわざわざ反応してやるかよ、と。

いちいち反応してしまうから――効果的と、思われる。

ちなみに顔の下半分――口の拘束具。

これを外さない理由は、もう一つある。

べらべらヴィシスに喋らせても別にいいことがない。

どうせ小汚い罵倒や恨み節を炸裂させるに決まっている。

逆に上辺だけの極まった命乞いをされても――それはそれで。

不快なだけだ。

この世には、発言権を与えない方がいい存在ってのもいる。

少なくとも俺は、そう思う。

睨みつけるヴィシスの目を真っ直ぐ捉え返す。

完全な、無感動の目で。

――たとえばそう、こいつみたいに。

それから俺は足を組み、天井に視線を遊ばせた。

「……認められねぇか」

「?」

「自分の目が節穴だったせいで、間違って廃棄遺跡に放逐しちまったクソガキに――完膚なきまでに、敗北した事実が」

「!」

「女神とか偉そうにほざいてたわりに、見下していた人間ごときに完全敗北した……そんな滑稽な自分を認めたら、ただの極まった小者でしかないもんな」

「――――ッ、……ッ」

ふーっ、ふーっ、と。

ヴィシスの鼻息が、荒い。

青筋を立て、さらなる殺意に目元を歪め、俺を睨む。

俺は軽くあごを上げた状態で、無感動な視線を向ける。

「おまえの最大のミスは……ずっと積み重なってきた、おまえへの膨大な数と量の執念、恨み……そのでかさを、軽視してたことだな。よく言うだろ――過去は消せないって。忘れることはできても、過去の存在そのものが消えるわけじゃない。テメェが都合よく消したと思っていたものはな……確かに、残ってたんだよ」

椅子に座ったまま、俺は足を開いて前のめりになり、自分の喉元を指差す。

「悠長に笑ってた、世界一間抜けな女神の喉元を――食い破ろうとする、執念たちは」

「~~~~ッ」

ヴィシスが、もがく。

これは、俺の狙いの一つ。

煽られて感情が爆発し、ヴィシスは拘束を解こうとしているようだが――

「…………」

どうやら、拘束は外れない。

状態異常スキルのおかげか。

これは……かなり弱っているとみていいのか。

あの拘束を外すほどの力すら今のヴィシスには残っていない。

こう、考えていいのか。

苦痛の反応がまじっているから【ポイズン】も引き続き効いている。

さらに【パラライズ】の副次効果のダメージも、追加で入っている。

もし――拘束を解いて襲ってきたら。

念のためさっき樹に目配せし、準備はさせておいた。

樹はスキル名をすでに口にしている。

つまり雷撃を纏い、臨戦態勢にある。

何かあればいつでもヴィシスに雷撃を加えられる。

あるいは、すぐに俺を抱えて部屋を脱出できる。

セラスのところへ連れて行ってもらえる。

離脱という待避用途でも高雄樹のスキルは使える。

最終スキルは戦闘特化だが、他のスキルは速さ面で強い。

ちなみに、深いダメージを負ったピギ丸は別の部屋で休ませてある。

だから今ここでは、樹をパートナーとして頼るしかない。

”戦闘センスで言えばあの子は一流よ。私なんかよりも、ずっとね”

