軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聖、ヴィシス、裏切り者の末路

◇【高雄聖】◇

「お待たせいたしました、ヒジリさん♪」

背もたれの高い椅子を引き、女神が座る。

高雄聖はローテーブルを挟み、差し向かいの椅子に腰をおろしていた。

作りは応接室に近い。

女神は私的に使える部屋を城内にいくつも持っている。

その女神だが、最近は特に多忙を極めているという。

この場のセッティングにしても時間がかかった。

実際、大魔帝軍が動き出してからの女神はてんてこ舞いらしい。

加えてそこに、先のミラ帝国による宣戦布告である。

アライオンの者にとってもミラの”反乱”は青天の霹靂だったようだ。

「ヒジリさんがこういう場を私と持ちたいとは珍しいですねぇ。あら? 今日は、仲良しの妹さんはご一緒じゃないのですね?」

「今日は私一人です」

「そうですか。それで、どんなご要件でしょう?」

「いくつか、確認しておきたいことがありまして」

聖は極めてへりくだった語感で切り出した。

言うなれば、秘書のような調子で。

「まず、私たち勇者の今後の方針についてうかがいたいのですが」

「そういったお話でしたら、他のS級勇者さんも同席しなくていいのですか? 真面目で元気なイインチョウさん、とか」

「わかっていて、あえておっしゃっていますね?」

「うふ♪」

女神が笑顔を深め、両手を叩き合わせる。

「やはりヒジリさん、あなたは見込んだ通りの勇者のようです」

「今の2−Cはある程度、私がコントロールできる状態にある――あなたは、そう読んでいるのでは?」

「ふふふ、私の読み違いでしたか?」

「否定はしません」

「でしょう? あ、少しお待ちを」

女神は飾り棚の方へ行き、銀杯を二つ持ってきた。

片手で杯を二つ持ってもう一方の手に瓶を持っている。

互いの座り位置の前――その卓上に、女神が杯を置いた。

女神がなみなみと瓶の中身を杯に注ぐ。

「トノア 水(すい) です」

「ありがとうございます」

礼を述べるも聖はすぐに手をつけない。

女神はホクホク顔で杯の中身を呷った。

「以前……ほら、あなたが私に噛みついたことがありましたよね? 確かヒジリさんが”ソゴウさんのところにだけ師をつけないのは不公平だ”みたいな世迷い言――失礼――進言をしたことが、あったでしょう?」

「ありましたね。あの時は十河さんへ師をつける件を一考していただけて、感謝しています」

「いえいえ〜? 感謝でしたら、あの時いきなり師として名乗りを挙げた竜殺しさんにしてください。あ、でも今は……無理をするあの性格が災いしてズタボロになってしまったんでしたね。かわいそうですよね。まるで、何かの悪い冗談みたい」

「なぜ今、あの時の話を?」

「うふふ、知っていますよ? 知ってしまいました。ヒジリさん……ソゴウさんに対して深い恋愛感情を持っていたのですね? でしたら、あの場で脈絡なく私に意見してきたのにも納得がいきます」

姿勢を整え直し、聖は頭を下げた。

「あの時は申し訳ありませんでした。あそこで庇えば彼女の気を惹けるのではないかと思い、勢いでついあのような真似を」

「……まあ、仕方ありません。私も最初は”どうしてヒジリさんは自分の立場も弁えず、あんなひどい態度を取ることができるのだろう?”と、本当に胸が苦しくなりました。ですが……恋心ゆえの行動なら、納得せざるをえません。そんな単純でアホく――素敵な理由なら、許すしかないでしょう?」

「寛大なお心に、感謝します」

「…………いえ、私も意図せずちょっと口が悪くなってしまったところがあったかもしれません。私たちだけは上手くやっていきましょうね、ヒジリさん。そちら、お飲みにならないのですか? いりませんか? 下げますか?」

