軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

影の支え手

王都エノーに辿り着く前のこと――

その、とある夜。

俺はロキエラ、ムニン、ピギ丸の四人でその幕舎にいた。

「これで一応、発動はできるはずだけど……」

「さすがだな」

人払いは徹底してあった。

内密の話をするにはうってつけの環境。

ロキエラが俺の言葉を受け、両腰に手をやり息をつく。

「褒めるならそれだけの根源媒介――青竜石を保持してたっていう、廃棄遺跡にいたその二人組を褒めた方がいいよ」

「……かもな」

禁字族――クロサガで禁呪を発動できる者は二人しかいない。

ムニンとフギ。

この先、いずれどこかでヴィシスとの直接対決が訪れるだろう。

そして――

状態異常スキルを叩き込む前に、必ず禁呪を挟まなくてはならない。

もちろんムニンの一手で決められるに越したことはない。

フギが危険を冒す必要がない――ムニンにとっても、それが一番いい。

ムニンだけで決着をつけられるよう俺も全力を尽くす。

ただ、万が一の時の保険――

切り札は、用意しておくべきだと思っていた。

ロキエラが疲労した様子で、

「ふぅ……今ので、ちょっぴり回復しかけてた力もけっこう使っちゃったなぁ。まあどうせ戦闘じゃ役に立てないから、ここが使いどころだったのかもね。けど戦闘以外ならまだできることもあるだろうから、決戦の地に到着するまでにちょっとでも回復しときたいとこだなぁ……」

と、ムニンが懸念の顔をしているのに気づく。

「何か気になるか?」

「トーカさん……発動だけは可能になったとしても、死に至る痛みの方は……」

ロキエラがその懸念に乗っかり、

「てか、そうだよ。発動用の紋を無理くりでっち上げたはいいけど、余った分の根源媒介で発動紋の周りに施した軽減紋だけじゃ――はっきり言って相当きついと思うよ? ていうかその発動紋だって不安定なものなんだからね? せいぜい四割くらいだったかもしれない発動確率を、どうにかほぼ十割にできたはずって感じで……一応、絶対って保証はないんだよ?」

確かに試し撃ちはしていない――できないが、

「発動の確実性が上がったってだけで、かなり上等だ」

賭けるに値する領域には、近づきつつある。

ていうかさ、とロキエラ。

「キミが禁呪を使うっていうこの案、昨日今日思いついたってわけじゃないよね?」

「……前々から、考えてはいた」

ロキエラが深々とため息をつく。

「それは……さすがに、無謀すぎるって」

「俺も、自分が禁呪を使うのはかなり分の悪い賭けだと思ってた。つーか……白状すると、ほぼ実現性はないだろうくらいに考えてた」

最果ての国――クロサガの集落。

初めてムニンと会い、禁呪の話を聞かされた時。

禁呪の”定着”自体はクロサガ以外の者にも施せる――

そう聞いた時からずっと、考えてはいた。

ロキエラと会う前もちょくちょく、ムニンに相談はしていた。

『この世のものとは思えぬ死痛の果てに命を落とすって話……あんたは”そう伝えられている”と言ったよな?』

『え? ええ……』

『…………』

『トーカさん……あなたまさか……』

これについては一縷の望みがあるかもしれない、と思った。

死ぬほどの痛みを感じた者がいた、と伝わっている。

ならばこれは”伝えるほどの時間があった”とも取れる。

要するに即死級ではない可能性がある、ということ。

……いや。

もしくはなんらかの理由で、

”使わせない”

