軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

H&A

澄んだ硬質音が、鳴って。

――プ】」

スキル名を、言い終える。

が、

い(・) な(・) い(・) 。

「――【パラ、ライズ】――」

前方へ発動。

さらに左右、後方へ向けて【パラライズ】を発動。

「…………」

眠った男の姿が現れることは、ない。

麻痺した男が現れることもない……。

男は消失したまま。

あるいは睡眠や麻痺した状態で”消えて”いるのか?

どこへ、消えた。

「ご無事ですか!?」

剣を構えたまま、セラスが声を上げた。

「ああ……おかげで、助かった」

俺が目にした映像は、

男の剣を、セラスが己の剣で受けたインパクトの瞬間。

剣と剣が衝突した瞬間、男が”消えた”。

あれは。

異常なほどの離脱速度、と判断すべきか。

剣と剣がぶつかり合った時、俺は【スリープ】を発動していた。

しかし、

スキル名を言い終える前に、消えた。

一瞬で。

「おまえの反応速度に、救われた」

「ただ、精式霊装の状態でも防ぐのがやっとでした。正直……ゾッとする速度です。自分の目を、疑うほど」

「確かにあれは――速すぎる」

周囲を見渡す。

いない。

身を隠すような場所は……ない。

ない、はず。

「ピギ丸、どうだ?」

「ピ、ピニュィ〜……」

ピギ丸も、感知できていない。

「セラス」

「も、申し訳ありません……気配が、まるで見当たりません」

そう、

「気配そのものが、ない……?」

テレポート能力?

……姿自体は目視できない。

が、範囲内にいるなら効果が及ぶかもしれない。

そう思い、先ほどひとまず【パラライズ】を撒いた。

しかし、そもそも……。

敵は最初から”呪術”の射程を約30メートルと読んでいた。

なら、近くにいるとしても30メートルは距離を置いているか。

何よりスキルを決めるにはまず”認識”という問題がのしかかる。

【スロウ】以外のスキルは相手を”認識”する必要がある。

腕を対象へ向けた状態で、

認識→スキル名を口にする→発動

この過程が必要となる。

テレポートだとしても、あの離脱速度では……。

俺が”認識”してからでは、遅すぎる。

どうする?

ヤマをはって、先行入力のような形でスキルを――

いや、無理か。

やはりこの場合”最初に認識が必要”という条件が、ネックとなる。

「これが、ジョンドゥ……」

幸いなのは、

防御限定だが、セラスがギリギリ反応できる。

では、こちらからの攻撃はどうする?

ピギ丸との合体技は……効果的とは言えまい。

見た目の変化で危険と判断される確率が高い。

発動した時点で、一度遥か遠くへ距離を取られる可能性がある。

この敵。

状態異常スキルと、相性が悪すぎる。

認識そのもののハードルが、高い。

いるのか。

いないのか。

それすら、わからない。

足跡での把握も難しい。

すでに第六騎兵隊がつけたものがたくさんある。

この場だと、音などの把握にも問題がある。

転がっている第六の連中のうめき声だ。

わずかな足音や呼吸音があっても、察知できない。

いや――だとしても。

踏み込みの足音くらいは、聴き分けられるはず。

もはや、音すら認識できない能力なのか?

そう思うに足る理由もある。

敵が手にしている剣や装備すら、見えないのだ。

まるで、

”ジョンドゥに関する事象や物体における認識すべて”

それらが、阻害されているかのような。

まさか……足跡ですら、五メートル以上先のものは認識でないのか?

「セラス」

俺は今の現状分析を、セラスに伝えた。

「――瞬間転移……もしくはジョンドゥに関する”認識”そのものの全阻害、ですか」

「だが転移だとすると、相当遠くから転移してきてることになる。なら、どこかで様子をうかがっているはずだが……」

近辺に障害物がないこの見晴らし。

転移能力なら相当遠い場所にいる、ということになる。

が、そこまで遠いとなると……。

俺たちを視認できるのだろうか?

であれば、

「濃厚なのは、認識阻害の線……」

「で、ですが……攻撃時には姿を現していました」

「それは……」

数拍、考え込む。

「……”他者の数メートルの範囲まで近づくと能力が無効化される”とか……そういう性質を持つ可能性が高い」

近づいた時にわざわざ能力を解除する意味はない。

なら、そう考えるのが妥当だろう。

……気配。

そう。

能力の本質が”気配”なのだとすれば。

それは近づけば近づくほど消しにくくなるものだ。

つまり、あの能力は限界まで気配を希薄にし……

存在そのものを認識させなくする能力、ってことか?

「…………」

なんだ、それは。

極限までモブ化し存在そのものを消す、みたいな。

セラスの耳もとに寄り、囁く。

「転がってる第六の連中は、敵にとって”障害物”になる……こいつらのおかげで、攻撃しやすいルートはそれなりに限定されるはずだ。つまり、攻撃してくるルートをいくつかに絞れるかもしれない」

セラスは前を向いたまま声を潜め、

「なるほど……確かに」

ともかく、問題はあの攻撃と離脱における異常な速度。

あれに対応できない限り、勝利は難しい。

「…………」

俺は、セラスの背に触れた。

”今から【スロウ】を使う”

今の行動で、セラスは察してくれたようだ。

俺の半径約1メートル以内なら【スロウ】の範囲内でも動ける。

また、俺と”接触状態”と判定されても動ける。

たとえばピギ丸は”接触”しているので普通に動ける。

これなら……。

どこから来ても、ピギ丸の反応速度の方が速くなるはず。

セラスは半径1メートルの範囲から出たら遅くなる。

ゆえに、剣を振れる距離や動ける範囲は限られる。

が、範囲内にいるうちは”速く”動ける。

俺は、腰の短剣に触れた。

あるいは……。

俺が動いて仕留められそうなら、それでもいい。

【スロウ】の難点は発動中に他のスキルが使えないこと。

ただし、すでに発動したスキルの効果が消えることはない。

なので、周りに転がっている第六連中のスキル効果は持続する。

他の難点は、発動中に消費される膨大なMPだろう。

さらに”MP5000”分を消費すると一旦打ち止めとなる。

加えて、一度使うとクールタイムが発生する。

が、今は安全に策を練る時間もほしい。

少なくともMP5000分の【スロウ】中の時間は、

「――【スロウ】――」

安全度が高められ……思考に、集中しやすくなる。

この間に敵の能力を見極め、対応策を捻り出す。

もしくは、このまま――

俺かセラスが遅性付与状態のジョンドゥを斬り伏せ仕留められれば、それでいい。

「ステータス、オープン」

MP消費を確認するため、ステータスを表示。

さて……

どう出る、ジョンドゥ?