軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

piece

それは――まあ、そうだ。

そうなるだろう。

そりゃあ――血眼になって、禁ずる。

消そうと、する。

だって。

存在価値が、失われるのだから。

女神のいる意味が、なくなるのだから。

なるほど――

神(・) を(・) 引(・) き(・) ず(・) り(・) 降(・) ろ(・) す(・) 力(・) 。

ただし、

「失礼ながら、その話……信憑性はいかほどなのでしょうか?」

俺が尋ねると、

「残念ながら、まだ実証はされておらぬ。余の持つ呪文書をかつて所持していた者が”禁呪はそういう力を持つ”と書き残していただけだ」

「それで、真偽を確かめるために――」

「最果ての国――禁字族を、探していた」

……つまり。

狂美帝は”ヴィシスが禁字族を必死に探している”という情報を得た。

ヴィシスのその行動が逆に禁呪の力を裏打ちする結果となったわけだ。

狂美帝はそれで禁呪の力が本物だと確信した。

女神への対抗手段を見つけた――ゆえに、反旗を翻した。

が、いささか性急に思える反乱ではある。

禁呪に関する情報の真偽もまだ完全に掴めていない印象である。

禁字族の生存だって、まだ確認が取れていない状態だったわけで。

なのに、このタイミングでアライオンへ宣戦布告した。

これは――先の大魔帝の大侵攻と関係があると思われる。

あの戦い。

想定以上に、異界の勇者が善戦した。

東では姿を現した大魔帝を退却させた。

西では側近級第三位を撃破。

被害は甚大だったが、南でも側近級の第一位と第二位を撃破。

十河たちが合流する予定だった片一方の南軍の戦いでも、辛勝ではあるが勝利している。

各方面で敗北らしい敗北がなかったのだ。

しかも対大魔帝の最大戦力であるS級勇者は全員健在。

あの大侵攻に対し勝利をおさめたことで世の空気は一気に、

”この根源なる邪悪との戦いは勝った”

そう傾いたに違いない。

しかし狂美帝にとって、これはいささか喜べない事態となった。

大魔帝が滅ぼされてしまったあとでは”抑え”がなくなる。

反旗を翻した場合、女神の他に神聖連合を敵に回すことになる。

しかし――大魔帝勢力が残っていれば、女神や他国は”背後”の大魔帝勢力へも気を配らねばならない。

ミラとしてはその状態の方が戦争がしやすくなる。

そう。

狂美帝は大魔帝が生きているうちに動きたかった。

最も厄介な相手は大魔帝よりもヴィシスと考えているのかもしれない。

大魔帝は対女神における最大の”抑止力”。

狂美帝としては、こういった腹づもりかもしれない。

”女神を倒したのちにS級勇者たちを説得し、大魔帝を共に倒し……その後、送還の禁呪によって勇者たちを帰還させる”

いや……。

上手くやれば女神を倒す前にS級勇者を味方に引き込める。

で、戦場浅葱はおそらく狂美帝のその案に乗った。

たとえば、そう――戦場浅葱は勇者たちの説得にも使える。

狂美帝には、そんな思惑もあるかもしれない。

戦場浅葱へ視線をやる。

今の話を知って驚いた様子はない。

すでに知っている顔だ。

ま、でも――そうか。

女神に頼らず元の世界ヘ戻れるとなれば。

クソ女神と敵対する側へ回っても、おかしくはない。

が、しかし。

あいつが腐れ女神の送り込んだスパイ説も、まだ捨て切れない。

常に両方の可能性を考慮しておくべきだろう。

いずれ、確証を得るまでは。

「…………」

ともあれ、見えてきた気がする。

この若き反逆皇帝――狂美帝の思惑。

空疎な理想を掲げただけの無謀な反逆ではなさそうだ。

それなりに勝ち筋を敷いた反逆ではあるらしい。

……かなり綱渡り感のある絵図ではあるが。

逆に言うとそのくらいのリスクを抱えるのは覚悟の上で、

”チャンスは今しかない”

と、判断したのだろう。

トン、トン

人差し指で、俺は卓を叩いた。

背後から、クアァ、という鳴き声。

鴉(・) の(・) 鳴(・) き(・) 声(・) 。

俺の合図にその鳴き声で反応したのは―― ム(・) ニ(・) ン(・) 。

本人の希望もあって、ムニンは鴉の姿でこの場にいる。

正しくは、背後で豹兵の肩にとまっている。

”俺の読みが正しければ話はおそらく禁字族へと及ぶ”

事前にそれを聞いたムニンは自分も同席したいと申し出た。

俺は”隠れて”同席することを提案。

ムニンがそのままの姿を晒すのは少しリスクに思えたためだ。

そして、

”禁字族が生存していると明かしていいか”

これをムニンに尋ねる際は卓上を指で二回叩く。

返ってきたのがひと鳴きなら――”OK”。

つまり、ムニンの許可が出た。

「禁字族は今も、この最果ての国におります」

狂美帝は露骨に反応しなかった。

ルハイトは笑みをやや深くする。

一番わかりやすい補佐官は、ホッと安堵顔で胸を撫で下ろした。

戦力をあてにした同盟の申し出はやはりオマケな気もする。

本命は――禁字族。

「ですので、禁字族へ話を通すのは可能です。しかし彼らがどうするかは、まず彼らの意思を聞いてみなくてはなんとも……」

「先に話しておこう。こちらは先の条件とはまた別に、相応の対価を支払うつもりでいる」

指を鳴らす狂美帝。

――パチンッ――

「あれを」

隣のルハイトが鞄から羊皮紙の紙束を取り出した。

こちらへそれを差し出すルハイト。

紙束は四方の隅の一つに穴が空けられていた。

穴に紐が通され、ひと綴りになっている。

俺はそれを受け取りつつ、

「――これは?」

「ミラが大宝物庫に所蔵しているものの一覧だ。名称や効果が不明な品も多いため、すべて網羅しているとまでは言えぬがな。しかし名や効果のわからぬものも、極力、その見た目を絵に起こしている」

「……少し、拝見しても?」

黙って手で促す狂美帝。

俺は紙をめくり、視線を落とした。

几帳面な字が並んでいる。

……ペラ、ペラ……

カテゴリー分けの努力の跡が見える。

目的のものを見つけやすいようにだろう。

……これを作ったヤツ、素直にすごいな。

特に絵に起こす作業は想像するだけで気が遠くなる。

もはや大図鑑。

相当な時間と手間だったはず。

手を、止める。

意図は読めたが……一応、確認しておくか。

俺は視線を落としたまま、

「今この一覧を提示した理由を、お聞きしても?」

「女神を打ち倒すために禁字族が我々へ協力するという条件をのむのなら――対価として、そちらがその中から望むものを譲ろう」

「…………」

先ほどページを捲っていた時。

俺は”それ”を見つけていた。

おそらく――転移石。

エリカによれば超のつく稀少品。

何よりこれの便利さは身をもって知っている。

効果の説明は書かれていない。

絵しかない。

が、これは転移石で間違いあるまい。

ミラは効果については――転移石とは、気づいていないのか。

ただ、俺の手が完全に止まったのは――

「…………」

どうする。

クソ女神との決戦前に――これはやはり、得ておくべきか。

”保存された 紫甲虫(しこうちゅう) の死骸”

そう。

これは、足りなかった最後のピース。

ピギ丸の強化剤――

そ(・) の(・) 、 最(・) 後(・) の(・) 素(・) 材(・) 。