聖は、樹をそんな風に評していた。

なので――今は、聖の言うその樹のセンスに頼るとしよう。

……と、思っていたが。

ヴィシスの様子を改めて観察する。

これなら……攻撃も離脱も、必要ないかもしれないな。

「もう一度、言う」

「?」

「 ブ(・) ザ(・) マ(・) だ(・) な(・) 」

「…………ッ」

樹は腕を緩く組んで壁に寄りかかったまま、

「…………おまえ、性格悪ぃーな……三森」

ちょっと引き気味な反応をしていた。

そりゃあ――効くからな。

スルーしてくるなら、適当に切り上げるつもりだった。

視線をヴィシスに固定したまま、俺は樹に言う。

「性格がいいなんて、俺は一度としておまえにアピールした記憶はないぜ」

はぁ、と息をつく樹。

「……いい性格してるよ、三森灯河」

――ああ言ってはいるが。

樹から嫌悪のたぐいの悪感情はうかがえない。

さっき樹と二人で雑談をしていた時。

高雄の家はなかなか特殊な家柄らしいと聞いた。

旧姓――つまり母方の実家がかなり風変わりなのだとか。

樹から聞いた話の感じだと。

綺麗なだけの世界で育ってきた姉妹ではないらしい。

それにな、と俺は言う。

「性格が悪いっつっても、このクソ女神ほどは終わってないと思うがな」

ヴィシスが反応する。

「……ッ」

俺はにこりともせずヴィシスを見下ろしたまま、

「残念だったな、ヴィシス」

「…………」

「天界からの色んな制限ってのから解き放たれて、何やら自由にやりたい放題する予定だったんだろ? が……テメェが長い年月をかけて必死に作り上げてきたものは、あっけなく水泡に帰したわけだ。まったくの、無意味に終わった。無駄な努力――ご苦労だった。あぁ、もしかしたら…… 無(・) 駄(・) な(・) 努(・) 力(・) って言葉は、テメェのためにあるのかもな」

「!」

「フン」

俺は立ち上がり、

「――こんな風に……テメェは散々、自分の気に入らねぇヤツをねちっこく馬鹿にし、罵倒してきたんじゃねぇのか? で……どんな気分だ? 自分が見下してた連中に吐いてきたような言葉を、今は逆に、こうして見下されて叩きつけられてる――これで、される側の感覚ってもんをわずかでもテメェが理解したら面白ぇけどな。実際は、どうなんだろうな? テメェみたいなクソでも……万が一にも、心から反省するって奇跡は起こるのか?」

まあ――そんな殊勝な性根ではあるまい。

ヴィシスは所詮、ヴィシス。

テメェも俺と同じで……根っこの部分は、救える存在じゃねぇだろ。

俺はしゃがみ込み、ヴィシスを見下ろす。

「その目だな」

俺は、言った。

「敗北者の目だ」

それは瞬間的に沸騰した、屈辱の熱によるものか。

ヴィシスは目をカッと開いたあと、激しく呻いた。

無駄に動いたせいで【パラライズ】の副作用により、出血している。

俺の傍らでは、樹がいつでも動けるようスタンバイしている。

「…………」

俺は何度か、あえて隙を作っていた。

露骨すぎない程度の隙。

ヴィシスがもし反撃に出るなら、

”――ここだ”

そう思えるような隙を。

が、ヴィシスが拘束を解いて不意打ちをしてくる様子はない。

絶好の機会をあえて”作って”やったのに。

攻撃は――来ない。

……さっきの戦いとは様変わりした、その弱々しい姿。

演技じゃない、ってことでいいのか?