女神が笑顔で聖の杯を手で示す。

聖は、まだ手をつけていなかった。

「喉が渇いたらいただきます」

「そうですか。あ、そういえば……」

女神が立ち上がった。

この部屋には奥の部屋へ続くドアがある。

ドアを開け放ったまま女神が奥の部屋に消える。

すぐに戻ってきた女神は、何か抱えていた。

厚布の大きな袋。

寝袋……のように見えなくもない。

口が紐で固く結ばれていて、中身を閉じ込めているようだ。

「すみませんがヒジリさん、卓上の杯をちょっと端へどけてもらえますか?」

聖は言う通りにした。

「ありがとうございます♪」

女神は肩に担いだままの寝袋――その紐に、手をかけた。

――ヒュッ――

目にもとまらぬ速さで、手刀を放つ女神。

結び目が裂け、ほどけた。

ズル……ボフッ

卓上に何かが落ちる。

落ちた際、黒い焦げカスが少量、宙に舞った。

黒焦げの死体であった。

ひどい状態である。

かろうじて元が人型であったとわかる。

あれでは男女の区別すらつくまい。

当然、元が誰であったかなどわかるはずもない。

聖は表情一つ変えない。

女神の方も、笑顔を維持したまま。

「女神様、これは?」

「気になります?」

「ええ」

「ニャンタンですよ」

「…………」

「最近、姿を見ていなかったでしょう? こういうことでした」

「…………」

「残念ですよね……かわいそうに」

「なぜ、彼女が?」

「何者かと通じていて、何かよろしくない動きをしていたようで。んー……意外と、ミラ帝国辺りと繋がっていたのかもしれませんねぇ。あぁ、とても悲しい」

「そうでしたか」

「あんなに思いやりがあって、綺麗で……強くて優秀な子が。ぐすっ……世の中、本当に無情ですよね。死は突然に」

「世の中とは結局、そういうものなのかもしれません」

「…………」

「何か?」

「……不思議な人ですね、ヒジリさん」

「そうですか?」

「くすっ……黒焦げの死体がいきなり目の前に出てきたら、普通、もっと驚きません? 一応、あなたもご存じのニャンタンなのですよ?」

「”普通”とはなんでしょう?」

「んー? いきなり、何があったのですか?」

「女神様の定義では、この死体を目にした時に驚いた反応をするのが”普通”のようです。ですが、内心驚いていても表情に出ない人間もいます。しかしあなたにとってそれは”普通”ではない。つまり、私はあなたにとって”異常”な人間……けれどそれこそが多様性と呼ばれるものです。人は多様性の生き物です。それが”普通”です」

「あ、何か凄そうなことを言っているようで実は中身が空っぽな典型……頭の悪い人ほど無駄に小難しい言い回しを好むのって、どこの世界でも共通なのでしょうか」

「かもしれません」

「ヒジリさん」

「はい」

「合格」

女神が、卓上の死体を払いのけた。

死体が卓から押し出されて、床に転がる。

「…………」

卓上の煤を笑顔で払いながら、女神が言った。

「種明かしをしますと、あの黒焦げの死体――ニャンタンではありません。すでに処刑の決まっていた悪徳貴族の娘でした。ふふ、驚きました?」

「私も人間です。知り合いが生きていたのなら、安堵はします」

笑顔で眉尻を下げ”ごめんね?”のポーズをする女神。

「申し訳ありませんでした。実は、あなたを試したかったのです。ああ、でもニャンタンの最近の動きがちょっと気になっていたのは事実なのですよ? あ、ちなみに最近姿が見えないのは北の白狼騎士団のところへ派遣中だからです」

「私に何か疑われるような点でも?」

「いえいえー……私の愛しいニャンタンを利用して、何か悪巧みをしている 輩(やから) がいるのなら……いずれこの方法で、炙り出せるかと思いまして。ヒジリさんは違ったみたいです」

「最近、彼女の行動が怪しいのですか?」

「んー……いえ、私を裏切っている感じではないのですよねー。なんといいますか……何者かの口車に乗せられて、利用されている感じでしょうか。ですので、ニャンタンを始末するのは少し違うわけです」

「彼女を利用している者がこの”ニャンタンの死体”を見たら、明らかに普通ではない反応を示す。そう踏んだのですね?」

「正解。そしてヒジリさんの反応を見てあなたではないと確信を得ました。合格です。先ほど出したトノア水。あれに不用意に口をつけない用心深さも気に入りました。ヒジリさんは私と協力関係を築ける人物だと判断します。あなた……ヒジリ・タカオを――」

