作品タイトル不明
第622話
「それじゃあ中の方に移動するぞ。左手を出してくれ、どうぞ」
俺とミケヲさん、アンディーが左手/左前脚を差し出す。
「カーバンクルは要らねぇぜ、どうぞ」
ムキュウ
ダイモーンさんが中心が鎖で繋がれた黒い腕輪、ぶっちゃけ手錠的な形状の腕輪を二つ取り出す。ガチャリ。俺とミケヲさんの左手にそれぞれ黒い腕輪が装着された。空いている側に縄を繋ぐとダイモーンさんが自身の腰に装着した。
俺達、タイホされてるーー!!!???
「さてと、この 腕輪(ワッパー) を 腰縄(リード) と繋いでおけば迷子にならずに済むからな、どうぞ」
「吾輩も初めて体験するね」
ムキュウ〜ン ムキュウ〜ン
(「あたちも ますたー なわ ちた〜い」)
「カーバンクルの嬢ちゃんはそんなに迷子になるのかな? どうぞ」
ムキュウ キュウキュウ
(「あたち ちがうの まいご ますたー」)
「別件とのこと、どうぞ」
プープ プープ
(「変わったリードだし、めっちゃ気になるんですけど」)
うん、ダイモーンさんがカトリーヌに乗ったらサイズ的に丁度いい感じだな。
ダイモーンさんに連行されてドゥーブル橋を渡る。特にジロジロ見られている感じはしないから、人界からの来訪者が迷子の腕輪を着けられて誘導されるっていうのは通常運転なんだろう。
「ここがセントラルパークだ。まぁ妖精界で迷子になったら此処を目指せば何とかなるな、どうぞ」
「ただし、『 茸の輪(カルーセル) 』を踏み抜いた時は除く。だった記憶があるんだけどね」
「その時はダンス審査が発生するからな、どうぞ」
「あっ、あれはイレギュラー来訪なんですね」
「偶に運悪くダンス審査が始まらなくて、本来の世界に帰れなくなる来訪者が居るぜ、どうぞ」
「それってどうなっちゃうんです?」
「邪魔者 放浪者(ワンダ) と呼ばれる。運良く迷子案内に連れて行かれるとダンス審査に回されるけどな、どうぞ」
放浪者(ワンダ) 、困っちゃう〜。ってやつ?
「運が悪いとどうなるんですか?」
「何年も放置民だな。アレは可哀想だ。何かの拍子に元居た世界に戻れたりするが、時間の流れが違うから戻れた所で不幸だろ、どうぞ」
「ほら、有名なウラー=シーマン=タロールの物語だよ」
「ウラー=シーマン=タロール?」
「深夜に浜辺で光るイカを掬っていたらウミキノコの輪を踏み抜き、深き都こと『ルルの家』に転送される。そこで出会った旦那が単身赴任中で暇を持て余していた 鱗人族(スケイラー) に歓迎され、間男として滞在。間男だとバレないうちに地上に戻るも元いた村は既に無く、ウラー=シーマン=タロールの姿も鱗に覆われた 半魚人(サハギン) に変わり果ててしまっていた。と言う悲しい物語だよ」
ちなみにウラー=シーマン=タロールはと言うのは造語で、 乾杯(ウラー) 、 水中に住む人(シーマン) 、タロールさんという意味だ。
タロールの名は不幸の象徴なの!?
「まぁ、間男はさておき、あれは異界に長く居すぎると精神も肉体も変容するという注意喚起の物語だよ。つまり、転生者はともかく、転移で現れた異世界人はほぼ元の世界に戻れないと言う事だね。まぁ、転生者の魂も元の世界には戻れないと思うけど」
だからナツメグの事は待つしかないんだよね……。ミケヲさんが日本語でボソッとそう呟いた。
妖精界の中央広場は放射状に橋が広がっていて、前世フランスはパリの道が橋バージョンって感じだった。そして施設の大きさはヒト族並み。ダイモーンさん達には大き過ぎるんじゃないのか!? まぁ、背丈の高い妖精族に合わせてるんだろうけど。
「凄い……」
「吾輩、妖精界の店舗の大半がヒト族の薬屋扱いだったと記憶しているが」
「そうなんですか?」
「妖精族にしてみたら全てが薬扱いって事だ、どうぞ」
「じゃあ、クルラホーンがお酒を飲むのは」
「服薬だ、どうぞ」
「そんな、酒は薬だって、どんな古代エルフ理論……」
「いや、エルフは妖精に近い種族だからあながち間違ってもいないぞ、どうぞ」
え〜〜、酒もタバコも塩も薬扱いなのかよ。それは少し無理があるだろ。
「それじゃ『ヤガラ亭』に入ろうか、どうぞ」
腕輪(ワッパー) を引かれるまま『ヤガラ亭』に連れて行かれる。俺達に拒否権はない。
「アニキ、お帰りなさい!! どうぞ」
「アニキ、ご無事でしたか、どうぞ」
「アニキ!! どうぞ」
総立ちした 小羽妖精(ポゥ・リース) 軍団にお出迎えされるダイモーンさん。そして語尾は “ どうぞ ” で確定か。前世で流行った「どうぞどうぞ」と権利を押し付け合うコントはどう思われるのやら。
「チョイとヘマをやらかしてな、ドワーフさんの街で迷子になってた。そこを助けてもらってな。猫獣人の 首領(ドン) もいたから連れてきてもらった。どうぞ」
ちなみにダイモーンさんのやらかしたヘマというのが、『 茸の輪(カルーセル) 』利用の移動中に躓いて携行食のジャムパンを落とし、慌てて拾いに行こうとしているうちに迷子になったという話だよ。現場に行く時はジャムパンと白豆ジュースが必需品なのだとか。
「ダイモーンのアニキがお世話になりやした、どうぞ」
「こちらこそ妖精界にお招き、ありがとうございます。初めてなのでドキドキしてます」
「あ、言葉が通じるって事は、アニキ、例のバッジをお渡しで? どうぞ」
「『 穴開き(アナーキー) 虚空渡り(スカイウォーカー) 』のスキル持ちだと聞いたからな、妖精界と縁があるなら渡しておいて問題は無いと判断した、どうぞ」
「おお、『 穴開き(アナーキー) 虚空渡り(スカイウォーカー) 』、どうぞ」
「踊られたのか、どうぞ」
「そうそう、このドワーフのミーシャ=ニイトラックバーグだけど、種族は違うけど吾輩の妹だからね。宜しく頼むよ」
「猫獣人の 首領(ドン) の妹御さんでしたか、どうぞ」
「まぁ座ろうじゃねぇか。マスター、【 魔増補(マッポ) 】だ。ここに居る全員分と従魔三匹分で頼む、どうぞ」
程なく謎のドリンク【 魔増補(マッポ) 】が提供された訳で。