軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

過去と未来の話

桐原に【フリーズ】がかかるのを見届けたあと。

十河は、意識を失った。

というか――眠りについた。

聖の胸の中で。

「この様子だと、おそらくもう何日もまともに眠れていなかったんだと思うわ。極弦の影響もあるかもしれない。しばらく……寝かせてあげましょう」

糸が切れたんでしょうね、と。

聖は付け加えた。

と、セラスが浮かない顔で近づいてきた。

なんというか。

教師に怒られるかも、と気にする生徒みたいな感じで。

俺は先んじて、

「さっきのことなら謝らなくていいぞ」

独断で十河に説得を行ったのを謝ろうとしたのだろう。

セラスは苦笑し、

「もう見通されています、か」

「高雄聖ありきとはいえ、あれが十河の背中を押す最後の一押しになった気もする。つまり、説得の成功はセラスの功績も大きい」

命を絶つ、は言いすぎだったかもしれないが。

しかし俺は口を出さなかった。

十河の反応でもわかった。

そう。

何よりも。

十河綾香が、受け入れまい。

自分との約束でセラスのような者が命を絶つなど。

ただ――言葉の”強さ”としては、実に効果的だった。

「桐原との戦いも手当ても助かった。今回も、よくやってくれた」

「いえ、やはり今回もあなたの何重もの備えあってこその勝利だったかと……私だけであのタクト・キリハラに勝てたとは到底思えません。それに――」

さっ、と背を向けるセラス。

彼女はその白い両手を腹の前辺りで組み合わせ、

「何かと戦う時にあなたが側にいることの心強さ……改めて、とても深く感じました。あなたがいたから、雑念なく目の前の戦いに集中できたのです」

「いつも以上に心強さを感じてたのは俺もだよ。今回だってセラスにムニン、ピギ丸やスレイがいてこその勝利だ。いつも言ってるだろ。策だけあってもそれを――」

「『実行できるヤツがいないと、意味がない』」

セラスが身体の正面を俺の方へ向け、はにかむ。

「――で、よろしいのですよ……ね?」

フン、と鼻を鳴らす。

「もう、言うまでもないか」

「トーカさん、今回も冴え冴えだったわね!」

ぴょんっ、と。

セラスの両肩に背後から手を置いたのは、ムニン。

第一形態に戻ったスレイもその後ろにいる。

「パキューン」

そんなスレイを遠巻きに眺めている樹が、

「えぇ~? 何だあのカワイイの……パキューン、とか言ってるんだけど……」

キュンとしていた。

「ムニンも、よくやってくれた」

「ふふ、でもよかった」

自分のてのひらに、ムニンが視線を落とす。

「ちゃんと、効いてくれて」

こっちとしては試し撃ちをさせてもらったみたいなもんだ。

いざ発動してみたら効果がなかった、なんてのは避けたい。

今回の戦いは想定した最悪の事態に見舞われた。

が、結果で見れば決戦前に禁呪の効果の有無を確認できたことになる。

「とはいえ禁呪を用いた戦いは今回の通りだ。俺の状態異常スキルを決めるには、禁呪の射程距離にヴィシスをおさめた上で、隙を生み出さなくちゃならない。やはりこれをやれるかどうかが、課題になるはずだ」

ムニンがやや離れた場所にいる高雄姉妹と十河を見やる。

姉妹は、桐原や十河の様子を確認していた。

「すごい強そうだけれど……あのヒジリさんやソゴウさんが普通に戦って勝つ、というわけにはいかないのかしら?」

「できるに越したことはないんだろうがな」

もちろん。

今のムニンの案を試したわけじゃない。

可能性は否定できない。

が、S級の高雄聖がヴィシスに一度敗北している。

ヴィシスは自らの力を増強する手段を何か持っているらしい。

聖が戦った時、ヴィシスは大魔帝の強力な邪王素で弱体化していた。

その条件で互角くらいだった、と聖は言っていた。

聖以上の純粋戦力と思われる十河ならやれるのだろうか?