そのために”死ぬ”と伝えたパターンだって、なくはない。

もちろん希望的観測がすぎるのも事実だが……。

ただもう一つのネックの方が、やはり引っかかっていた。

『発動自体が行われないってのは、確かなのか?』

『それも……あくまで伝承では、だけど……』

『……とはいえ、こんな大事なことに嘘をまぜて伝えてもな』

問題は、ここだった。

死痛の問題は細い糸だが希望がなくはない。

が――発動しないのでは、まるで意味がない。

『けどあくまで言い伝えで、実証されたわけじゃない……つまり――絶対に発動しないとも言い切れない、ってことだよな?』

『……はい。で、でもトーカさん――』

『わかってる。ただ……』

最後の手段としては、頭に入れておくべきだろう。

この時の俺たちはまだ、旅の道半ばだった。

当時その時点での俺自身の禁呪使用はあまりにも非現実的。

確率は恐ろしく低く、不安材料しかなかった。

が、旅を続ける中で克服する材料が何か出てくるかもしれない。

やれる範囲で準備だけはしておくべきだろう、と考えていた。

『禁呪の”定着”だけは――とりあえず、やっておきたい』

俺は道中、ムニンに”定着”だけ施してもらった。

それから旅の中で東へ進み、アライオンを目指す途中のことだった。

金棲魔群帯の南方の砦が金眼の群れに襲われたことがあった。

予期せぬ魔帝器の発動により、大量の金眼が襲来したのである。

中には北方魔群帯の強力な人面種もまじっていた。

俺は――

先のことを考え、その群れを殺しに向かった。

そう、経験値を得るために。

少しでも――

禁呪使用に耐えうるステータスを、獲得するために。

ここでやっておくべきだと思った。

あの状況。

もちろん金眼の群れを駆除することには別のメリットもあった。

しかしあそこで、

”俺が行く”

そう名乗り出たのには、そういう意図もあった。

ロキエラが緩い呆れ顔で、

「けどほんと……その青竜石が大量にあったのが、幸いしたよ」

予備も含め発動用の分を残し、残りは 神工(じんこう) の”紋”に使用した。

ロキエラ曰く、この量があったからやれたことだという。

初めて青竜石の量を見た時、確かセラスも驚いていた。

狂美帝から譲り受けた分もある。

が、大半はあの廃棄遺跡の二人組が持っていた青竜石だった。

「あと、ムニンが持ってたこれもね」

ロキエラが手に持って示したのは、四枚の羊皮紙。

中には文字やら記号めいたものが書き記されている。

ミラの帝都ルヴァの城――その地下。

ムニンしか開けられなかった、あの封印部屋。

俺が持っていたのとは別の禁呪の呪文書が、保管してあった。

で、壁にはムニンしか読めない文字も刻まれていた。

文字の大半はムニンが内容を伝えてくれたが、

「刻まれていたものは、すべて読めるものではなくて……いえ、最初は記号や単なる装飾的な模様か何かかと思ったんだけど……」

言って、苦笑するムニン。

念のため、すべてを書き記していたらしい。

徹底的に。

祭壇や禁呪が保管されていた箱の蓋まで調べたそうだ。

ムニンは微笑みを残しながら膝上に視線をやり、

「やれることは全部、やっておきたかったから……」

「…………」

これも彼女の――クロサガの、執念か。

あまり表に出さないから普段は感じられないが。

彼女たちクロサガにとって女神討伐は悲願。

自分たちが今後も安心して生きていけるかどうか。

この戦いで、それが決まる。

とてつもなく長い間、彼女たちは繋いできたのだ。

紋持ちを。

種族を。

ロキエラが羊皮紙をこちらへ示し、

「うん、大正解だったと思うよ……これは装飾的記号や模様じゃなくて、れっきとした文字なんだ」

「読めるのか?」

「ふふーん……研究者系神族、舐めないでよね? これはさ、古代文字の中でもかなり特殊な文字なんだよね~」

「古代語とは違うのか?」

エリカと初めて出会った時。

セラスがそんな言語を話していたが――

「多分キミが言ってる古代語は新しめなものだね。なんていうかなぁ……ちゃんと”文字”や”文章”になってるっていうか……まあざっくり言えば、読みやすいってこと。それこそボクくらいに、どっぷり研究しなくてもね」

要するに。

あの羊皮紙の文字は、ロキエラレベルで読めるくらいのかなり特殊な文字らしい。

ムニンは文字と知らずとりあえず書き写してたわけだ。

ロキエラはぺらっと羊皮紙を裏返し、書き込みのある側を見る。

「ここには発動紋を刻むための――まあ手がかりみたいなものが、書かれてる。最後の決め手みたいなもんだね。正直これがなかったらトーカに刻んだその発動紋、ちゃんと発動するかどうか自信ない寄りだったかも……」

「なくても、刻むことは刻めたんだな」

「まーボクらの【 女神の解呪(ディスペルバブル) 】を調べて突き詰めていったら、それを無効化させる原初呪文――つまり禁呪にはいずれ辿り着くからね。そりゃあ優先度高めの研究対象ではあったよ」

