軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Move

「では行くか、スレイ」

乗馬したイヴが手綱を握る。

もう片方の手には弓を握りしめている。

その背には矢筒。

「我も弓の腕にはそこそこ自信がある。セラスには遠く及ばぬがな」

一応、剣も鞘ごとスレイの横腹に下げてある。

ちなみに手綱などの馬具はセラスの手製である。

エルフの国にいた頃から作れたそうだ。

セラスは、

『あくまで間に合わせの簡易的なものですが』

などと謙遜していたが、俺からすると十分な出来に視える。

俺は、第三形態の巨大な黒馬と化したスレイの横腹を撫でた。

「頼んだぞ」

スレイが静かに頷く。

次に、イヴに言う。

「あいつに”攻撃の意思がある”と判断させられれば、目的は確かに果たせる。ただ――」

弓を持つ手をイヴが突き出す。

まるで、制止するみたいに。

「それ以上は言わずともよい。危険は承知の上だ」

セラスが少し前へ出た。

「わずかばかりですが、私も風の精霊で速度を補助します。多少の追い風のようなもの、ですが」

「うむ、ありがたい」

「俺の方はさっき話した通りだ――準備はいいな、ピギ丸?」

「ピ!」

こちらの準備は、もう整っている。

あとは、

「…………」

あいつが”喰いつく”か、どうか。

魔群帯の移動中は空き時間も多い。

その空き時間を使ってしたいことも多い。

たとえばスキル【フリーズ】の検証。

セラスやイヴに戦闘技術を教わる、などなど。

しかし俺は、別のことに時間を費やしていた。

ピギ丸との合体技。

費やしたのはそのさらなる検証と実験である。

黒竜騎士団戦。

アシント戦。

状態異常スキルには射程外の敵というネックがある。

それを埋めてくれるのがピギ丸との合体技だ。

この技をもっと活かすすべがないか?

休憩などの魔群帯での空き時間に、俺はその検証と実験に時間を費やしていた。

――ギュルッ、キュルッ――

俺の背から広がる何本ものピギ丸の触手を、 一(・) つ(・) に(・) ま(・) と(・) め(・) あ(・) げ(・) る(・) 。

検証と実験で得たのは、触手を束ね一本にすることによって起こる効果だった。

操りやすさは格段に上がる。

何より向上するのは、速度だった。

攻撃対象が一つならこれの方がいい。

ただしあの人面種との勝負を決めるには、一拍ほど足りない。

が、もしその一拍の隙さえ作れれば――

「あいつに、届く」

ドカッ!

勢いよく地を蹴り、スレイが跳んだ。

いななきと共に遺跡の斜面へと飛び出していく。

あのいななきは人面種の注意を引きつけるためだろう。

物凄い速度で斜面を駆けおりていくスレイ。

その馬上ではイヴが弓を構えていた。

イヴの戦意は十分。

というか、タイミングがあえばイヴは矢で攻撃するつもりだろう。

「…………」

しかし、あのアンバランスな状態でよく構えを崩さないもんだ。

というか、

「――速い」

セラスのその声には、畏怖すら宿っている。

しかし今の俺はもはやスレイを見てはいなかった。

耳から届く馬蹄の音で、その速さや走駆する姿を想像するくらしかできない。

今、目を離すわけにはいかない。

その一瞬を、見逃さないために。

と、

「ム!? む! ム! むムむ゛ーッ! むゥ〜〜〜〜〜〜ん゛!」

動いた。

スレイとイヴの方角めがけ、人面種が、動いた。

生じた。

空隙。

当然、俺はそれを見逃さない。

――ギュルッ、ヒュッ――

ほとんど反射的に、色味の濃くなったピギ丸の触手を飛ばす。

「――ア゛! あ゛ァ゛ーっ!? ひィ゛ぃ゛ィ゛ーっ!」

人面種がこちらの動きに気づいた。

気づ、かれた。

人面種が 急(・) 停(・) 止(・) し、縫い面が一斉に、超速で大量の触手を吐き出す。

さながら爆発のごとき、人面種による触手展開。

が、

も(・) う(・) 遅(・) い(・) 。

捉えた――、――届く。

射程、圏内。

「――――【 パ(・) ラ(・) ラ(・) イ(・) ズ(・) 】――――」

――ピシッ、ピキッ――

「ム゛……む、ム゛、むギぃぃ゛……ッ、い゛ィーっ……ィ……」

ポタッ、と。

汗が一筋、あごを伝う。

ふぅぅ、と。

止まっていた呼吸が、戻ってくる。

「ギリギリ……届いた、か……どうにか……」

目算通りに、運んだらしい。

この攻撃には一つ重要な点があった。

攻略のカギはあの人面種の”ある性質”にあった。

二本目の矢を放った直後にセラスが覚えたある違和感の正体。

その時、俺が見つけたもの。

一本目は正面から放って叩き落とされた。

そして、二本目は射程距離外ギリギリを狙って叩き落とされた。

”ズルッ――バシュッ!”

この時、人面種は移動した。

移動してから、触手を吐き出して攻撃した。

そう、

移(・) 動(・) し(・) な(・) が(・) ら(・) 、ではない。

移(・) 動(・) し(・) て(・) か(・) ら(・) 、である。

要するに、あの人面種は”移動を終えたあと”でなければ、触手を吐き出しての攻撃ができないのである。

つまりその”移動中”にこそ、隙が生じる。

そこがあいつのつけいる隙だったのだ。

そして一つにまとめあげて速度を上げたピギ丸の触手でも、その一瞬ほどの隙の分がなければ、あいつを【パラライズ】の射程内に収めることは不可能だった。

だからまずあいつをあの場から移動させる必要があった。

もっと言えば”移動後の攻撃”を引き出す必要があった。

しかしあいつは、移動に誘い込もうとした三本目の矢に反応しなかった。

フェイクだと勘づかれてしまったのだ。

結果、スレイとイヴに囮役を頼むことになってしまった。

が、

「スレイとイヴが無事のまま、麻痺させることができた……」

一段一段、俺は、階段を降りていく。

「今回は……俺一人でやれたかと言われると、厳しかっただろうな」

人面種の前まで来ると、俺は、一転して青ざめたその苦悶の表情をよく見ながら言った。

笑い面なのに、青ざめている。

まったく。

笑えない。

手を突き出す。

「【バーサク】」

麻痺付与と暴性付与。

性質上、これも必殺の組み合わせとなる。

「む、ム゛ぉ――」

ブッ、シュゥゥゥゥゥゥゥァァァアアア――――ッ!

巨大な間欠泉のごとく、青い血が盛大に空へと舞った。

「まだ一匹だからもちろん、完全ってわけじゃないが……とにかくこれで――」

青の雨を背後に、セラス、イヴ、スレイたちの方へ向き直る。

そして、言った。

「金棲魔群帯の人面種、攻略完了だ」

【レベルが上がりました】

【LV1797→LV1903】