やれるならやはり、それに越したことはないが……。

……それから。

戦場浅葱の固有スキルか。

あれを決められれば――効くのなら、ヴィシスを引きずり下ろせる。

だが、問題はやはり”至近距離”という条件だろう。

さらに言えばあれも【 女神の解呪(ディスペルバブル) 】に無効化されないとも、限らないわけで。

敵味方の観点でどこまで浅葱を信用できるか、ってのもまだ未知数だ。

何より、

「俺としては、ヴィシスがあれほど禁呪を忌避している以上……やっぱり禁呪と状態異常スキルの組み合わせが、確実性は高いと思ってる」

そう。

効きさえすれば。

どんな敵もこのスキルは、くだしてきた。

どんな相手も。

桐原拓斗も【 女神の解呪(ディスペルバブル) 】を失ったあとは、そのまま状態異常スキルでくだせた。

「ふふふ、それにトーカさんが状態異常スキルでヴィシスを倒した方がビシッと決まった感じするものねっ」

「そこにとらわれすぎるのも、まずい気はするがな」

てか、

「さっき、聖や十河が普通に戦って勝つわけにはいかないのかしらとか言ってなかったか?」

「え? え、ええ……もちろんそれでも、いいけれど……」

伏せがちに憂いを纏うその灰青の目は――何かに、思いを馳せていた。

「わたしだって――自分の禁呪の貢献でヴィシスを倒した方が、胸を張ってみんなのところへ戻れる気がするもの……」

くすりっ、と。

我に返るように微笑み、視線を上げるムニン。

「――って、こんな大事な戦いをそんな自己都合だけで進めちゃだめよねっ」

「別にいいだろ。俺だって、ここまで自己都合で進めてきたんだ――何もかも」

そう。

誰もが。

自己都合で進んだっていい。

時に、目指す方向が同じになるだけだ。

聖が一人で近づいてきて、俺の隣に立った。

「少し……二人で話をしたいのだけれど、いいかしら?」

セラス、ムニン、樹、スレイは今俺たちとやや距離のある場所にいる。

俺は樹が桐原に布を被せるのを見ながら、

「話すことはたくさんありそうだ。使い魔越しだと限りがあったからな――”聖”でいいんだったか?」

「今さら”聖さん”と言われてもね。今のあなたにはきっと、合わないだろうし」

「わかった。で、聖……何を話したい?」

「まず、元の世界のあなたは演技で作られた三森灯河だったの?」

「その話からか」

「こうしていざ会ってみると、やっぱり別人に感じるから。顔の造りはそのままでも、人格の方がそっくり入れ替わっているように見える。それはつまり、かなりの演技力を要することよ」

「前の世界の俺が演技によって作られた”三森灯河”だったって見立ては……まあ、間違っちゃいない。あのクソ女神と廃棄遺跡のせいで本来の自分ってヤツを思い出させられた、ってとこか」

「元々そっちが本来の三森灯河ということ?」

「大まかに言えば、その理解で合ってる」

そんな自分を、忘れてすらいたが。

元々の本質は今の”俺”だ。

「ちょっとばかりうちは家庭環境が複雑でな。その関係で、元の世界の俺は存在感を薄くするのに苦心してた。無害な人間を演じて周りに溶け込む必要があった……って言うと、わかりやすいか?」

わかりやすいわね、と聖は言った。

相変わらずの、淡々とした表情で。

「社会に内在する限り、誰もが大なり小なりペルソナを被っているわ。ほとんどの人はペルソナ――つまり仮面を被って、仮初めの自分と本当の自分を使い分けている。ただしあなたの場合、その仮面が”人の顔”と遜色ないのでしょうね。真に才能ある役者、と言い換えればわかりやすいかしら?」

わかりやすいな、と俺は言った。

そういえば。

高雄聖はこういう小難しそうな言い回しをするヤツだった。

使い魔越しだと制限があったから、抑えられてただけか。

「個人的に、今のあなたは嫌いではないけれど」

「フン、あの高雄聖にそう言われる日が来るとはな」

「この世界で生き残るにしても、今の”あなた”の方が適していると思う。あと――あなたも含めて……2-Cのクラスメイトは、私を少し絶対視しすぎね」

「十河に対する、2-Cの連中もな」

聖はジッと十河の方を眺め、

「十河さんがまだ十代の少女でしかないことを……私も、どこかで忘れていたのかもしれない」

「文武共に成績優秀で、容姿端麗……あの十河グループ会長の孫で、クラス委員……それと、古武術だったか。性格は思いやりがあって、真っ直ぐ……正義感が強く――純粋。何もかも揃った、立派な人物ってヤツだ」