俺は、

「趣味が悪ぃんだよ、テメェは」

そう言って片膝に手を置いて立ち上がり、移動する。

そして、牢獄の扉近くに立てかけてあった刀を手に取った。

イヴが今回の戦いで使っていた古代魔導刀。

魔素を通すと強度が増し、切れ味もとても鋭くなるとか。

俺は、その刀に魔素を通した。

薄ら刃が青白く発光する。

刀を握ったまま、俺はヴィシスの横手に回った。

ヴィシスは首を曲げ、見上げてくる。

何が起こるかは――ある程度、理解している顔だった。

「直接的にどのくらいやったのかは、俺は大して知らねぇが……間接的には……おまえは、気に入らない相手をいたぶって殺しすぎだ」

――ズッ、と。

俺は刃を、ヴィシスの背中側から、その心臓部に突き入れた。

「! ……ふぅぐ、ぅうッ!?」

「――通るか」

この刃が。

「さっきの戦いの時のテメェには、通らなかったかもしれねぇが……今のテメェには、しっかり通るらしいな。きっちり弱ってる、証拠か」

「む、ぐっ……ッ!?」

俺は樹を見ずに、声をかける。

「樹」

「ん?」

「見たくなかったら目を閉じててもいい。必要そうなら、言葉で合図する」

それに、俺にも自分の状態異常スキルがある。

もちろんスピードは樹ほどじゃないかもしれない。

が、先読みと反射神経にはそれなりの自信がある。

ステータス補正もあるしな。

「……別に、アタシは大丈夫だけどさ」

「本当に、大丈夫なんだな」

今の言葉は、いわゆる確認的質問ではない。

おまえがさっき言ってた通りなんだな、の意味である。

高雄樹から聞いた母方の家の”特殊性”。

樹の言うその特殊性は”暴力的な世界”に近い印象があった。

いわゆるヤクザとも違う感じだが……。

何か、そう……ある種の陳腐な言葉を使うなら”裏の世界”。

ならば――頷ける。

クラスの中でもこの姉妹の立ち回り――特に高雄聖。

こんな世界でも異様に冷静に立ち回り、あれだけやれていた理由も。

……まあ冷静とは言い難かった印象のキリハラは、ともかく。

こうなると、いよいよ。

戦場浅葱だけがどうにも説明のつかない存在に思えてくる。

ある意味で高雄姉妹以上に――あいつは異常だった。

もしくは浅葱の家も何かルーツが特殊だったりしたのだろうか?

俺のさっきの言葉に、樹が返す。

「あぁ、問題ねーよ。見てて気持ちのいいもんでもないけどさ」

一方で、高雄樹は常識的な感性の持ち合わせもある。

当然だ。

普通は、こんなものが気持ちのいい光景であっていいはずはない。

俺は刃を動かしヴィシスの心臓を抉りながら、樹に謝る。

「……悪いな」

「セラスさんにはあんまこういうの、見せたくねーんだろ?」

「あぁ。ガキじみた、俺のわがままだ」

なんとなくだが。

セラスにこの光景は、見せたくないと思った。

そう……とんでもない俺のわがままである。

樹にはよくて、セラスにはだめなのだから。

セラスのためと見せかけて――それは、自分のためだろうと思う。

自分がこうしてる姿を見られるのが、なんだか嫌だった。

いいご身分だな、と。

自分に対して思う。

至極、ダサい話だ。

「…………」

……ま、今は自己憐憫めいた慰撫に浸ってる場合じゃない。

やるべきことを、やる。

俺は、刃を引き抜いた。

さっきの話題を、樹が続ける。

「いや、普通にセラスさんが見て気分がよくなるもんでもないだろうから……それで正解だろうし……シンプルにそれは、三森なりの気遣いってことでいいんじゃねーの?」

「もしかして、フォローしてくれてるのか? なら、ありがとな」

「……それよりアタシが気になるのはだな」

俺は――

ヴィシスの後頭部から刃を突き入れ、左目の先まで貫く。

「むぐぅ!? ん゛っ!? ぐぅぅうううう゛――――ッ!?」

刃も変わらず通るし、痛みはきちんとあるようだ。

これもやはり、これまでの状態異常スキルで弱っているからか。

分裂を防ぐために切断まではしない。

ロキエラも一応そのへんのチェックはしてくれると言っていた。

あと、例のテーゼ様ってのが分裂の有無の探知もできるとか。

ま……このくらいのやり方でも、苦痛は与えられる。

「安易に死ねないってのも……案外、きついもんかもな」

元の世界にいた時、不死者が登場する作品を読んだことがある。

不死者には再生力があり、なかなか死なない体質という設定なこともある。

いずれにせよ――簡単には、死なない。

いや……場合によっては、

簡(・) 単(・) に(・) 死(・) ね(・) な(・) い(・) 。

不死。

彼らにとっての利点であり、最大の欠点。

神族がその不死者と似たようなものだとすれば。

場合によってはその特性は、悪夢じみた特性とも言える。

「……俺が落とされた廃棄遺跡には……同じ廃棄者と思われる連中の骨が、たくさんあったよ。あの遺跡にいた金眼どもに散々オモチャにされて、殺されたんだろうなと……それがわかるものもたくさんあった。死んだあとですら、その遺骨を弄ばれてたヤツもいた。魂喰いに至っては……ずっと、死後の魂すら愉悦のオモチャにしていたんだろう」