女神の表情は変わらない。

しかしその笑みが――黒く染まる。

「ヴィシスの徒に、任命したいと思います」

「少し、考えさせてください」

「え? あら? 拒否するんですか? とても……悲しいです」

「ここで目を輝かせて即了承するヒジリ・タカオを、あなたも期待してはいないのでは?」

「……………………うふふ」

女神の目に鋭い光が灯る。

「これはちょっと……ヒジリさんは、私の期待を遥かに越える人材かもしれませんね。やはり見込み違いではなかったようです。ともあれ……協力くらいは、してくださいますね?」

「つまり、あなたの望むように私が2−Cをコントロールしろと?」

「まあ、素敵♪ ヒジリさん、私の言いたいことをすぐに理解してくださいますね♪」

両手を合わせたまま、にっこり首を傾ける女神。

「どうでしょう? ヒジリさんなら、と私は買っているのですが」

「そうですね。不可能ではないかと」

「期待通りのお答え、ありがとうございます♪」

「妹の樹は言わずもがなですし、十河さんもご存知の通りです」

「籠絡済み、と♪ 近頃、お二人はとても仲睦まじいみたいですからね。頻繁に部屋を訪ねているようですし。いえいえ、いいのですよー? 同性同士であっても、お二人の関係に私は口を挟みませんから。どうぞ? ご自由に♪ 長続きするといいですね」

「言い方にネガティヴな含みがありますね」

「天然なのでごめんなさい。あの……そういう嫌な言い方、しないでくださいね? 怖いので。お願いします」

「とにかく、今の彼女は私の言うことなら聞くはずです」

「素晴らしいですー」

「そして……今の薄色の勇者たちは、十河さんの言うことに従います」

「あの、彼……キリハラさんはどうなのでしょう? 失礼ながら、思った以上に頭がおかしいと思います。本音を言うと、最近なんだか私も彼が怖くて……」

「私の見立てでは、彼の思想や欲望にはそれなりの法則性があります。やり方によっては、コントロールも不可能ではないかと」

「……勝算はいかほど?」

「九割弱」

「本当ですかっ?」

「彼はあなたのように、周りを真摯に見ていません」

「あらあらまあまあ♪」

「つまり――思ったより注意深くはない。そういった人間は操りやすいものです」

「和を乱す小山田さんも終わりましたしね」

今の小山田翔吾の状態を女神は”終わった”と表現した。

聖は視線を落とす。

数拍経ってから、再び、視線を上げた。

「安智弘を私たちからこっそり遠ざけたのも、彼が和を乱すからですか?」

「んんー? 急になんの話ですか? 今のあなた、大丈夫ですか?」

空気がピタッと停止した。

聖は、緩慢に睫毛を伏せる。

「失礼しました。今のは、余計な話でした。忘れてください」

「うふ、うふふ、ふふっ……こ、れ、で、す♪ これですよ♪ その敬意や自省心こそ、あなたにあって他の勇者さんたちに欠けているものなのです。特に、ほら……ソゴウさんからは敬意や自省心がさっぱり感じられなくて。あの……あなたの恋人の悪口みたいに聞こえたら、ごめんなさいね? 悪気はないので」

「……いえ」

「どうもソゴウさん、あの時……ええっと、名前が出ませんね……ほら、あの最下級の……無駄に捨て台詞を残していった哀れな――まあ、とっくの昔に死んだ勇者のことは置いておいて……アレを廃棄する際、なぜか私に逆らったでしょう? あの反逆行為を、彼女は今も間違った行為と思ってないみたいで……まともな反省の弁がいまだにないんです。それが、気になって……ご両親からして、ああいった感じなのでしょうね。かわいそうに」

「その点については、私が時間をかけて諭してみます」

「本当にお願いしますね?」

「努力します」

「ええっと、アサギさんたちは……まあ、S級が三人足並みを揃えるのが肝ですから。連絡がつき次第、合流できるよう取り計らいましょう。それとも……彼女たちは排除した方がいいですか?」