えっへん、と得意げにロキエラ。

「そして疑似的な発動紋の定着については、ボクの発明だからね! 根源媒介をボクの見つけたやり方で活性化させた上で、なんと本来なら干渉そのものが不可と思われてる原初核の構成 輪(りん) に――」

……何やらブツブツ語り始めた。

適当に少ししゃべらせてから、要点を聞いておくか。

「今の情報は、ヴィシスも知ってるのか?」

「え? 教えるわけないでしょ? ヴィシスと研究内容の共有なんてしないよ! 断じて!」

「ふぅん。神族の世界ってのは、そういうもんなのか」

「え? いや――ヴィシス嫌いだし、ボク」

「……そうか」

「ヴィシスもボクのこと嫌いだから、自分の研究成果の大半は絶対ボクには教えちゃくれないけどね! ていうかこれについては極秘中の極秘で……ボク オリジン様にもテーゼ様にも教えてないんだよね」

「…………」

ヴィシスとロキエラの仲が良かったら。

対策されるパターンも存外、ありえたのか。

「……ちょっと真面目に言うとね、これが外に漏れるとボクら神族がやばいんじゃないかってのもあるんだ。使用可能者がクロサガだけの話じゃなくなってくるから。実を言うと……この擬似的な発動紋の研究のことは、葬ろうと考えてた」

そう言われてみると、極秘にしてたのもわかる。

ロキエラが続ける。

「ま、ヴィシスが独自にこの疑似発動紋にまで辿り着いてたら――その時は、もう対策されてると思って動かないとだけどね」

「そこは賭けになる、か」

「ただ……疑似発動紋のことを知ってたらクロサガの根絶にそこまで注力してない気がするんだよなぁ。知ってたら、どっちかっていうと青竜石みたいな根源媒介の回収の方に力を割きそうな気がするから……ヴィシスは、気づいてないんじゃないかなぁ……」

それは――なるほど、一定の説得力はある。

クロサガ以外の者でも禁呪が使える可能性に辿り着いていたなら。

あそこまで禁字族――クロサガに固執するのは、少し違和感がある。

それにしても、とロキエラ。

「この、ムニンが書き写してくれた内容の中のこれとかさ……」

何やら研究者の顔になっている。

「この世界の地下に存在する古代遺跡とか……それこそ、聖眼のようなボクらも成り立ちを知らない技術……そして、対神族用としか思えない無効化の原初呪文……いや、そもそも状態異常系統の力……【 女神の解呪(ディスペルバブル) 】が作られた経緯……古代人……もしかするとボクら神族は、元を辿ると……」

「ロキエラ、さん?」

ムニンが”どうしました?”のニュアンスで声をかける。

「――あ、ごめん! つい研究者の血が騒いじゃって……今は、ヴィシスをやっつける話を詰めないとね! ――ていうか、トーカ」

話を切り替える調子で、ロキエラが言った。

「セラスがいないけど……あの子には、あとで話すの?」

「いや――セラスには、この疑似発動紋のことは黙ってようと思う」

「え? でもキミたちすごく”結ばれて”そうだし、信頼の深さ的にあの子なら話しても問題ないんじゃない? そりゃあ知る人数が少ないにこしたことがないのは、そうだけど……うーん……そこんとこ、ボクより付き合いが長そうなムニンはどう思うの?」

