軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

つながれていくもの

ん?

「青竜、石……?」

「はい」

ムニンが頷き、青竜石について説明をする。

説明を聞き終えた俺は――

ほんのわずか、思考停止していた。

間違いない。

今の説明で確信に変わった。

ア(・) レ(・) だ(・) 。

廃棄遺跡で手に入れたあの石……。

手を繋いでいた男女の骸。

うち一人が所持していた石が、青竜石だった。

今ここにはない。

が、城の荷物袋の中にあるはずだ。

「ベルゼギアさん……?」

「持っています」

「はい?」

「青竜石なら持っています。しかも、それなりの数を」

「ほ――」

勢い任せな感じに俺へ詰め寄るムニン。

彼女は俺の両腕を軽く掴むと、

「ほ、本当にっ!?」

「同じものでほぼ確定かと。説明を聞いて、確信しました」

「そう――そうなのね……あ、ごめんなさい」

手を離して一歩下がると、ムニンは胸を撫で下ろした。

「完全に不意打ちだったのもあって、ちょっと興奮してしまって……青竜石を手に入れるのが、一番の難関だと思っていたから」

青竜石を持っていたあの廃棄遺跡の二人組。

禁呪の媒介と知った上で持ち込んだのかは不明である。

知らずに持ち込んだのかもしれない。

が、いずれにせよ――

繋げた。

繋がっている。

大賢者の呪文書にしたってそうだ。

悪辣な女神によって廃棄遺跡へ叩き落とされた者たちの想い。

彼らの意思が――今に繋がっている。

ふと、そんな気がした。

ちなみにムニンは青竜石の所持がまだ信じられないのか、

「えーすごい……すごいわ……そうなのね……持っているのね……これって、現実……?」

両頬に手を添え、小声でブツブツ言っていた。

……あの人、微妙に態度が崩れてきてる気がするな。

ともあれ。

禁呪発動一回の使用量次第だが……。

射程距離などの性能把握とか。

本番前の試し撃ちが、できるかもしれない。

「ところで、ムニンさん」

「え? ぁ――え、ええ。何かしら?」

「先ほど何か言いかけましたね? すみません、ワタシが話を遮ってしまって。確か、特技がどうとか」

「あ、そうでした。はい、実は先ほどお見せした背の紋を持つ者は特別な力を持っているのです――今からお見せしますね?」

言って、ムニンが集中状態に入る。

彼女の身体が光を発し始めた。

やがて彼女はその光に包まれ、

「クァア」

鴉になった。

黒い鴉。

鴉は俺の周囲をぐるりと飛ぶと、再び正面に戻ってきて、地面に降り立つ。

「カァア」

ひと鳴きし、鴉がまた発光を始める。

そして、

「――と、いう能力です」

ムニンは、元の人型に戻った。

「鴉の姿に変化できる能力ですか」

「はい。この能力は昔から備わっているようです。わたしたちの、先祖の時代から。紋を持つ者限定ですが」

「変化中、しゃべることは?」

「そこまでは……ごめんなさい」

「いえ、謝る必要はありません。何より、身を隠すという用途としてはかなり使える能力かと」

様々な場面で危険を回避しやすくなる。

たとえば想定外の危機に晒された時……。

鴉サイズでどこかに身を潜めてもらうのもアリだ。

「この能力があれば、わたしが旅に同行してもあまり迷惑はかけないと思うの」

「人数を減らせれば、目立って見つかる確率も減らせますからね」

「あ、それに――」

俺に背を見せ、アピールっぽい仕草をするムニン。

「この翼自体も、小さく収納することができるのよ? ただ……翼の収縮は長く続けるとすごい疲れてしまうから、ずっとは難しいのだけど」

「鴉に変身する能力の持続力は?」

「数日くらいなら、持続可能」

苦笑するムニン。

「ただね? こっちの変身能力も、数日ずっと鴉の姿でいると負荷が大きくて……しばらく休まないといけなくなるわ」

負荷か。

ここはエリカの使い魔と似ている。

しかし……、とムニンを見る。

「その変身は、着用している衣類なども含まれるのですね」

「わたし側でその辺りを決められるのは大きいわね。でも変身に含む着衣なんかの重量があまり大きいと、負荷も強くなるから……」