決戦が近いせいか。

女神の”選別”が、済んだのか。

勇者の切り離しに躊躇がなくなってきている。

「いえ……戦場浅葱さんには人をまとめる力があります。S級三人が手を離せない時、まとめ役として活躍してくれるかと」

「では、排除しない方向で」

「――ところで、他にも尋ねたいことがありまして。とあることで妹がいやに不安がって、私から女神様に改めて確認を取ってほしいとお願いされました。そんなことの確認を改めて取る必要などない、と私は言ったのですが」

嘆息する聖。

「ただ、どうやら他の勇者も何人か似た不安を抱えているようでして。S級勇者の十河さんも不安がっているみたいなのです。正直、失礼な質問かと思います。不快になられたら、申し訳ありません」

「いえいえ、ヒジリさんと私の仲ではないですかー♪ 怒ったりしませんから、どうぞ? なんでしょう? なんでしょうか?」

「自分たちは大魔帝を倒したら、本当に元の世界へ帰還させてもらえるのか? と」

「え? 当然……そうしますけど? 急にどうしました?」

「――だと思っていましたので、私も”それは無意味な質問で失礼ではないか”と妹に言ったのです。ですが……こうして改めて確認を取ることで彼らが納得し、大魔帝との決戦へ向けてメンタルが安定するならと」

「なるほど、さすがはヒジリさん。精神面のケアまで考えているのですね♪ 確かに、決戦前に精神の安定はとても大事です」

「大魔帝は今や側近級の上位三名を失っています。こうなると、大魔帝との決戦の時も近いはず……だからこそ勇者たちも帰還の時が迫ってきたという実感が出てきて、突発的な不安に駆られ始めたのでしょう。ともあれ、私としては大魔帝討伐に全力を尽くすつもりです。つもり、なのですが……」

聖の言いたいことを女神は察したらしい。

「うふふ、ご安心ください。西の狂美帝の件は私がしっかり対処しますので。お任せください。私は神なのですよ?」

「ありがとうございます。では、私たちは大魔帝討伐に注力します」

コトッ

女神が卓上に置いたのは、一つの首飾り。

「大魔帝にとどめを刺す時に心臓ごと消滅させた場合、その際に放出される膨大な邪王素を取り込むための首飾りです。以前、説明しましたね?」

黒水晶の首飾り。

召喚直後、女神は帰還方法のことを説明した。

『一つは邪王素の源である大魔帝の心臓を手に入れること。もう一つは大魔帝が消滅する際に放出される邪王素をこの首飾りの水晶に取り込むことです』

女神が言う。

「根源なる邪悪が心臓部に宿す邪王素は特別であり、膨大です。私が近くにいて耐えられるものではありません。この首飾りを託すべき勇者を……ついに、見定めることができました。北に決戦へ向かう時、この首飾りをあなたに託します」

