軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

LIGHT

スレイの身体にイヴが 革帯(かくたい) で荷物を括りつけ終える。

今のスレイは再び第二形態になっていた。

第三形態は消費MPが多い。

一方、第二形態はMP1000で変身できる。

そして荷物を任せるだけならこの姿で十分そうだった。

俺は、絶妙に固定された荷物に触れる。

「上手いもんだな」

「旅の経験は長いからな。まあ、セラスでもできたであろうが」

ここはまだまだ俺の不得手な領分だ。

俺は旅の経験が浅い。

こういうトコはあとあと覚えていかないとな……。

が、まだしばらくは仲間に頼る日々が続きそうだ。

「そなたにはそなたにしか使えぬ特別な力がある。我らはその力に頼る代わりに、そなたの不得手な部分を補う……。だから、なんでも自分でやれる必要もあるまい」

「……顔に出てたか?」

くぐもった笑いを、イヴが短く喉奥で鳴らした。

「珍しくな」

普段は読み辛いらしい。

俺たちはさらに魔群帯の奥へと進んだ。

降り注ぐ先を枝葉に遮られた日の光は、いよいよ、か細くなってきている。

途中、野営候補にできそうな場所をいくつかピックアップしてきた。

この先によさそうな場所がなければ、日没頃に合わせて、ピックアップした地点へ引き返す段取りになっている。

にしても、イヴの持つ地図の存在は大きい。

おかげで引き返す時も目的地の位置を把握しやすい。

戻る際の目印の用意も最小限で済む。

もし地図がなければ、地図を作成しつつ進む必要があった。

その場合、進む速度にかなりの影響を及ぼしたはずだ。

リズは荷物と一緒にスレイに乗っている。

あの子は文句一つ言わず、懸命に荷物を背負って歩いていた。

が、この中で最も体力が少ないのがリズなのは明白である。

その点でもスレイの加入はありがたかった。

しかし……リズは相変わらず物分かりがいい。

遠慮する素振りこそ見せるものの、引き際をわきまえている。

この中で自分だけが馬に乗る。

リズは最初、遠慮した。

だがすぐに受け入れた。

時間の無駄だと頭で理解したのだろう。

表情や声からそれがわかった。

相手の様子を見て、あの子は自分の取るべき行動を見極めている。

いわゆる” 庇護者(ひごしゃ) ”の顔色をうかがいながら成長すると、自然と身につきやすい能力。

「…………」

利発な子である。

俺は、スレイの横に移動した。

「リズ」

「あ――はい、トーカ様」

「人の顔色ばかりうかがってるヤツってのは、悪く言われることも多い」

リズは、黙って耳を傾けている。

「けど、時にそれが役立つこともある。人の顔色をしっかりうかがえると、それはそれで得することが多い」

「……はい」

リズの頬は緩んでいた。

「ただ、我慢ばかりもよくない。どうしても自分の主張を通したい時は、ちゃんと本音を口にしろ。大丈夫だ、俺たちは頭ごなしに否定したりはしない」

馬上のリズの小さな腰を、柔らかく叩く。

ポンッ

「いいな?」

「お気を遣っていただき感謝します、トーカ様……」

「それと、イヴのことも頼む」

「え?」

「あいつ、鈍いからな」

「聞こえているぞ、トーカ」

振り向くイヴに、俺はニヤけて言った。

「ま、聞こえるように言ったからな」

くすっ

リズが馬上で微笑む。

「はい。じゃあ、そういう部分でのおねえちゃんのことは、わたしにお任せください」

イヴが、あんぐり口をあけた。

「リ、リズ……」

魔物とは相変わらず遭遇し続けた。

状態異常スキルで蹴散らしてもよかったが、イヴがこう提案してきた。

「強い魔物と戦って、我も戦いの感覚を鍛えたいのだ」

強者との戦闘が最も効果のある鍛錬になる。

特に生死を賭けた実戦経験は強力な糧となる。