たとえば変身すると着衣がその場に残り、変身を解除すると裸になる――

それが、ない。

これは利点だろう。

……ああなるほど、そうか。

所々服の布地が透けているのは、重量軽減が目的なのかもな。

にしても、

「ムニンさん――あなたは聞かないのですね、復讐の理由を」

「十分だわ」

達観した風に、微笑むムニン。

「女神ヴィシスが関わっているのなら、どんなひどい話だってありうるもの。”復讐”と知っただけで、それでもうわたしは十分」

いちいち俺に辛い過去を口にさせたくない。

そんな気遣いも、あるのかもしれない。

ただ、

「ワタシがそこまで信頼してもえるのは、アナオロバエルの存在も関係していますか?」

「ゼクト様はアナエル様を心から尊敬し、そして、信頼しています。そのゼクト様が、あなたが信頼に値する者だと判断した。わたしには、それで十分よ」

改めて思う。

本当に、エリカの存在がでかい。

俺は入国してから一度もマスクを外していない。

素性をつまびらかにしてもいない。

なのに――全面的に信頼されている。

多分それは、エリカのおかげ。

……また会う時があれば、その時はたっぷり恩返ししないとだな。

「何より、この戦いはわたしたち自身のためにする戦いです。わたしの側に確かな理由があれば、やっぱりそれで十分だと思うの」

ムニンはそこで少し語調を変えた。

「……先ほどお話しした通り、わたしたちクロサガは女神に命を狙われています。わたしたちがこの国にいるせいで、ここに住む方々も危険に晒されてしまうかもしれない……もしかしたら、わたしたちクロサガさえ追放してしまえば女神は他の最果ての国の者は放っておいてくれるかもしれない……わたしも、かつてのクロサガの長たちも、そんな気がかりを持っていました」

ゆえに――だからこそ。

彼女は、女神を叩き潰したい。

そんな気兼ねをすることなく、暮らしていけるように。

「ですが……それでもゼクト様は、わたしたちクロサガをこの国に匿い続けるとおっしゃってくださいました。自分たちは仲間だと……種族は違えど、道を 過(あやま) たぬ者であるなら、ここに住む皆が”仲間”なのだと。それが――」

深い感謝を湛え、ムニンは言う。

「最果ての国なのだと」

不死王ゼクトは――立派だ。

単純にそう思う。

そうだ。

勇の剣の任務も最優先は禁字族の抹殺だった。

こうなるとこの国に住む者が、

”禁字族を差し出せば自分たちだけは助かる”

”禁字族を国から追放すれば、いらぬ不安を抱かずに済む”

こう考えても、おかしくはない。

ありうるのだ――少なくとも、人間の世界では。

が、ゼクト王はそれをしなかった。

”女神が禁字族抹殺に執着している”

この情報を持つ者も、限られているのだろう。

ただ……甘くもある。

ここの連中はどうも、優しすぎるきらいがある。

思いやりがあるのはいい。

俺は好ましく感じる。

が、どうにも相手を信じすぎる……というか。

疑念が薄い、というか。

いいことだ。

いいことなのだが――

こういうヤツらは、食い物にされやすくもあって。

外の世界にい続けたエリカはあれだけ疑り深くなっていた。

まあ、根っこの部分は恐ろしいほどいいヤツだったが。

ただし、ずっとここで育った連中は……

「…………」

「ゼクト様だけではありません。わたしたちは、この国の方々にとてもよくしていただいています」

ムニンの顔に葛藤が刻まれる。

やがて彼女は目を開くと、真っ直ぐ俺を見つめた。

「ベルゼギアさん……女神への復讐にはもちろんこの力をお貸しします。ただその前に一つだけ――お願いが」

「最果ての国はこれより、第六騎兵隊を含むアライオンの勢力を迎え撃つ。それにワタシたち蠅王ノ戦団も加わってほしい……と?」

やや驚いた顔になるムニン。

が、すぐにその表情は儚げな苦笑へと変わった。

「お見通し、なのね」

多分、ゼクト王が庇ってくれた話をさっきしたのも。

彼の善性を、俺へ伝えるため。

「わたしたちもそれなりに戦えるよう訓練はしています。四戦煌を筆頭に、この国には戦うための勇士も存在しています。皆、平和に堕することなく……戦いには、備えてきたのです」