聖は首飾りに視線を落とす。

「光栄です、と言っておくべきなのでしょうね」

「ヒジリ・タカオ」

目にも止まらぬ速さで、女神が卓上越しに詰め寄ってきた。

気づけば聖の手に己の手を重ねている。

無感動な黄金の瞳には、高雄聖が、映り込んでいる。

「この大魔帝との戦いは、今後のすべてを決める絶対に負けられない戦いです。あなたたちにとっても、私にとっても。ですので、決して――」

にこり、と笑顔になる女神。

「裏切ったり、しないでくださいね?」

「私が女神様をですか? 裏切って、私にどんなメリットが?」

「裏切っても何も得をしないはずのミラの狂美帝に裏切られて、私は心から傷つき、とても不快になりました」

「もし裏切ったら、どうなりますか?」

「大魔帝討伐の前か後かはわかりませんが、お見せしましょう」

「何をです?」

「狂美帝の末路を」

聖は自室へ戻った。

元の世界より広い自室。

S級勇者の中ではどうやら最も豪奢な部屋らしい。

聖は、最近になってそれを知った。

質の高い調度品。

寝心地の保証された天蓋付きのベッド。

個人用の湯浴み場まである。

ベルで人を呼べば、すぐに湯をはってもらえる。

今、ここに樹はいない。

聖一人である。

机の前へ行き、椅子を引く。

右手側に机がくる位置に聖は座った。

ポケットから取り出したものを――机に置く。

スマートフォン。

結局、出されたトノア水には手をつけなかった。

水差しから杯へ水を注ぎ、ひと口飲む。

波紋の消えた水面のように、聖は完全な落ち着きを得た。

髪をほどき、首を振る。

垂れた髪を指で軽く梳き、スマートフォンを操作する。

減っているバッテリー。

が、実は今も使えること自体がおかしい。

聖以外の者のスマートフォンはもう充電切れである。

使用不可。

当然、充電もできない。

けれど、聖だけ充電ができた。

固有スキル【ウインド】――【 ウインド(サンダー) 】

この能力で充電を行える――行えた。

スマートフォンの充電が可能という事実。

まだこれは樹にも教えていない。

充電ができる原理は不明である。

わかっているのは、固有スキルの一環ということ。

聖は考える。

自分の固有スキル。

応(・) 用(・) 範(・) 囲(・) が(・) 異(・) 常(・) に(・) 広(・) い(・) 。

S級ゆえの特色か。

聖の”S”は他のS級とは違う性質を持つのか。

それは聖にもわからない。

案外、と聖は思う。

他のS級二人の能力も、かなり自由な応用がきくのかもしれない。

操作を終える。

高雄聖にはこのところ奇妙な感覚が備わっていた。

なんとなく相手の声から、嘘がわかるのである。

声の微細な揺らぎで真偽を判断できる感覚があるのだ。

樹に協力してもらって何度も検証してみた。

確かに――声の”揺らぎ”で、嘘がわかる感覚がある。

絶対、ではない。

嘘を感じ取るには意識を研ぎ澄まし、集中しなくてはらない。

やはり固有スキル【ウインド】の影響と考えるべきだろう。

S級スキルは使用者自身になんらかの影響を及ぼす?

わからない。

いずれ、じっくり検証する必要がある。

聖はふと”風”という言葉に引っかかりを覚えた。

閉架書庫の文献から得た知識を引っぱり出す。

”はぐれ精霊”や”はずれ精霊”と呼ばれる特殊精霊の存在。

嘘を見抜く風のはぐれ精霊。

名はシルフィグゼア。

風精霊――嘘を見抜く――風の固有スキル。

”風”という共通点。

つながっているのだろうか?

「…………」

思考を目の前の目的へと引き戻す。

耳にイヤホンをつけ、操作を開始。

さらに操作を続ける。

『録音した音声を再生しますか?』――決定。

『ファイルを選択してください』――操作。

『このファイルを再生しますか?』――決定。

再生、開始。

『え? 当然……そうしますけど?』

リピート、

『え? 当然……そうしますけど?』

リピート、

『え? 当然……そうしますけど?』

リピート、

リピート、

リピート、

リピート、

リピート、

リピート、

リピート、

リピート、

リピート、

リピート、

リピート、

リピート、

リピート、リピート、リピート……、――

どのくらいリピート再生を行っただろう。

操作を止め、イヤホンを外す。

右肘を机の縁に置き、目を閉じたまま――沈黙。

静かな時間。

それからさらに長い時間が経った。

不純物である生活音は遮断して意識の外へ。

とても――静かな時間。

……どのくらい経っただろうか。

聖は、ようやく目を開いた。

恐ろしいほど静まり返った部屋の中……

疑念を確証へ昇華するための時間が、終わった。

そして聖は、部屋に入ってから初めて声を発した。

「なるほど」

女神と交わした会話。

『自分たちは大魔帝を倒したら、本当に元の世界へ帰還させてもらえるのか? と』

『え? 当然……そうしますけど? 急にどうしました?』

視線だけを流し、窓のカーテンを見やる。

カーテンの隙間から陽光が漏れていた。

宙を舞う微細なホコリがその光でキラキラ輝いている。

その嘘っぽい輝きを、聖は無感動な瞳で眺める。

やがて、呟いた。

「嘘つき」