セラスも、その提案に賛意を示した。

彼我の力量差がかけ離れていなければ、魔物と戦いたい。

彼女もそう望んだ。

「ですが、トドメはできるだけトーカ殿へ回しますので」

「わかった」

俺としても二人の戦闘能力が向上するに越したことはない。

そしてもし苦戦の気配があれば、俺がスキルで魔物の動きを止めればいい。

セラスはイヴと連係しつつ魔物と戦っていった。

コンビネーションを作り上げているらしい。

流麗な舞を想起させるセラスの体捌き。

彼女の動きは滑らかで無駄がない。

魔物の猛攻も軽やかに躱す。

精霊の力を適度に織り交ぜられるのも、彼女の強みだろう。

また、強敵と見るや彼女は時おり精式霊装を使用した。

どの程度の魔物にまで通用するか、試しておきたいとのことだ。

一方のイヴの動きは獰猛な戦士のそれと言えた。

荒々しい獣性を発しながらも、洗練された動き。

セラスと比べると野性味を帯びた苛烈さが特徴的である。

ひとたび剣を振るえば、その斬撃は魔物の肉を激しく切り裂く。

膂力、敏捷性、反射、技術、野生的な勘……。

どれも申し分がない。

天賦の才を備えた真の戦士、と言っていいのだろう。

俺の今後の戦闘技術を向上させるための師としても、二人の力量は申し分ないと言える。

三日間、俺たちは魔女の棲み家を目指してひたすら進んだ。

人面種とはまだ出遭っていない。

瓦礫の散乱している廃墟のある地帯に出た。

元は遺跡の建物があったようだ。

建物は破壊の限りを尽くされていた。

屋根など残っていない。

ぽつねんと取り残された壁だけが点在している。

とはいえ遮蔽物としては十分。

一応、ここも野営地の候補に入れてよさそうだ。

天を仰げば、薄っすらと茜色に染まりつつある空が確認できた。

日を拒む大樹地帯に囲まれた平地。

ただし見通しがよすぎる点は注意すべきだろう。

とはいえ今のところ周囲に魔物の気配はない。

俺は腰を降ろし、イヴと地図を確認した。

「大分、近づいてきたみたいだな」

「うむ。距離的に、三分の二までは来たようだ」

リズの傍らで草を 食(は) んでいる黒馬へ視線を飛ばす。

スレイの加入で進む速度は大幅にアップした。

しかもスレイは、まだ一度も魔物に対し怯えを見せていない。

肝が据わっているのか。

もしくは、あの第三形態のスレイからするとまだ脅威を覚えぬ程度の魔物ばかりなのか。

とにかく、スレイのそういった懸念は払しょくされた。

今のところは、だが。

「魔女の棲み家には、かなり近づいたようですね」

曲げた膝に手を添え、セラスが前屈みに覗き込んできた。

俺の隣に座るイヴがあごに手を添え、頷く。

「うむ、あともうひと息だ」

空を一瞥。

俺は、手もとの懐中時計を確認した。

「ひとまず今日は、あと一、二時間くらい進んでみるか」

イヴがすっくと立ち上がる。

「トーカ、我は少し先を探索してくる」

「気をつけろよ」

「うむ」

夕闇に満ち始めた暗い林の中へイヴが溶けていく。

センサーばりの索敵能力を持つ彼女は、偵察にも向いている。

苦笑するセラス。

「ふふ、イヴは元気ですね――っとと……」

ガッ

セラスが、前のめりに倒れ込んできた。

彼女は咄嗟に俺の横の壁に手をつき、踏みとどまる。

一方、俺はセラスを抱きとめる寸前の姿勢になっていた。

「――――――――」

ほぼ鼻先まで、互いの顔が接近している。

「……急にふらついたみたいだが、大丈夫か?」

「え、ええ……申し訳ありません」

余裕っぽい笑みを作るセラス。

「で、ですが大丈夫ですので……」

「ウソだな」

「た、確かに多少疲れてはいますが」

「…………」

失態だった。

セラスの疲労に、気づいてやれていなかった。

俺はリズの体力にばかり気を配っていた。