国民皆兵みたいなもんか。

「しかしそれでも、わたしたちは今の外の世界を知りません」

不安なのだろう。

自分たちの戦い方が、通用するかどうか。

「だからあなたたちは、今の外の世界を知る者の力を借りたい。そこでワタシたちにも戦いに加わってほしい、と」

「お願い、できないでしょうか? いえ……どうか、どうかお願いします」

深々と、ムニンが頭を下げる。

「――承知しました」

ムニンが顔を上げた。

「よろしいの、ですか?」

「どのみちワタシにとっても、いずれは障害となるだろう相手です」

というか――元よりそうするつもりだった。

迎撃への協力。

ゼクト王には、こっちの件が固まってから持ちかけるつもりだった。

攻め込んでくるのは女神側の勢力。

機会があるなら削っておくべきだ。

後でまとめて相手をするよりその方が絶対にいい。

着実に女神側の戦力を削ぎ落としていく。

特に――第六騎兵隊。

勇の剣すら”強い”と評した連中。

ここで片づけておくに越したことはない。

しかも、相手がアライオン十三騎兵隊というのなら――

リズのいた集落の仇が、いるかもしれない。

また、相手の規模もおそらく小さくはない。

最果ての国は決して大国ではないが、それでも国攻めなのだ。

で、あるならば――

この国の戦力と共闘するメリットは大いにある。

蠅王ノ戦団単独で大軍を相手にするのは厳しい。

が、こちらも数を揃えれば戦いは楽になる。

むしろ懸念だったのは、この国が戦力を保持していないことだった。

まったく戦える者がいないパターンというのが、懸念材料だった。

「ぁ――ありがとうございます、ベルゼギアさん!」

ムニンが顔を輝かせ、両手で俺の手を取る。

「がんばりましょうねっ」

「協力はしますが、条件があります」

「条件? え、ええ――わたしにできることなら、なんでもおっしゃって?」

「あなたは、参戦しないでください」

「え?」

俺はゆっくり手をほどき、部屋のドアへ向かった。

「万が一にも禁呪を女神に放つ前に、あなたに死なれては困ります」

「あ、ええっと――わ、わかったわ。ベルゼギアさんがそうおっしゃるなら……その懸念も、わかるもの。わたしが戦場にいると、気が散るわよね?」

「ご理解いただきありがとうございます。では早速……ワタシは、ゼクト王へ協力の旨を伝えに行きます」

「あの……一つ、聞いてもいいかしら?」

ドアに手をかけたところで、ムニンが声をかけてきた。

「なんでしょう?」

「あなた……おいくつなの? あ、いえ大した意味はないのよっ? ただ、話していて……この方、年齢がぜんぜん読めないなー……って」

背中越しに俺は自分の年齢を伝えた。

感情の読み取りづらい表情をするムニン。

思索に耽っているようでもあるが……。

俺はひと言残すと、そのまま退室して廊下を歩き出す。

すると、曲がり角を折れた辺りで――

「――ん? んー……んん? え? ……えぇ!? 嘘っ!? そ、そんなに若いのっ!? 嘘でしょっ!?」

あたふたしている気配、というか。

まるで、今になってようやくのみ込めたとでも言わんばかりの。

そんな困惑した声が、奥の部屋から聞こえてきた。

族長の家を出ると、アーミアが待っていた。

いや、待っていた――というか。

寝ていた。

丸まって寝ている……。

器用に丸まるもんだ。

んむあ?とラミア騎士が目を覚ます。

にょろり、と立ち上がる(?)アーミア。

「ふぁ〜あ……用事は終わったか? 首尾はどうだった?」

「上々です」

「うん、ならよかったじゃないか。では、城へ戻ろう」

集落を後にし、洞窟を出る。

街中を歩きながら、俺はアーミアに切り出した。

「ゼクト王にワタシから話したいことがあるのですが、アーミア殿から取り次いでいただけませんか?」

「うーん、なぜ私が?」

「四戦煌の中で最も話しやすいですから」

「うん、さすがは私っ――って、そもそもキミ! 四戦煌とは、まだ私としか顔合わせしていないのでは!?」

「ええ」

「まったく! いけしゃあしゃあと! ぬけぬけと!」

「とはいえ、話しやすいのは事実でしょう」

「――、……まあそうだな! わかった! 話しやすいこの私から、陛下に話を通してみよう!」

「感謝いたします」

このままの流れで、俺は改めて四戦煌の情報を得た。

アーミア・プラム・リンクス(ラミア)。

ココロニコ・ドラン(竜人)。

キィル・メイル(ケンタウロス)。

ジオ・シャドウブレード(豹人)。

ここに、

ゼクト(リッチ)。

グラトラ・メロウハート(ハーピー)。

リィゼロッテ・オニク(アラクネ)。

この三名が加わって七煌、と。

つーか……。

ここには、スピード族以外の豹人族がいるのか。

で、アラクネってのは確か――

上半身が人間で、下半身が蜘蛛のヤツだったか。

アーミアが目を細め、中空へ視線を飛ばす。

「ん? あれは……グラトラ殿?」

俺たちの方へ飛んでくる一人のハーピーが見えた。

確かに、グラトラだ。

ハーピーが飛行している姿はそう珍しくはないのだろう。

道を行き交う者たちが驚いている様子はない。

視線は集めているが。

グラトラが俺たちの前に降り立つ。

ちょっと切羽詰まった雰囲気だった。

……何かあったらしい。

呼吸を小さく整え、グラトラが口を開く。

「セラス・アシュレインが意識を失い、倒れました」

「――――――――」

セラスが?

「何があったのですか」

「陛下のお許しが出たのもあって、彼女たちは、部屋を出て城付近を見学していたそうです」

その最中に、何か起きたらしい。

「居合わせた者の話によると、畑を見学中に倒れたとのことです。倒れる直前は、血の気が失せていたと」

今までの疲労が一気に出た?

……病気か?

それとも、何か別の――

「今は城内に運び込まれて眠っています。ただ、うなされているそうで……なんでも、巨大ミミズがどうとか……」

「……………………」

そっちか。