「その中に、諸刃の剣が一つ」

「……純粋さか」

「ええ。私たちの世界でも多分に漏れず、純粋さは邪悪に利用されるのが世の常だもの。不純物が少なければ少ないほど、利用されやすい。そして不純物がまじった時、純粋さはそのまじった色に染まりきってしまう危険を孕む」

「不純物が少ないからこそ――別の色にも染まりやすい、か」

要は、洗脳されやすい。

「たまに……純粋さを保ったまま成長できた人間もいるのよね。私たちのいた国だと、最近ではむしろ階級の上位層に多いのかしら……多分、親や周囲の環境が純粋さを保てるよう機能しているんでしょうね。つまり――周りに邪悪を知る人間がいないと、ああいった純粋さは保てない」

たとえば。

セラスで言う、姫さまとか。

「純粋だからこそ悪質、ってのもあるとは思うがな」

「そこは教育の問題にかかる領域ね。純粋さ自体は、尊いものだと思うわ」

「しかしその尊いレベルの純粋さってのは……社会で生きてりゃ大抵、どっかで失われるもんだろ」

「純粋さを保ったまま生きるには周りの誰かが”ライ麦畑のつかまえ役”になる必要がある、ということよ。これは、私の自己解釈かつ持論だけれど」

「ライ麦畑のつかまえ役?」

なんか似たタイトルの小説があった気がするが。

俺は自分なりに聖の言葉の意図を汲み取って、

「つまり……十河みたいな純粋なヤツには、邪悪を知る保護者が必要ってことだろ?」

「そういうこと」

”真性の邪悪に対する耐性がない”

これは、セラス・アシュレインにも同じことが言えるか。

ほんのわずか。

聖の面差しに、薄ら複雑な感情が走った気がした。

「彼女が純粋であるがゆえに――正直、私も判断に困る局面があった」

たとえば。

ヴィシスを暗殺しにいく直前のこと。

聖は、迷っていたという。

計画の全貌を、十河綾香に明かすかどうか。

元の世界への帰還も含めたミラとの繋がりのこと。

対ヴィシスのために敷いてきた計画のこと、など。

「万が一ヴィシス暗殺に失敗した場合も考えて、十河さんに計画のすべてを託すことも一時は考えたの」

渡す予定のメモは 二(・) 種(・) 類(・) あ(・) っ(・) た(・) 。

「が、全貌を記したメモの内容を十河がヴィシスに隠し通せると思えなかった?」

「純粋すぎるがゆえに、ね」

言って、聖は続けた。

「それに……私の計画がヴィシスに露見してしまうと、とある人物を危険に晒すかもしれなかった。その人物はもしかしたら対ヴィシスにおいて鍵となるかもしれない。私は、そちらの人物の安全を優先させた。つまり、十河さんをフェイクに使ったの。ヴィシスの目を逸らすために」

俺は聖の表情を観察した。

数拍置いてから、

「単に十河の身を案じての選択だった、とかもありそうだがな」

「…………」

十河が聖の反逆を知っていたら、女神に共犯と見なされかねない。

そうなったら。

ヴィシスは十河を”許さない”かもしれない。

しかし――何も知らなかったのなら。

引き続き”利用されているだけ”で済むのではないか?

連帯責任による重い罪は、避けられる。

聖は、そう考えたのではないか?

「おまえ、十河のこと――嫌いじゃないだろ?」

俺は、やや迂遠な聞き方をした。

聖はしばらく黙った。

そして離れて眠る十河を見つめ、

「思い返しても、私らしくない感情だったと思う。そうね……そこは珍しく、らしくない エ(・) ゴ(・) が出た」

質問に対する明確な答えは、返ってこなかった。

ともかく、

「で、ヴィシス暗殺に失敗した高雄聖は……態勢を整え直して十河綾香に接触し、機を見て計画の全貌を伝えた上で、改めて味方にする。そんな次の方針を立てたものの――」

「私がヴィシスの仕込んだ毒で倒れ、意識がなくなってしまった」

「そして十河への伝言を頼んだ樹も、伝言より姉の命の方を優先した結果――」

俺は樹から十河へ視線を移し、

「十河はヴィシスにいいように洗脳され、手遅れな状態になってしまっていた」

壊れて、しまった。

聖はゆるゆると首を振った。

「ヴィシスの暗殺に失敗……失敗時の 次善(じぜん) 策も私が毒で倒れたせいで手遅れになり、結果、十河さんを最悪な形でヴィシスにいいようにされてしまった。ね? 言ったでしょう? みんな、私を絶対視しすぎだって。結果だけ見れば、私は失敗続きなのよ」

