軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

白狼騎士団

◇【ニャンタン・キキーパット】◇

東へ向かっていた白狼騎士団のもとに、軍魔鳩が伝書を運んできた。

ヴィシスからの伝書。

白狼騎士団は伝書に従い、進路を変えた。

指示した場所に小さな砦跡があるとのことだ。

新しく建てられた砦の関係で、役目を失った場所だという。

ニャンタン・キキーパットは、そこへ向かう白狼騎士団に同行していた。

「ソギュード様、見えましたが……」

唖然として白狼騎士が言った。

騎士団長のソギュード・シグムスは手綱を緩め、

「タクト・キリハラ……そして、あの背後に蠢いているオーガ兵に、金眼の魔物たち……さらに、あれは――側近級か。なるほど、伝書の内容は事実だったらしい」

大魔帝を討ち取った勇者タクト・キリハラ。

彼は固有スキルによって金眼を従属させる力を得たという。

白狼騎士団の先にはキリハラ――やや離れたその後方に、魔の軍勢。

騎士団唯一の黒馬からおり、ソギュードはキリハラと相対した。

他の騎士は固唾を呑んで見守る。

邪王素はもう放っていないと、事前に聞いてはいるものの……。

やはり人間が金眼を従えている光景は、不気味に映る。

「久しぶりだな、キリハラ」

低い、厚刃のような声。

粗暴さと沈着さが共存した独特の響き。

声質はある男に近似している。

似ているのはやはり、マグナルの白狼王にである。

やはり血を同じくする弟だ。

顔立ちは彫りが深く精悍。

ヒゲは整え切れていない。

しかし、手を入れればすぐに品のよい貴公子で通るであろう。

小汚い印象を受けるも、そこには隠せぬ気品が見え隠れしている。

「” 黒狼(こくろう) ”ソギュード・シグムス……」

キリハラがその名を口にした。

白き狼たちの騎士団。

その白狼たちを率いる唯一の黒狼。

灰白装の中、一人だけ漆黒の騎士装を纏う男。

屈強なる騎士団を率いる異質の唯一色。

ある者が思い浮かべるのは、あの最強騎士団の男であろう。

黒竜の中において、唯一白竜に騎乗していた白き最強。

かつての”人類最強”シビト・ガートランド。

北を駆け巡る黒き狼。

南を飛び巡る白き竜。

この両者は対比され、よく話題に上がっていた。

ソギュードが尋ねた。

「ヴィシスから伝書を受け取りここまで来たが、白狼騎士団に何か用とか?」

ソギュードは大侵攻の際、キリハラと東の戦場を共にしている。

そのため、二人には面識がある。

キリハラが言った。

「おまえも”王”らしいな」

「……まだ王ではない」

「いいや、前王の血を継ぐ次のマグナル王だという話を聞いている……このオレの耳がな。だがしかし、マグナルの王にはオレがなると決まった……」

騎士たちがざわっとなる。

ソギュードは微動だにせず、

「悪いが、まだ白狼王が死んだとは決まっていない。まあ、王が戻るまで一時的におれが王の座につくのは受け入れるつもりでいるが……しかし、おまえに王座を明け渡すつもりはない。心配は無用だ」

「心配? 違う……オレこそがふさわしい、と明言している」

「…………」

「ヴィシスも認めている」

「!」

騎士たちに困惑の色が走る。

ソギュードもわずかに眉を顰め、

「ヴィシスが? どういうことだ?」

するり、とカタナを抜き放つキリハラ。

副長が咎めるように、

「貴様……何をっ!?」

「何をだと? 明け渡すつもりがないなら、どちらがふさわしいかを力で決めねばならない……おまえはそのまま、摂理を知らないで生きるつもりか?」

一歩、一歩、ソギュードに近づいていくキリハラ。

「……ふん、くだらんな。キリハラ……王など、おまえが思うほどよいものではないぞ? 選択肢があるのなら、おれは迷わず王の座など捨てて自由の方を選ぶ。おまえも、年を取れば堅苦しい地位などというものの無価値さを知るさ。キリハラ、おまえには力と才がある。王に憧れを抱く前に……もう少し、広い世界に目を向けてみたらどうだ?」

「自由の方を選ぶ、と言ったな? ――わかった。なら、マグナルの王はおまえの代わりにこのオレが請け負ってやろう……仕方がねーな……」

「……悪いが、あの座は我がマグナルの者が受け継ぐものだ。ヴィシスの考えはわからないが、マグナル王の座は、異界の勇者に渡せるようなものでは――」

――――トッ――――

「……?」

それは。

ほんの瞬きほどの間に起こった――ように見えた。

キリハラが、カタナの刃を前へ突き出している。

刃が、ソギュードの胸を貫いていた。

「がっ、は……ッ!?」

「かつてのキリハラと同格と考えた時点で、おまえはすでに敗北を喫していた……大魔帝を倒した今のオレはすべてにおいて最強……ただ、おまえにはこのオレに迫る王性を感じた。そこは認めざるをえない……おまえもやはり、王の器を持つ者らしい。さすがに、同族意識と敬意を抱くしかなかった――抱かされるとはな」

騎士たちの表情。

理解が追いついていない表情。

ニャンタンも、呆気に取られていた。

今―― 殺(・) 意(・) があっただろうか?

