軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

かけてくれた言葉

迎賓館に戻った俺はセラスたちに事情を説明した。

セラスは、

「――なるほど。剣虎団さえ無力化できれば、その白の軍勢はミラの残存戦力で掃討できるだろう……と。そしてあなたは、狂美帝の頼みを引き受けるつもりなのですね?」

「ああ」

「でしたら私は、その決定に従うまでです」

懸念をにおわすこともなく。

セラスはあっさり了承した。

「ミラの動きは女神への目くらましにもなる。当面、女神の意識は狂美帝の方へ向けさせておきたい。だから、ここでミラに瓦解されちゃあ困る」

一々絵になるポーズで、セラスはあごに手を添える。

「狂美帝への協力が、結果的に私たちの利になる……確かに。ちなみに今回の戦いですが、蠅王ノ戦団として目立つのは問題ないのですか?」

「問題ない、と考えてる」

女神の注目が蠅王ノ戦団へ向けば向くほど。

注目度の膨れあがった段階で蠅王ノ戦団の”影”に隠れ――

こちらはいよいよ” 三森灯河(透明な存在) ”として、動き出せばいい。

そもそも。

戦団の存在を誇示する方針に変えたのは、まずその狙いがあった。

蠅王装と蠅騎士装さえ用意できれば替え玉だって用意できる。

これが”蠅王ノ戦団”として動く利点。

「でもその戦い、わたしたち蠅王ノ戦団だけというのはどうなのかしら?」

疑問を呈したのは、ムニン。

「ああ、その今回の件だが……セラスとムニンには、ここに残ってもらう」

「!」

何か言いかけた二人を手で制し、

「今回の敵の動き……陽動な気もしててな。剣虎団の動きの情報が、こちらへ容易に入ってきすぎてるのに少し違和感がある」

「言われて、みれば」

「剣虎団が撒き餌って線はありうる。しかしさっき説明した通り、放置し続けても時間経過と共にこっちの状況は悪くなり続ける」

うぅん、と困ったみたいに唸るムニン。

「でもツィーネさんはこの国の皇帝だし、そのアサギさんという子は対女神の切り札だからなるべく危険に晒したくない……そうなると――」

「現状、戦力的に俺が出るのが妥当ってわけだ。少なくとも狂美帝は、そう判断したらしい」

「だけどその白き軍勢は数も多いのでしょう? さっきの話だと剣虎団も複数なのだし……せめてわたしとセラスさんがあなたの支援に回った方がいいんじゃないかしら? ほら、わたしなら鴉に化けられるから偵察だってできるし……っ」

ぎゅぅ、と脇を締めて主張してくるムニン。

が、

「いや、向こうの狙いが狂美帝だけとは限らない。ムニン……あんたが狙われてるって線も、捨てきれないんだ」

「あ――」

「クソ女神が最も始末したいのは究極的にはあんただろう。それに、鴉の姿での偵察中に何かの拍子で射殺されないとも限らない。まあ今回は俺としても、一人の方が動きやすいってのもあるが……」

「移動の途中などで、どんな未知の潜伏戦力が現れるかわからない……あなたは、それも危惧しておられるのですね?」

そう。

下手に姿を晒せば大胆な動きもしづらくなる。

人数が増えればなおさら。

「移動中に突発的――死角的な一撃を受けてムニンを失う……それだけは避けたい。いわば”攻め”の時ってのは隙ができやすいんだ。一方”守り”の時は隅々まで意識を行き渡らせやすい」

「つまり私たちはここに残って”守り”に徹してほしい、ですね?」

「これも残すのがセラス――おまえだから、安心して任せられるってのもある」

面と向かって言うと、

「ぁ――ありがとう、ございます。はい……そこまでおっしゃっていただけるようになって、光栄です……光栄です」

照れて恐縮するセラス。

…………。

いつまで経っても謙虚なもんだ、この姫騎士は。

「それと、スレイも置いていく」

「パキュ?」

ポニー状態で同室にいるスレイが、顔を上げた。

「敵側の戦力や策が今出揃ってるものですべてと言い切れない以上、さらに何か仕掛けてくるかもしれない……もしここに居続けるのがまずいと感じたら、迷わずスレイに乗って脱出しろ。俺は今回、ミラの軍馬を一頭借りていく」

セラスから、騎乗を教わっておいてよかった。

「パキュ~……」

心配そうに目をうるっとさせるスレイ。

俺は屈んでスレイを撫でてやり、

「こっちは大丈夫だ。それより……セラスたちのこと、頼んだぞ」

「パキュ!」

「ピギーッ!」

「パキューッ!」

ピギ丸も、エールを送ったらしい。

俺は立ち上がり、

「セラス、もし帝都を脱出した場合……合流地点はここへ来る道中で決めた通りだ」

「そしてどの地点でも合流できそうになければ、最後は最果ての国の扉付近で合流……ですね?」

「まあ、最果ての国の扉付近での合流は本当に最後の最後だけどな」

帝都へ入る前にミラ勢力から襲撃を受ける事態も想定していた。

その際、仮に散り散りになった際の合流地点をいくつか決めてあった。

「ムニンもそれでいいな?」

「あなたがそう言うなら従うしかないわ。ふふふ、じゃあ……無事戻ってきたら、抱き締めながら思いっきり甘やかしてあげましょうね♪」

「じゃ、頼む」

「もぉ、だと思った――、……えぇぇええええ――――ッ!?」

跳び上がるムニンをスルーしつつ、俺はセラスの方を向く。

「おまえが残ってれば、俺も安心して戦える」

「お一人で……大丈夫ですか?」

「…… や(・) り(・) き(・) る(・) さ(・) 」

ミラには――もっと、踊ってもらわなくちゃならない。

向こうも俺を利用するんだ。

こちらも遠慮なく、存分に、利用させてもらう。

俺はマスクに手を添え、

「安心しろ――さっさと片をつけて、戻ってくる」

「あなたがそうおっしゃるのなら、もう心配はいたしません。ただひと言……ご武運を。こちらはお任せください」

セラスは誓いを立てるように、

「ムニン殿は絶対に守り抜いてみせます。騎士の誓いにかけて」

「守るのは、おまえ自身もな」

姫騎士の表情がゆるく綻ぶ。

「はい。ただ、あの」

何やら言い出しにくそうな顔になるセラス。

「遠慮しないで言ってみろ」

「敵側の者が剣虎団というのが、その……ミルズ遺跡であなたは、彼らに親切にしていただいたと……」

「……まーな」

「…………」

「…………」

「……申し訳ございません。いらぬ時期に、意気を削ぐようなことを」

「いや――おまえにその感覚があって、安心した」

今回の戦い、まず正面きっての戦いにはなるまい。

潜入任務みたいな感じか。

おそらく勇の剣と戦った時と近いものになる。

そんな気がする。

ただまあ……。

今回はあの時と大きく違う点が一つ。

相手が今までのただのクズどもとは、少し違うってとこか。

「……………………」

あの時。

ミルズ遺跡に潜っていた時のことだ。

駆け出し傭兵みたいな風体をした見ず知らずの俺に、剣虎団がかけてくれた言葉――

『おせっかいかもしれないけど、きみも早く上へ戻るのをお勧めするわよぉ? なぁに、調査なんてハークレーのおやじの私兵に任せりゃいいのよ。あのおやじ、どうしてもアノ杯が欲しいようだし』

『あー、アレか。魔物から逃げてるうちに、身の丈以上の階層に迷い込んだパターンか。どうする? おれたちと一緒に上へ戻るか?』

『わかった。けど、無茶はするなよ?』