「要するに……さっきの聖の言葉を借りれば、あの高雄聖も所詮はまだ十代の少女だってことだろ」

「あなたも十代だけれどね」

「……さっき最悪と言ったが――最悪、でもないだろ」

俺が言うと、聖は視線を足の爪先に落とした。

こうして見ると、セラスに負けないくらい睫毛が長い。

「そうかしら」

「姉妹揃って死なずにここへ辿り着いた。十河もひとまず、無事に確保した。俺視点じゃ、まだ十分カバーできる失敗に思えるがな。ま、結果論だが」

「それは――三森君なりに、励ましてくれてる?」

「一応」

俺はセラスたちをぼんやり眺めながら、

「身の丈以上に期待されて、それに律儀に応え続けようとするってのも……なかなか大変なもんだな」

「身に覚えがある、って言いぶりね」

「蠅王も三森灯河も周りが思うほど万能じゃない。完全じゃないし、完璧でもない。が、そう見せ続けなきゃいけない。そして――そのための努力を俺は惜しむつもりはない。当然、結果も出し続けるべきだ。身の丈以上に、全力で」

フン、と鼻を鳴らす。

「身勝手な復讐の旅に巻き込んだ以上、それを目指すのは義務だからな。俺の場合は経験不足を……十代を、言い訳にはできねぇよ」

「あなたはすべて、自分で抱え込むのね」

「抱え込む覚悟がねぇなら最初から復讐なんて考えるなって話だ」

ふっ、と皮肉っぽく微笑む聖。

「ヴィシスも、とんでもない勇者を廃棄してしまったのかもしれないわね……」

「あのまま城に残ってたらそれはそれで、いいように使われてたのかもだけどな」

「今回の十河さんや桐原君のように?」

「ああ。つーか……桐原と言えば、今回のあいつに関しての聖の分析は助かった」

「……聞いていいかしら? あの【フリーズ】というスキル――」

何か、言いかける聖。

しかし、

「――やっぱりいいわ。やめておく」

質問内容は、想像がついた気がした。

本当に300日後”生きたまま”解除されるのか?

聖は、それを聞こうとした気がする。

実は――どうなるかは、わからない。

まだ300日経過したサンプルがないからだ。

ゆえに本来は断定などできない。

ただ、十河に説明した時の俺は”心から”そう信じていた。

だがしかし。

もし”生きたまま”解除、とならなかったら。

俺は十河に嘘をついたことになる。

そして、俺を信じると言った聖も、十河からの信頼を失うかもしれない。

「結果に対してのすべての責は俺が被るさ。すべてが、終わったらな」

「……突き進む復讐者は背負うものが多すぎるわね。逃げ道もない」

「復讐ってのはそういうもんだろ。それより……過去の摺り合わせもいいが、そろそろ今後のことを話しておくべきじゃないか?」

切り替えるように、そうね、と聖が濡れた髪を撫でる。

「まずクソ女神だが……今回、桐原についてきてはなかったみたいだ」

「禁呪の存在を恐れて来なかった……これはありうると思うけれど」

「もしくは―――桐原を使って無効化の禁呪の有無の確認をしたかった、とかな」

「なるほど」

「あるいは……桐原や十河をぶつけている間に、俺を倒すよりも優先すべき何かをやってたとかもありうる。で、ヴィシスが執着しそうなものと言えば――」

「……大魔帝の心臓?」

「ああ」

「桐原君の持ち物に大魔帝の心臓らしきものはなかった。ただ、例の首飾りがなかった」

大魔帝を倒した際、首飾りが大魔帝の邪王素――封印部屋の記述によれば根源素と呼ぶのが正式のようだ――を吸収した可能性はある。

で、桐原は首飾りを所持していなかった。

「となると大魔帝の邪王素――根源素がヴィシスの手に渡っている可能性は、高い」

聖はそこで、暗殺を試みた際にヴィシスが飲んだ黒い玉の話をした。

「大魔帝の心臓が秘めているエネルギー……あなたの言う根源素というのは、その黒玉と関係しているんじゃないかしら?」

「たとえば、ヴィシスは神族としての能力を高めるために根源素を集めている……しかし、勇者の帰還にそのエネルギーをたくさん消費するとすれば……」

「ヴィシスとしては勇者を帰還させず、そのエネルギーをすべて自分で使いたい」

少し、視点を変えてみる。

「なんらかの目的のためにヴィシスは、根元素を貯め込んでいる……」

視線だけを俺へ向ける聖。

「つまり……召喚された過去の勇者たちも、元の世界へは戻れていないのかもしれない。ヴィシスに始末されるなり、この世界でその後を過ごすなりさせられた……自分の意思ではなく、ね」

