軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

禁忌の魔女

そこは、別世界に思えた。

まず天井が高い。

奥行きもある……。

イヴが、驚嘆する。

「地下に……空、だと?」

きょろきょろするリズ。

「すごい……」

「魔法の力ってヤツか。もしくは……扉を抜けるとそこはもう別空間、とかな」

元の世界に溢れていた物語では定番だ。

すごい魔女とくればなおさらありそうな舞台装置。

普通じゃない仕掛けに驚きはする。

が、納得はできる。

何が出てきてもおかしくはない。

俺は指の腹を舐め、顔の前にかざした。

「……風がある」

少し待ってみる。

「しかも、風向きが一定じゃない」

ここは地中。

なのに風が吹いている。

草花も心地よさげにそよいでいる。

「ここは……地上、なのか?」

イヴはいまだに困惑を隠せない様子。

「いや、見ろ」

前方を指差す。

根っこ、だろうか。

捻じれた巨大な木の根。

根は空を覆う厚ぼったい雲から下へ伸びている。

あれがここが地中である証拠とも言えるだろう。

伸びた巨大な根はそのまま地面にめり込んでいる。

空のカラクリは幻術的なものだろうか?

たとえば、セラスの光の精霊のような……。

セラスが言った。

「あれは……汚染樹の根でしょうか」

「可能性は高いな」

「ここまで根が張っているいるのですね……」

口元に手を添える。

汚染樹。

水底に溜まっていたあの膨大な魔素……。

地上の巨大樹は枯れている。

が、地中の根はまだ生きている?

元聖樹とやらの根は今も大量の魔素を生成しているのか?

魔女はそれを、なんらかの方法で貯蓄している……?

「…………」

なるほど。

使いたい放題の魔素だとすれば。

「魔女にとっては、いい環境なのかもな」

根の表面には横穴らしきものが数か所空いていた。

人工的に空けられた穴と思われる。

なぜなら穴へ向かって木製の階段が続いているからだ。

他にも高い位置に、人が通れるほどの出入り口らしき穴が見える。

見れば、テラスらしき設えも――

「トーカ」

イヴが”それ”に気づいた。

「ああ」

人影。

高い位置のテラスめいた出っ張り。

そこに、人が出てきた。

この空間には明るさがある。

皮袋の光は用をなさない。

そのくらいには明るい。

だからその人物の姿は、はっきり目視できた。

長い耳。

耳にイヤリング。

褐色肌。

身体つきから女だと判断できる。

元の世界だと”魔女”という呼称は男にも適用されたそうだ。

が、文字通り女らしい。

切れ長の冷たい目。

氷のような表情。

瞳の色は……紫紺と思われる。

髪は漆黒のツインテール。

左右に垂れた髪はひたすらに長い。

アシナガグモの脚。

なんとなく、それを思い出した。

結び目には白く大きなリボン。

服装は……。

いわゆるチャイナドレスのようにも映る。

前垂れやスリットのせいかもしれない。

ただし西洋風と言われればそうとも映る。

和洋折衷ならぬ”中洋折衷”とでも言おうか。

露出度は高いと言える。

……ま、人目を気にするよう場所でもなさそうだしな。

手には装飾豊かな杖を持っていた。

おそらくはあれが、

禁忌の魔女。

魔女は冷然と俺たちを見おろしている。

やがて、形のよい魔女の唇が開いた。

「※Kk、mk■▽hjn*gkt◇h」

「……何?」

言語が、違う?

いや、ありえない。

魔女はイヴたちの部族と過去に会っている。

識(し) りすぎた魔女。

ゆえに禁忌と化した。

世間ではそう伝わっているそうだ。

膨大な知を有する魔女。

その魔女がこの世界の共通言語を知らないはずがない。

と、

「sW……■hbt※t?」

言葉を発したのは、セラス。

俺には理解できない言語。

魔女が、

タンッ!

杖底で足元を打った。

「まさかその古代語を、 識(し) っているとはね」

今度は俺にもわかる言語。

セラスが前へ出る。

「今のは試験か何かでしょうか?」

「ええ、どの程度の 輩(やから) かと思ってね」

俺はジッと魔女を観察した。

魔女はセラスと会話している。

が、魔女の視線は俺を捉えていた。

セラスが聞く。

「あなたは――」

「笑止」

質問が終わるより早く、魔女がセラスの言を遮る。

「わかり切ったことをいちいち聞かない。どうせ、きみのその予感はもう限りなく確信に近づいてるんでしょ?」

窘めるような言い方。

が、きつい感じはしない。

個人的に口調は少し意外だった。

まるで少女のような話し方だ。

大人びて映る顔つきと身体つき。

妖艶と言っていい外見の第一印象。

ギャップがなかったと言えば、嘘になる。

小気味よく、魔女が少しだけ腰を捻った。

「だからいちいち、聞くまでもないわ」

クルッ

魔女が杖を手元で一回転させた。

まるで、ペン回しでもするみたいに。

「まずは名乗りを―― 妾(わらわ) の名は、エリカ・アナオロバエル」

魔女は堂々と”その名”を、口にした。

「きみたちの言う”禁忌の魔女”で、相違ないわ」