「キ、リ……ハ――」

ソギュードは、血を吐きながら腰の剣を抜き――

「もう、遅い」

キリハラが、目にも止まらぬ速度の横薙ぎを放った。

ソギュードの首が切断され、地面に落ちる。

ボトッ

瞠目していた副長の目が、その驚愕の領域をさらに拡張していく。

爆発するように、副長が絶叫した。

「え? あ……あ? あ……そん、な……ソ、ソギュード……ソギュード様ぁぁああああッ!?」

「この中にアートライト姉妹はいるのか?」

温度差を不気味と思えるほど、淡々とキリハラが問うた。

「な、に?」

「いるのか、と聞いている」

「あ、あの姉妹が……ど、どうした……と?」

「? オレの側室とするに決まっている……おまえはなぜ疑問形で聞く? 意味不明と、言わざるをえない……」

「あ、姉のディ……ディアリス様は……ソギュード様と……将来を……誓い、合った――」

キリハラが舌打ちした。

「手つきか」

「貴、様……勇者とも、あろうものが……その、ような……下劣な……よく、も――よくも……ソギュード様をッ! 全員、戦闘態勢!」

涙を流しつつも、鬼のような形相をしている騎士たち。

ニャンタンは――躊躇した。

今のタクト・キリハラの力は、かつてと比べものにならない。

敵うとは、到底、思えない。

否。

騎士たちもどことなくわかっているのではないか。

実力者揃いの白狼騎士団だ。

彼らなら、キリハラの強さとこの場の危険さは理解しているはず。

だが。

押しとどめることができないのだ。

激情――怒りを。

「ソギュード・シグムスは王の素質を備えていたが、同時に愚かだった。選択を間違えた。そして、おまえたちが生き残ってマグナルにオレの風評被害をもたらしても……不快でしかねーからな……。つまり団長が選択肢を間違えた以上、おまえたちも連帯責任で死ぬしかない……」

金眼たちが。

前進を、始める。

キリハラが、金色の光龍を発現させた。

「王命だ……一人を、除いて――」

何匹もの金龍が、大蛇の群れのように、キリハラの周囲で蠢く。

「 皆(みな) 、 殺(ごろ) せ」

殺戮が――終わって。

白き狼たちの騎士団は、今日ここに壊滅した。

今、金眼たちが念入りに死体を”処理”している。

たった一人生き残ったのは、ニャンタン・キキーパット。

それなりに慣れているはずの血のニオイ。

しかし、なぜかいつもの何倍も不快に感じられた。

キリハラはカタナを鞘に納め、

「おまえはヴィシスから生かして戻すよう念押しされている……運がよすぎたな。オレが、ヴィシスと協調路線を取っていることに感謝を抱く……当然の流れでしかない」

キリハラが一度、ニャンタンを下から上まで睨め上げた。

「おまえは有能かもしれないが……貧民街の出らしいな?」

張り詰めた表情でキリハラを見返すニャンタン。

「それが、何か」

「やはり血が弱い……オレにふさわしいとは言えない――さっさと行け。あとで、おまえのことでヴィシスにごちゃごちゃ言われてもめんどくせーからな……もはやこの場に、おまえの役はない……」

「……それでは」

「ああ、それと」

馬にまたがったニャンタンを、キリハラが呼び止めた。

「理解しているはずだが……このことはヴィシス以外のやつには他言無用だ。もし他言すればさすがのヴィシスのお気に入りでも――消さざるを、えない」

「…………」

「返事が、ねーな」

「……わかり、ました」

早くこの場を離れたかった。

今のキリハラからは特に何か不気味なものを感じる。

話し続けていると、頭がどうにかなってしまいそうだった。

「最後に、ニャンタン」

「――、……なんでしょうか」

「今のオレはおまえを越えている……それだけは、認めていけ」

「……ええ。今のキミは、すでに私を越えました」

ふぅぅぅ、とキリハラは息をついた。

「それでいい」