「ありえない話じゃないな……勇血の一族の残り具合からしても。で、始末の場合は……あの廃棄遺跡を使っていた」

どうも自ら直接手を下すと何か不都合があるらしい。

が、転送先の廃棄遺跡で死ぬならセーフ……と。

これが当たっているなら。

なるほど。

わざわざ、廃棄遺跡へ送り込む意味はあるわけだ。

「こっちもここで一つ聞いておきたい。十河や聖たちは、やっぱり元の世界に戻りたいのか?」

「十河さんと私たち姉妹……十河さんに合流したグループの子たちは、そう考えているとみていいと思うけれど」

「ヴィシスを倒して貯蔵してある根源素を手に入れれば、クソ女神がいなくとも元の世界に戻れる――帰還の禁呪によってな」

帰還の禁呪のことは、先んじて使い魔を通して伝えてある。

「要するに三森君は、これは2-Cの私たちが元の世界へ戻るための戦いでもあると言いたいのね。そして……十河さんにも私からそう伝えてもらいたい、と」

「理解が早くて助かる」

シンプルに、

”ヴィシスを倒す”

現状は、2-C連中の思考をここへ持っていくのが正解だろう。

そして旗振り役は今のところ、高雄聖以上はいまい。

「その十河だが……今後どう扱うか、何か考えはあるか?」

「意識が戻ったあとは、しばらく私に任せてもらえるかしら? まずは精神的なケアをしてあげないといけないと思う」

「……わかった。今それができるのは、聖だけだろうしな」

今はそれが、最善手だろう。

「表向きの扱いはどうすべきかしらね」

「ひとまず……死亡扱いか、行方不明の線がよさそうだが」

「そうね。十河さん自身も、まだ状態がどうなるかわからないし……アライオンにいると思われるクラスメイトたちのことを考えても、少なくともミラ側についたと思われかねない情報はまだ出さない方がいい」

「……目を覚ましたら十河はまずそこを一番気にするだろう。それは、今のところ十河の最大のウィークポイントだ」

アライオンにいるらしいクラスメイト。

そいつらが安全である、という状態を作らなくてはならない。

失敗した場合、十河綾香の精神状態はかなり危うくなる気もする。

……最悪、2-Cの連中は諦めるしかないかもな。

気になるのは、聖があの連中をどう見てるかだが――

「アライオンにいる、クラスメイトのことだけれど」

「……ああ」

「実は、無事に脱出させるあてがなくはないの」

あて?

――ああ。

もしかして、

「さっき、対ヴィシスの鍵になるかもしれないとか言ってた……」

「ええ――例のとある人物……言うなれば、内部の協力者。その人物なら、タイミングを見てクラスメイトたちを連れ出せるかもしれない」

「そいつ自身の身の安全は、大丈夫なのか?」

「大丈夫だと思うけれど……一応、自分の身の安全を優先してとは伝えてある。ただ、その人物も内心ヴィシスをよく思っていない。けれど、ヴィシスからはかなり信用されているはず」

「へぇ……そんなヤツがいるのか」

とある人物。

名はまだ明かせない、か。

ヴィシスの近くにいて、信頼されている。

なのに――裏切るようなヤツ。

……違和感がある。

なんというか。

ヴィシスの周りにいるタイプ、というイメージがない。

その時――とんとん、と。

聖が靴の爪先で、地面を叩いた。

「――そうね、考えてみればここで名を隠す意味もないわね。今後を考えれば極力、情報はあなたと共有すべきでしょうし。その協力者の名前はニャンタン・キキーパット、というのだけれど」

「――――――――」

ニャキ。

ここで、繋がってくるのか。

「もしかして……知り合い?」

「いや、会ったことはない。だが……」

そいつは。

「そいつは――是非とも無事に、合流してもらわないとな」