ぐりっ、と。

刃で、ヴィシスの頭の中を抉る。

ヴィシスが身体がわずかに痙攣めいて、跳ねる。

女神の口からは、言葉にならぬくぐもった苦鳴が漏れた。

「おまえが使っていた勇の剣が、スピード族にしたこと……第六騎兵隊が最果ての国の竜煌戦団にしたこと……それ以外にも、きっと数え切れないほどの残虐な行為があったんだろう。テメェは……たくさんの人を直接、もしくは間接的にいたぶって、ずっと遊び殺してきたんだろうな……反吐が出るほど、悪趣味に」

本来ならそんなことをされる謂われのない人たちを、たくさん。

”遊び殺す”

ただ殺すより――何百倍も、タチが悪い。

俺の実の親どもが幼い俺に対して”そう”しかけたように。

頭に突き入れた刃を……逆側に、抉る。

ヴィシスが拘束具の中で、いたく窮屈そうな悲鳴を上げる。

「……そういえば。さっきなんか言いかけてたな、樹」

それよりアタシが気になるのはだな、と確か言っていた。

「ん? ああ、その……アタシが言うのもなんだかなとは、思うんだけどさ」

「遠慮しないで、言ってくれていい」

「なんていうか、三森――」

樹は雷撃を纏ったまま、肯定とも否定ともつかぬ調子で言った。

「アンタは”それ”をやることに――躊躇が、なさすぎる」

「…………だな」

俺は今、なんともない風に返したが。

そう言われてみて。

――内心、ハッとした。

改めて指摘されて強く再確認させられた、というか。

「あ、別に責めてるとかじゃなくてだな? 三森は使い分けできてるから、別に大丈夫そうっつーか――」

「いや……おまえの言う通りだ」

異常なのだ――トーカ・ミモリは。

すでにして、異常な状態にあった。

元から。

隠していただけで――忘却していただけで。

極限状態の中で、本来の自分を思い出しただけ。

元々、こんな人間なのだ。

この世界に召喚される前から。

自覚はあったつもりだったが……。

今している行為への躊躇のなさは、指摘されてハッとした。

まあ……だからこそこの世界で生き残れた、とも言える。

「安心しろ、ヴィシス」

「…………?」

あの白足亭の女主人と――同じ話だ。

「テメェが消滅したあと、いずれ俺もテメェと同じ場所に”落ちる”…… 生まれながらのクズ(俺たち) の終着駅は結局、そこにしかねぇのさ」

ある意味で俺たちは、似たもの同士なのだ。

そうだな。

筋は通る。

だからこそ――ヴィシスの思考を、トレースしやすかった。

決戦への備えや対処がやりやすかった。

だって、同じなのだから。

根っこの部分が。

実の親ども(あいつら) と。

「……どうしようもねぇんだよ、俺たちは」

ボタンを掛け違えていたら。

俺だって”そっち側”だったかもしれない。

たとえば、叔父さんたちと出会っていなかったら。

俺は――それが少し、怖い。

「この復讐の旅で俺は、自分の目的のためにたくさんの人間を殺してきた……中には、そのことで俺に復讐しようと考えるヤツが出てくるかもしれない。けど――俺はその復讐を止めるつもりはないが、簡単に受け入れるつもりもない。俺は自分が殺すべきだと確信したヤツを殺してきた。俺の言い分で。まあ、ヴィシス……テメェの言い分を聞けば、テメェも”痛めつけて殺すべきだ”と確信して、色んなヤツを殺してきたのかもな……だから……とどのつまり相互理解なんてのは、不可能なんだよ――俺たちみたいなのはな」

その一方で。

叔父さんたちや。

イヴやリズ。

エリカ。

十河みたいなヤツら。

――セラス。

他にも、たくさん。

善性を持つ者は相互理解をして、解り合えばいい。

話し合いでちゃんと世界を作っていけるのだから。

妥協点を、探っていける。

彼らは――本来、この世界の大多数として必要な存在なのだ。

……ただ、な。

俺の元いた世界も、この世界も。

善性側が大量に食い物にされ、どんどん減ってるのが現実な気もする。

けど――本来なら、そういうヤツらで回るべきなのだ。

世界というものは。

が、俺たちは違う。

互いの信念に従って、無限に殺し合うしかない。

相手を無力化するまで、意地でもやり合うしかない。

どちらかが諦めるまで、徹底的にやるしかない。

最悪、相手方を完全に根絶やしにするまで――終わらない。

通すしかないのだ――己のわがままを。

どうしようもない、そのエゴを。

「俺たちみたいな”こっち側”の連中だけで殺し合って、ちょっとずつ数を減らしていければ……それが理想なのかもしれないがな。しかしなぜか大抵……善性の側ばかりが”こっち側”に、巻き込まれちまう」