「えっと、そうねぇ……確かにセラスさんなら、わたしも大丈夫だと思うけど……」

俺は一拍置き、

「俺が禁呪を発動したら死ぬ可能性もあるんだろ? あくまで、可能性の話だとしても」

ロキエラがどこか気まずそうに、

「え? う、うん……」

「だったら――」

この切り札は使用時までヴィシスに悟られないのが、重要だ。

「セラスなら絶対どこかで、顔や態度に出る」

ロキエラが「そう、なの?」と横のムニンに尋ねる。

俺は顔を少し下げる。

そして自然と口もとが綻ぶのを感じながら、

「セラスは――俺のことが、好きすぎるからな」

ロキエラとムニンが、虚を突かれたように目を丸くする。

それからロキエラがちょっと渋い顔になって、

「えぇ~……なに……その突然の、謎のろけは……」

一方ムニンは手を口にやってくすりと笑い、

「なるほど……それは、そうかもしれないわね♪」

理解を示した――示してくれた、らしい。

……なんで俺は、ちょっとホッとしてるんだろうか。

「いやその……なんつーか……俺はセラスのことを心から信頼してる。だからこそ、逆に疑似発動紋のことはあえて教えない方がいい気がするというか、な」

セラスには目の前の敵に集中してもらいたい。

が、俺が死ぬかもしれない力をいつ使うかわからないという状態。

あいつがそんな状態で――正常に戦えるか、というと。

……無理な気がする。

いや――無理だ。

なぜなら。

これが逆だとしても――俺も正常に戦える自信がない。

互いへの俺たちの感覚は多分、かなり近いから。

そうね、と。

睫毛を伏せ、落ち着いた大人のする微笑を浮かべるムニン。

「えぇ、わたしもその方がいいと思う。ふふ、でも変な話よね♪ 誰よりも信頼しているからこそ知らない方がいい、なんて。でも……わかる。だけどね、トーカさん?」

「ん?」

「わたしはいいの? 多分わたしは仮面で顔は隠れると思うけど……ほら、あなたの禁呪使用の可能性を知っちゃってるわけじゃない? どこかでセラスさんに不審に思われないかしら? セラスさんは真偽がわかるから、会話の中でも下手な嘘をつかないようにしないと……うぅ……わたし、トーカさんみたいに上手くやれるのかしら……?」

「大丈夫だろ、あんたなら」

「あら、そう?」

ムニンが首を傾け、あらやだ嬉しいわぁ、みたいな顔をする。

「後から考えてみると――この旅に加わってからあんたには、あまり存在感がない」

「ふふ、確かに――、って……えぇ? えぇええ!? 本人を前にして突然、まさかのダメ出しなのっ!?」

「あ、いや……言い方が悪かったな。その……普段はムードメーカーっていうか、仲間の中でも空気を柔らかくしてくれる存在なのは、すごくありがたいと思ってる。気も配れる人だし」

「あら、嬉しい♪」

「……そういう、切り替えの早いとこも含めてな」

「でも存在感がないって……うぅ……いい意味で、なのよね?」

もちろん、と俺は首肯する。

「日常の中でテンションが上がることはあっても……他の状況下では、冷静さを失って半狂乱になったり、焦って大きなミスをしたりしない。現状把握もそれなりに素早くできるし、どんな状況でもそこそこ落ち着いてる。つまりそれは――いい意味で”気にならない”ってことだ」

