軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

305 素晴らしい未来へ!

「グートハイルさま。シルヴィアの護衛をお願い致します」

「命に替えても。……行ってらっしゃいませ」

「はい。またね、シルヴィア!」

アルノルトに頭を下げているシルヴィアが、礼の姿勢を深めることで応えてくれる。ふたりの邪魔をしないよう、リーシェはすぐに歩き始める。

(…………)

手にしたバッグの中には、宝石店で受け取った小箱が入っていた。

歩きながらそれを見下ろしていると、アルノルトが自然な様子でもう片方の手を伸べる。そして、リーシェの手からバッグを取り、ごく自然に預かってくれた。

「あ……」

つまり、中の小箱ごとアルノルトの手に渡る。

「? なんだ」

「い、いえ! ありがとうございます、アルノルト殿下」

アルノルトがリーシェの荷物を持つのは、実のところ珍しくない。アルノルトは、リーシェがどれほど愛らしいデザインのものを使っていようとも躊躇することはなく、自分の手へと携えてくれる。

夜会には滅多に出なかったと聞いているのに、アルノルトのエスコートは完璧なのだ。バッグを持たせてしまうのは申し訳なく思うものの、アルノルトの気遣いに甘えることにする。

その一方で、アルノルトはリーシェをじっと見下ろしていた。

それはどうやら、夏の夕暮れに合わせた薄黄緑のドレスが、昼間のものとはまた違っている所為らしい。

「……一日にそれほど幾度も着替えていて、負担ではないのか」

「それが、侍女のみんなが張り切ってくれていまして。婚礼期間は主城から、熟練の方々の手をお借りしている分、私の衣装を教材に色んなことを教わっているそうです」

離宮の侍女たちは、本当に日々たくさんのことを学んでくれている。

リーシェがこのところ、なるべく違う素材のドレスにどんどん着替えているのは、洗濯の知識を増やしたい侍女たちからのお願いでもあるのだった。

「そうではなく、お前の負担を聞いている。すり減らないのか?」

「ふふ。小さくなって消えたりしませんから、ご心配なく」

「…………」

リーシェはコルセットをしないので、着替えもひとりで行える。ドレスと小物の組み合わせさえ決まっていれば、衣装替えに掛かる時間は短い。

「それに、可愛いでしょう?」

「…………」

シルヴィアに編んでもらった髪型や、この華やかなドレスについて、リーシェは尋ねる。

するとアルノルトは、リーシェを見下ろしたまま、なんでもないことのように答えるのだ。

「――そうだな」

「!?」

思わぬ返事に、耳まで熱くなった気がした。

(そうだったわ!! アルノルト殿下はこんなとき、絶対に婚約者を否定しないもの……!! 自重しなきゃ。職権濫用は駄目、職権濫用は駄目……っ)

「?」

そもそもが、アルノルトだってこの所は、頻繁な衣装替えを行っている。

エスコートされている手をきゅうっと握り返したリーシェは、改めてアルノルトの装いを見詰めた。

白いシャツの上に黒のジャケットを纏った夜会着は、こちらも夏用のものだ。余分な遊びの一切ない涼やかなシルエットは、アルノルトの体格やスタイルの良さを際立たせている。

その腰に携えられた剣が、どこか無骨な格式高さを加えていて、思わず見惚れてしまうほどだ。

「どうした」

「今日もお美しいなと思いまして……この装いでしたら、鞘の誂えは式典用に飾ったものよりも、こうした普段通りのもので間違いありませんでしたね」

リーシェは顔を上げて、アルノルトに尋ねる。

「婚礼用の鞘は、後ほど『あのお方』からお受け取りになられるのだとか」

「宝飾を施すにあたり、コヨルの職人に関わらせたからな」

「ふふ。……嬉しいです」

あのとき結んだ同盟を、アルノルトは様々なことに組み込んでいてくれる。その喜びに、リーシェは目を細めた。

「とはいえ、婚礼の時まで交換はなさいませんよね? 実用には少々向きませんし……」

「野盗騒ぎも増えているからな。皇都に賊が沸けば、俺が直接出向く必要も出てくるだろう」

商人だった人生で、ザハドが護衛をしてくれた時と同じだ。

(アルノルト殿下の武勇を示すことは、他国に対する牽制にもなるわ)

国外からの要人に対して、その武力を披露する。

そうすることが、ガルクハインという国の脅威を知らしめ、政治的に有利に働くこととなるのだ。

(でも、それだけじゃない)

ふたりで歩きながら目指している場所から、賑やかな声と音楽が聞こえている。

「皆さまきっと、お喜びになられますね」

「……なぜ?」

「だって、殿下が自ら警邏なさることは……」

リーシェはにこっと微笑んで、アルノルトを見上げた。

「『皇太子殿下自らが賓客を守る』という、各国への友好の証明ですから」

「――――……」

辿り着いた庭園には、大勢の客人たちが集まっていた。

アルノルトとリーシェの姿を見付けた彼らが、盛大な拍手で迎えてくれる。このガーデンパーティーに集っている人々は、国内外からの招待客だ。

(アルノルト殿下が戦争をする未来も、お義父さまを殺す未来も、私はきっとまだ回避できていない。……それでも、この人生で変えられたものは、確かにある)

傍らのアルノルトを、幸福な気持ちで見上げて告げた。

「各国との関係は、きっとこれからもどんどん変化していきます。『両国にとって』の、素晴らしい未来へ!」

「………………」

アルノルトは、リーシェだけを見据えて目を細める。

「行くぞ」

「はい!」