そして時に善性の側だけが、壊れてしまう。

損なわれてしまう。

「俺も、さっさと自殺でもすりゃあよかったのかもしれないが……クズ同士で潰し合う方向でやれば、少しくらいはクズ以外のヤツらを守れるのかも――とか、そう思っちまうとこもあってな。時として……人のいいヤツらってのは、自分を守るすべを知らなすぎることがある」

だからせめて、自分の手の届く範囲くらいは。

守りたいと思えた人たちくらいは。

守れるんじゃないか、と。

損なわせずに済むんじゃないか、と。

つい、動きたくなってしまう。

自分の”わがまま”に従って。

手を、のばしたくなってしまう。

この手をどんなに――汚してでも。

毒を以て、毒を制す。

自分の”わがまま”を、押し通すために。

「……結局」

どんなにぐだぐだと、あれこれ言っても。

最終的にはその”わがまま”――

俺が納得できるかどうかが、すべて。

俺は――俺の思うままに、ただ、わがままに生きるだけだ。

廃棄される直前に、文字通り化けの皮は剥がれた。

だから。

今はもうそれしか、生き方を知らない。

と、

「三森」

樹が、声をかけてきた。

「ん?」

「おまえちょっと自分のこと、悪く言い過ぎ」

俺は少し意外に思いつつ、

「……自分を悪く言っちまうのは、実の親のせいかもしれない」

「親?」

「俺は、否定したがってるのかもしれない……あいつらの血が入った、自分ってのを」

「けどなぁ、それじゃあセラスさんが――」

「……だな」

先回りして、俺は言った。

「あんまり悪く言うと……それは、俺を好いてくれてるセラスのことも――同時に、悪く言っていることになる気もする。おまえが今、言おうとした通りだ」

あるいは。

俺を信じてくれた、叔父さんたちのことも。

調子を切り替え、俺は言う。

「だからほら、こうしてセラスの前では言ってないだろ?」

「いや、アタシならいいのかよ……」

言いつつ、樹の口もとには微笑みがあった。

「つーか、すげぇ珍しいレベルで姉貴は三森のことを評価してっからな? 特に、男に対してあんな褒めてるのはほんと滅多にないんだぜ?」

……急になんの話だ?

「何が言いたい?」

「ただのクズを、姉貴はそんなに評価しねーよって話」

あぁ、そういうことか。

つーか、

「おまえはほんと、なんでも聖基準だよな……」

親指をぐっと立てて、

「そりゃそーでしょ!」

ニカッと笑顔で応える樹。

……いや、マジでそこは疑問とか差し挟む余地がねーのな。

姉大好きっ子属性は、完全に本物である。

俺は――時間を確認する。

……セラスが起きる予定の時間も、迫ってきてるか。

樹が雷撃をバチバチと纏ったまま、再び腕を組んだ。

それから――

初めて見せるくらいの凍るような冷たい目で、樹が、ヴィシスを見下ろす。

「けど…… ヴィシス(こいつ) はマジで悪いヤツだからな。アタシのその大事な姉貴も、殺しかけやがったヤツだし」

樹が、にやっと笑う。

「このアタシが許す――時間いっぱいまで、痛めつけてやれ」

「…………」

決まった、みたいにドヤ顔している樹だが。

軽い。

なんというか――ノリが。

「……一応【ポイズン】中なんだがな」

樹が頭上に疑問符を浮かべ、首を傾ける。

「え? どういう意味だ? なんか、大事な話……?」

その表情で雷撃を纏ったままなのが、なんかシュールだった。

「いや……なんでもない」

一応。

毒気が抜かれる――と、そう言いたかったんだが。

「…………」

あるいは……聖だったら、伝わったのかもしれないな。

やがて――神族テーゼ到着の報が、俺のもとにもたらされた。