「あら……」

手間がかからない、と言い換えてもいい。

超然としてるわけじゃないから、わかりにくいだけだ。

ムニンは――クロサガをまとめる族長をやってきた。

しっかりしてるからこそ、やれたのだろう。

それは、あの集落のクロサガたちを見てればわかる。

もちろん感情にまったく乱れが出ないわけじゃない。

常に完璧な判断ができるわけでもない。

高雄聖のような、鋼めいた精神力を持っているわけでもない。

が、

「少なくとも出会ってから今まで、俺はあんたが起こしたトラブルやらなんやらで手こずらされたことはない――そう、記憶してる。で……その上、覚悟も決まってる」

桐原戦の時もしっかり役目をこなしてくれた。

やれる自信がない、とか。

冗談っぽく言うことはあっても。

本気でそんなことを言ったことは、なかった。

やるならばやる――そんなスタンスを取ってくれていた。

他にも……

外の世界に適応できなくて何か問題が起こる、とか。

旅の途中で自分の目的に今さら疑問を持ち始める、とか。

クロサガというアイデンティティのことで塞ぎ込んだり、とか。

そういう”重し”も、なかった。

ミラの城での調印式もなんやかや言いつつ、きっちりこなした。

最果ての国の代表として。

それはもしかしたら。

振る舞いや言動にいわゆる”可愛らしい”部分のある人だけど。

ムニンという人物が”確かな大人”だったこと――

これが、思ったより大きかったのかもしれない。

「ええっと……それはちょっと……ふふふ……褒めすぎ、じゃないかしら?」

そんな評価を得られたのが不意打ちだったのか。

ムニンは、明らかに照れていた。

俺は苦笑し、

「まあフギ関係の時だけ……ちょっとこれはどうしたもんか、と悩むことはあるけどな……」

ただ――それは仕方ない。

だって、娘のことなのだから。

俺だってそうだ。

もし叔父さんや叔母さんが関係してくるのなら。

状況によっては、冷静な思考を失いかねないだろう。

「それでも、あんたなら”その時”が来ても自分の役目をしっかりこなしてくれる――そういう意味では、俺はムニンのことも信じてる」

セラスには信じるからこそ話さない。

ムニンには、信じるからこそ話す。

「……トーカさん。ふふ、ありがとう」

存在感は薄いけれどね……、と”およよ座り”をするムニン。

「いやだから、そこは悪かったって……」

「――だけど、トーカ」

そこで、ロキエラが口を開いた。

「重々承知だと思うけど、その疑似発動紋による禁呪は……」

そう話す今のロキエラの表情。

その表情には”遊び”がない。

真剣な面持ち。

場の空気は一瞬で、引き締まったものへと変わっていた。

「……あぁ、わかってる。だが――」

当然ながら。

使用リスクのないムニンの禁呪で終わるのが、ベスト。

ムニンが失敗した際の予備策で決まれば、かなり助かる。

が、

「ここで使わなければ勝利が危ういと感じたら――迷わず俺は、この疑似発動紋で禁呪を使う」

禁字族じゃない俺が使うことに意味がある――

案外、そういうこともあるかもしれない。

ヴィシスだってただの間抜けってわけじゃない。

疑似発動紋の存在を知らない可能性が高いとしても。

必ずなんらかの禁呪対策はしているはず。

俺たちが想像もしていないような対策を取ってくるかもしれない。

予想もしない、こちらが不利になる事態が起こるかもしれない。

ならば――こちらも、返す刃のような切り札は用意しておくべきだ。

とはいえ、使用による俺へのダメージの程度は不明。

こればかりは試し撃ちもできない。

ぶっつけ本番。

ゆえにリスクは、かなり大きい。

だから、

「もっと言えば使用するのは……ここで使わなければ、どのみちこのあと全員ヴィシスに殺されるなり、惨い目に遭わされるかもしれない……なら、リスクを受け入れてでもここで使用すべきだと――」

