軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

AVENGER(S)

鹿島小鳩が猫を引き取ってくれると言った時、心から感謝した。

数日後、礼を言おうと鹿島に声をかけた。

しかし彼女は気まずそうに視線を伏せ、立ち去ってしまった。

嫌っている感じの反応ではなかった――と思う。

鹿島は引っ込み思案な女子の印象があった。

休み時間、男子と教室で喋っている姿を見たことがない。

多分どう対応すればいいかわからなかったのだろう。

だから最終的に無言で立ち去るしかなかった。

案外、いずれ向こうから声をかけてくるかもしれない。

――嫌われていなければ、だが。

もし嫌われているならそれまでの話だ。

だが、そうでないなら急かす必要はない。

他人との関わりなんて急いで作る必要はない。

ゆっくりと、作っていけばいい。

叔父夫婦の助言は、今も俺の中にしっかり根づいている。

俺は木陰に座ってカツを齧っていた。

皮袋を確認したら機能が復活していた。

なので休憩がてら食事をとることにした。

隣ではスライムがプルプルしている。

平たい長方形の”それ”を見つめる。

トンカツ風の駄菓子。

たまに食べたくなる味。

元の世界では定期的に食べていた記憶がある。

適度に歯ごたえのある表面の衣。

中身の独特の弾力。

確か魚肉だっただろうか?

表面には濃い茶色のソース。

濃い味つけ。

しょっぱさの中にわずかな甘みもある。

しっとりしつつ適度な硬さのある歯ごたえ。

この二つが合わさると、たまらない。

口内がガツンとした力強い味に占拠される。

決して量が多いとは言えないが、妙に満足感がある。

緑茶をゴクッと口に流し込む。

口の中がサッパリする。

「ふぅ」

地上に出たおかげか。

心理的に飲食物を消費しやすい。

手もとのカツを眺める。

あと、ひと口分。

「……食ってみるか?」

物は試し。

物珍しそうに観察していた(?)スライムに差し出す。

フニョニョォ〜

身体の一部が突起物のように伸びてきた。

「ピ、ギ……?」

「ん? 食べていいか聞いてるのか?」

スライムの体色が緑に変化。

イエスのサイン。

「ああ、もちろんだ」

少しスライムの方へ突き出す。

突起の先端がニュルッとカツを包んだ。

カツがスライムの体内へ移動。

体内でカツが溶けていく。

ふぅん。

こうやって食べるのか。

「キュィィィ〜♪」

今度は淡いピンク色になった。

喜びの表現。

お気に召したらしい。

先ほどスライムで軽い検証をした。

意思疎通ができるのかどうかの実験だ。

ある程度こちらの言葉の意図は伝わっているようだ。

なお、スライム側にも意思表示の方法があった。

緑は”肯定”。

赤は”否定”。

ピンクは”好意的”や”喜び”。

今のところ判明しているのはこの三種類くらいだ。

他にも何かあるのかもしれない。

だが今はこれで十分。

思ったより感情表現の豊かな魔物である。

共通言語や顔の表情がなくとも意思は伝わってくる。

下手をすれば人間よりわかりやすいくらいだ。

また、このスライムは器用な魔物だった。

魔物がすんなりと町や村に入れるかはわからない。

これが当座の問題となっていた。

が、すぐさまこの問題は解決の兆しをみせた。

スライムは縄のように細長く身体を変化させられた。

ローブの下で身体にまとわりつかせれば、姿を隠せる。

「あとは……町や村に魔物の気配を察知するような何かがなければ、この問題はクリアできそうだな」

さらに俺の身体へ”仕込む”この方法にはもう一つ利点がある。

俺は立ち上がった。

スライムに指示し、身体にまとわりつかせる。

縄状になったスライムが足から這い上がってくる。

フヨフヨした感触を上半身で生地越しに感じる。

首の後ろあたりがモゾモゾとする。

スライムが姿を出す。

「ピギー」

「後ろ、見えてるか?」

「ピ!」

俺の顔の前に突起が伸びてくる。

先っぽが緑色に変化。

”肯定”

「よし……」

俺の意識外の背後に何かいたら、こいつが知らせてくれる。

急場しのぎだが、背後に一応”眼”を得られた。

死角対策もひとまずこれで打てたことになる。

「おまえを仲間にしたのは正解だったらしいな」

「ピギー♪」

スライムが元に戻る。

再び俺も座り込んだ。

実は一つ気になっていたことがあった。

皮袋から『禁術大全』を取り出す。

胡坐をかいてページを開く。

スライムも突起を伸ばして覗き込みにきた。

「確か、このあたりのページに――」

遺跡内でパラパラ捲った時の記憶を辿る。

「あった」

『魔物強化体系草案・実験結果』

『魔物強化剤(進化促進剤)の作成』

『スライム→可』

『第一実験、成功』

『第二実験、成功』

『第三実験、成功』

『凶暴化等、魔物への悪影響はいまだ認められず』

下にメモっぽい走り書きがあった。

”むしろスライムとの関係は以前と比べより良好となった。完全に情が移っている点は否定できない。困った。おかげでスライムの可愛さに、目覚めてしまった”