イヴの体力の方はまず問題ないのがわかった。

彼女は顔や態度に出やすい。

疲れていればすぐに察することができる。

そして俺自身も、おそらくステータス補正で疲労が少ない。

が、セラスはそれほど体力のある方ではないのだ。

「悪かった……もっと、おまえに気を配るべきだったな」

大抵セラスはいつも平然とした顔をしている。

が、あれでけっこうポーカーフェイスでもある。

イヴが、俺の感情を読み取りづらいと言ったように。

セラスも意外と、感情が読み取りづらいタイプなのである。

「あと一、二時間くらいでしたら問題なく――」

「だめだ」

セラスの両肩を掴み、軽く押し戻しながら俺は立ち上がった。

「今日はもう、ここで休むことにする」

「……申し訳ありません」

「謝るな。見抜けなかった俺にも非はある。団長として、それはよろしくないだろ。ただ――」

セラスの肩を、叩く。

「無理だけはするな。いいな?」

「……はい」

「どうだ?」

口端を歪めて聞く。

「団長さまの優しさに、感銘を受けただろ?」

幸福そうにまつ毛を伏せ、胸に手をあてるセラス。

「ええ、とても」

「…………」

空気を和ませるための冗談だったのだが。

どうやら冗談も通じないほど、セラスは頭の方も疲れているようだ。

「トーカ」

イヴが戻ってきた。

「どうした?」

「この先に何やら、巨大な遺跡らしき建物がある」

再びの巨大樹地帯を抜けると、確かに巨大な遺跡がその先に鎮座していた。

おそらく巨大樹が遮っていたせいだろう。

遠くからだと、目視できなかった。

「でかいな」

破壊の度合いは少ない。

形はピラミッドに似ている。

そうだ、アレだ。

マヤ文明の遺跡。

アレを思い出させる外観をしている。

長い階段の上に扉が確認できた。

俺たちは、階段をのぼってみた。

スレイも器用にのぼってついてくる。

そろそろ、日も落ちかけている。

「…………」

ここが使えそうになければ、さっきの廃墟に戻って野営だな。

俺たちは頂上まで来た。

周囲を見渡す。

巨大樹が群生していない方角なら、遠くまで見渡せそうだ。

が、今はもう夜の帳が降りかけている。

なので広がるのは薄闇だけだ。

俺は、扉に向き直った。

「これは――」

扉に宝石がついている。

ああ、いつものアレか。

俺は気づく。

「ん? ゲージが少しだけ溜まってるな……」

「実はそなたたちを呼びに行く前、我が魔素を込めてみたのだ」

一応、イヴも魔素を扱える。

「しかし、これしか溜まらなかった。やはりこういうのは、トーカに頼まねばならんようだな」

「任せろ」

ステータスオープン。

MPを表示。

言うなれば、ここは高台。

宝石の光を見つけた魔物が寄ってくると今は煩わしい。

セラスに頼んで、荷物の中から大きな布を出してもらった。

その布で俺と宝石を覆ってもらう。

これで、漏れる光を最小限にできるだろう。

宝石に触れ、魔素を注入する。

扉が、大仰な音を立てて開いた。

「さすがだな、トーカ」

中に踏み入ったセラスが、光の精霊の力で前方を照射した。

「ん……それほど広い空間ではなさそうですね。他の生物の気配も、今のところ感じられません」

「なら、今夜の宿泊場所として使えるかもな」

セラスを先頭にして皆が中へ入っていく。

俺は、ふと後ろを振り向いた。

遥か遠くで、光が明滅していた。

明滅は、何度か繰り返されている。

あの距離だと、魔群帯の範囲内だとは思うが……。

なんだ?

魔物同士で殺し合いでもしてるのか?

「…………」

地図の位置関係を思い出す。

ウルザを南とすると、断続的に光が発生しているあの方角は北東……。

ああ、そうか。

今は不思議な懐かしさすら覚える。

そういえば、あの方角は――

「クソ女神のいやがる、アライオンの方角か」