ヴィシスにこのまま勝たせてやるなんて、 ク(・) ソ(・) 食(・) ら(・) え(・) だ(・) と(・) 。

「俺が、そう判断した時だ」

そう――ムニンとロキエラは、知っていた。

最悪の状況になった時”俺の禁呪”と状態異常スキルが、決め手になることを。

「はぁッ……はぁッ……、――【ダーク】」

アルスやヲールムガンドにほぼ効果として無意味だったスキル。

あれらがあったため、これだけはさっき使用しなかった。

眠りに落ちているヴィシスにかけても、もう無意味もしれないが……。

今は、これも使用する余裕がある。

なので念のため【ダーク】も、重ねがけしておいた。

ちらと見る感じ……二体の分身も動きを停止している。

あの煙の感じからして溶解も始まっているようだ。

今のヴィシスの状態が影響しての、あの状態なのだろう。

……状態異常スキルは見た感じしっかりヴィシスに効いている。

まだ生きてはいる……っぽいか。

ただ、眠っているのもあるだろうが……ほぼ半死状態に見える。

神族は存在力がどうこうとか、言ってたな。

こういう時の神族の扱い……。

一旦ロキエラに、意見を聞きたい気もするが――

「はぁ……はぁ……っ」

……十河。

聖。

とりあえず、あの二人を……

「そご――」

その時、

「応急処置の心得がある者はアヤカ殿とヒジリ殿をお願いします! それから、トーカ殿も!」

ヴィシスに対しいまだ臨戦態勢を解かぬセラスが、声を上げた。

十河と聖については。

――今まさに、俺が言おうとしたことだった。

「はぁ……はぁ……」

聖の名を呼ぶ樹の涙声が、やけに大きく聞こえる……。

「…………」

……セラス。

今の俺が大きな声を出すのがきついと察して。

おそらく、俺の代わりに言ってくれた。

……そうか。

年月で見れば大した期間じゃないが。

ずっと俺をそばで、見てくれていた。

だからきっと、おまえにはわかるんだな。

わかって、くれるんだな……。

顔だけで振り向いたセラスと視線を交わし、一つ頷く。

ヴィシスへの警戒はまだ解けない。

ただこの状態の俺よりは、セラスの方が速く対応できる。

「ぐっ……つーか――」

視線を”そこ”へと、向ける。

「……無茶、しやがって」

どんな顔をすればいいか、わからない自分がいる。

「ビ、ギッ……ギ、ィ……ッ」

それでも俺は――首の後ろから顔を出したその相棒の名を、呼ぶ。

「 ピ(・) ギ(・) 丸(・) 」

いつの間にかピギ丸は”自分の意思”で俺と接続していた。

ヴィシスにバレないように、本当にこっそりと。

いやどころか――俺にすら、気づかれないように。

ブシュッ、と。

血が噴き出るようにピギ丸の粘体の一部が床に落ち、跳ねた。

まるで――出血。

食らっているのだ。

大きなダメージを。

「…………」

ロキエラの施した軽減紋。

必死に上げたレベルによる勇者のステータス補正。

禁呪の発動は想像通りかなりの痛み――ダメージを発生させた。

死痛。

なるほど、的確な表現だと思った。

確かにもの凄い痛みだし、死ぬほど き(・) つ(・) い(・) 。

けれども――

今、俺はこうして立っている。

しゃべることができている。

要するに――死ぬほどきついが、想定よりはダメージが少ない。

「おまえが……何割か、引き受けてくれたんだな……」

ピギ丸との接続。

この状態で俺が負傷したらどうなるのか?

考えたことはなかった。

ただ、ピギ丸は承知していたのかもしれない。

自分にもダメージはくるのだ、と。

……ていうか、そういうことか。

この戦いに入ってから、やけに緊張してるなと思った。

覚悟がいやに決まっている、というか。

ただこれはヴィシスとの直接対決――決戦でもあった。

だからそうなるのも不思議ではない。

が、ピギ丸はうかがっていたのだ。

俺に内緒でこっそり接続し、発動のダメージを自分も受けることを。

そうだ。

疑似発動紋の話をしていた時……。

あの場にいたのは、俺の他はムニンとロキエラだけじゃなかった。

ピギ丸も、いたのだ。

聞いていた――あの話を。

ただ、

「今回のことは……少しだけ俺も、怒ってるぞ」

「ビ、ギ……ィ……」

「なんでだよ……どうして、おまえ――」

「……ビギ」

「 全(・) 部(・) の(・) 痛(・) み(・) を(・) 、 引(・) き(・) 受(・) け(・) よ(・) う(・) と(・) し(・) た(・) ?」

「ピ……ギ……」

多分……ピギ丸は。

死ぬつもりだった。

俺の代わりに。

痛みを、すべて引き受けて。

おそらく接続状態になった時なのだろう。

伝わってきた――それが。

幸い”どちらかのみ”に死痛がいくことはなかった。

結果、痛みを分け合うことになった。

接続状態の俺にはそれがわかった。

ある意味――真に文字通り”痛み分け”と言える。

三つの禁術製の強化剤。

ピギ丸はこれでかなり耐久力を獲得していた。

耐えられたのは、その影響がかなり大きいのかもしれない。

上がっていたのだ。

想定以上に、ピギ丸の耐久力が。

……だとしても。

「馬鹿野郎だ……ほんと……馬鹿だ、おまえは……」

「……ピ、ィ♪」

どうして、おまえは――そんなにも。

そんなにも……。

自分の顔が――

こみ上げてくる感情に激しく歪みそうになるのが、わかる。

「――――――――」

この旅の中で。

いつだって献身的で。

無邪気な姿は――俺もみんなも、癒やしてくれて。

元気づけてくれて。

力を、貸してくれた。

貸し続けてくれた。

そうして、たくさん助けてもらった。

精神的な面でも。

何度――おまえの存在に救われたか、わからない。

「ピギ丸……やっぱりおまえは、俺の……」

何(・) 度(・) だ(・) っ(・) て(・) 、 言(・) っ(・) て(・) や(・) る(・) 。

「かけがえのない――世界でいちばんの、相棒だ」

「ピ、ニュ……ィィ……♪」

「……おまえはもう十分にやってくれた。あとは……休んでろ」

「ピ……」

「…………」

「…………」

「ピギ丸」

「ピ、ギ」

「…………ありがとな」

「…………ピ♪」