「…………」

大賢者は実験対象にほだされたらしい。

「それにしても……魔物強化剤、か」

これでスライムの性能を底上げできるかもしれない。

スライムを一瞥。

「そういえば、こいつらにレベルアップの概念ってあるのか……?」

いずれ検証してみたいところだ。

ただし今の時点で引っかかりもある。

大賢者は”あえて”強化剤を研究した。

魔物の能力の増加を強化剤に頼る=召喚勇者たちと同じようなタイプのレベルアップはできない。

こうも考えられる。

だからこそ、強化剤を開発した。

「ただこれ……悪用されると、けっこうアレな研究かもな……」

該当ページを眺めながら唸る。

人間が魔物の強化を意図的に行える。

大賢者が”禁術”としたのも、わかる気がする。

さらにページへ仔細に目を通す。

強化剤の原料となる素材が記してあった。

入手場所も記してある。

当然ながら見覚えのない地名ばかりだが。

「禁呪の読み手を捜す途中で入手できそうなら、これらもついでに手に入れる方向で動いてみるか」

さて、

「そろそろ、行くとするか」

「ピ!」

「ええっと――」

スライムに呼びかけようとして、言葉が途切れる。

「ピ?」

名前は……あった方がいいか。

鳴き声は”ピギー!”。

丸っこい。

「ピギ丸だな」

「ピギ?」

「今日からおまえの名前は、ピギ丸だ。まあ……一応、異議の申し立ては受け付けるが――」

「ピギー!」

緑色に変化。

”肯定”

「ピッギッギッ〜♪」

次はピンク。

喜んでいると解釈してよさそうか。

俺は『禁術大全』をしまおうと皮袋を手に取った。

中にはまだ転送されてきた飲食物のゴミが入っている。

ニオイを考慮してゴミについた汚れはできるだけ落としてみたが……。

まあ、

「すんすん」

魔法の道具ゆえなのか。

不思議と皮袋内はずっと無臭のままだった。

取り出した『禁術大全』にも変なニオイはついていない。

とはいえ、そのうち別の袋は手に入れないとな……。

溜まったゴミもいずれ処理したいところだ。

『ゴミのポイ捨てはだめよ?』

叔母さんの教え。

守れるものは守っていきたい。

「叔母さんは、元気にしてるんだろうか……」

イイ人すぎて逆に心配になるくらいの人だった。

「あの人のことだから……心配、してくれてるんだろうな……」

あれは実の親が蒸発したあと、初めて叔父夫婦と会った日のことだった。

叔母さんは幼い俺を強く抱きしめた。

手と声が震えていた。

最初、怒っているのだと思った。

酒飲みで怒ってばかりの父親の手はいつも震えていた。

憎悪を叫ぶ母の声も、いつも震えていた。

”気づいてあげられなくて、ごめんね”

叔母さんは俺に謝った。

最初、叔母さんが何を謝っているのか理解できなかった。

のちに俺はその意味を知った。

意味を知った時、俺は泣いていた。

嬉しかったのだ。

人は嬉しい時にも泣く。

あの時の俺にとっては、驚きの初体験だった。

皮袋を担ぐ。

スライム――ピギ丸を、身体にまとう。

歩き出す。

目指すは、町か村。

「なあ、ピギ丸」

ピギ丸がニュルッと肩のあたりまで伸びてくる。

「ピィ?」

「俺がやろうとしてるのはごくごく個人的な復讐だ。見ようによってはつまんねぇ目的だろうが、俺にとっては大事な目標でな……」

復讐に囚われるなど愚かだ。

復讐などしてなんになる?

復讐などして何が残る?

復讐なんてカッコ悪い生き方だ。

復讐なんて間違っている。

復讐なんて無意味だ。

そんな向きもあるだろう。

きっと、

復讐に拘泥する姿は時に哀れに映るだろう。

復讐に執着する姿は時に惨めに映るだろう。

だ(・) が(・) 、 俺(・) は(・) や(・) る(・) 。

誰のために?

聞くまでもない。

自分のためにだ。

自己満足のため。

俺自身が納得するため。

俺自身の感情に、決着をつけるため。

万人のための崇高な理想など、クソ喰らえ。

邪悪から世界を守る救世の勇者?

隔絶的に、向こう側の話だ。

俺の目的は究極、完全なるエゴへと帰結する。

だがこの復讐には正当な大義もある。

俺の、俺による、俺のための大義。

もし他の仲間ができたらこれは復讐目的の旅だと告げる。

迷わず告げる。

隠さず告げる。

降りるかどうかは、相手次第。

そう、決めた。

「だからこれはそんな復讐を果たすための旅になる。おまえはこれから、そんな俺のエゴにつき合うことになるが――それでいいのか?」

「ピ!」

「降りるなら今だぞ? おまえが望むなら、ここで降りても俺は文句を言わない」

「ピィィ!」

突起が赤くなった。

”否定”

「……俺の復讐の旅に、つき合うってのか?」

「ピ!」

緑色に変わる。

”肯定”

「フン、そうか」

首の横に伸びる突起を軽く撫で、俺は、次の一歩を踏み出す。

「なら、改めて――」

ハズレ者の二人旅。

「よろしく頼むぜ、相棒」

「ピギー!」

体色の艶を増したピギ丸が、軽快な鳴き声を上げた。

小枝を折りながら林の中を進む。

これが、復讐の足音か。

”復讐は何も生まない”

「違う」

何かを、生み出したいわけじゃない。

こ(・) れ(・) 以(・) 上(・) 、 生(・) ま(・) せ(・) な(・) い(・) 。

「こっちの準備が整い次第――容赦なく、ぶっ潰してやるよ」

こ(・) れ(・) は(・) 、 そ(・) の(・) た(・) め(・) の(・) 復(・) 讐(・) 。

クソ女神。

「 復(・) 讐(・) は(・) 必(・) ず(・) 、 完(・) 遂(・) す(・) る(・) 」