作品タイトル不明
第430話
ここにはカトリーヌを連れてこれないな。折角吐いてくれた殺虫の煙が全部魔道具に吸い取られてしまう。
仲良くなったとは言え家族になったばかりなので、あちこち連れ回していいものやら。かと言って学生寮の部屋で独りでお留守番させるのも可哀想だよなぁ……と思ったのでカトリーヌは小型従魔の待機場所に預ける事にした。今日は何故か他の【手持ち豚】が何頭か待機してるんだけど。豚のイベント日か何かなのか? そう思っていたら講師の一人に声を掛けられた。
「そうだ、カトリーヌさんにも参加の依頼を」
「参加って何ですか?」
「食堂の駆虫日なんです。皆さんの食事が終わったら煙を吐いてもらうだけの簡単なお仕事です」
それは大事なお仕事じゃないの? 食堂にいるカサカサ虫とかブンブン虫とかを追い出す訳でしょ?
勿論、二つ返事でOKした。カトリーヌは 「駆虫」 と聞くと尻尾をパタパタさせてたのでやる気なんだと思う。多分、今日はオヤツが沢山だと思っている可能性大。終業時間ギリギリまで作業して、お風呂とご飯を遅目に調整したらいいかな。まぁ、食後に研磨ノートに書き込みしてカトリーヌの出番を待つのも有りだな。
「そうそう、俺達なんだが来月から作業現場が変わるので教えておくよ」
「そうなんですね」
「来月からは『スワロー』の外側だ。郊外開発に回るからな。俺らの勇姿を見に来ていいぜ」
「それってカッコいい仕事じゃないですか!!」
「カッコいい。だろ?」
「はい!! だって街の基礎作りですよ」
「『スワロー』拡張工事だ。今回拡張工事に関わった面子の名前を外壁に彫るって話だからな。張り切らねぇとな」
「街に名前が残るなんて滅多に無いんだ。あんたも波に乗れたらいいな」
「ははっ、ボクはいいですよ」
「おいおい、欲が無ぇなぁ……」
{ ――― ミーシャさんの名前が載るのは確定ですよ ――― }
えっ!? ヤーデさん? 確定とか止めて!!
「ん、どうした?」
「今、何か聞こえた感じが……」
ヤーデさんの声がしたのでキョロキョロしてしまった。確かに『スワロー』郊外開発は俺のせいだけど、名前は載せなくていいです。
「おいおい、真っ昼間から飲んでんのか? それとも毎日飲み過ぎて幻聴でも聞こえる体になってるんじゃねぇだろうな」
「それはお前の親父だろうが」
「俺の親父は手が震えてハンマーを振るえないって言ってたな」
「でも、エールのジョッキを掴む時は手は震えないんだろ?」
「そうなんだから質が悪いんだぜ。全く、クルラホーン呼び病は家族ではどうも出来ねぇな」
「クルラホーン呼び病、ですか?」
「手が震えて酒を溢すだろ? その溢れた酒にクルラホーンが寄ってくるんだよ」
「本当ですか!?」
「地面に落ちたら来ねぇな」
「例えだよ、例え」
なんだ、例え話か……。溢した酒に群がるクルラホーンを想像しちゃったじゃないか。アルコール依存症患者が溢した酒に依存するクルラホーン、無いと言えないのが何とも……。
今度、本当なのかアルチュールさんに聞いてみよう。
アマゾナイトの研磨を始めるとしよう。底面にする場所を決めたら平らに削るんたけど、珍しく鉱石が立方形に近い形なので円形カボションカットにしてみようかな? それだとかなり削り落とすかハイカボションにする事になっちゃうんだけど、削り落とすのも何だか勿体ない気がする。そしてどの面を底面にすべきか慎重に決めないと。濡らして光に翳して…の繰り返しだ。
円形って輪郭が歪むと不格好なんだよなぁ。人の目の判定精度って凄いと思う。円のテンプレート板が無いのでコンパスを使う事にした。コンパスは二種類持ってる。両方が針になっていて使うと金属や岩石をガリガリ削りながら浅い溝を掘って線付けするタイプと、片方が烏口になっていてそこにインクを充填して線を書くタイプだ。残念ながら鉛筆や鉛筆の芯を挟んで使うタイプは存在しない。誰かを唆せば開発してくれるだろうか?
今回は両方が針のタイプにするか。掘れた溝に混ぜ墨を擦り込めば見やすくなるだろう。
「ところで、この前外で飲んでた時にサービスで一切れ出て来たミートローフが美味くてよう、それ食いたさにその店に行ったら、ミートローフの値段が高いの何の。諦めてロールキャベツにしちまったぜ」
「それは罠だろ」
「後で調べたら接待かデート用にオススメな店だったってオチよ」
「何でお前がそんな店に行ったんだ?」
「それが、酔っ払ってて覚えちゃいねぇ」
「でもミートローフは美味かったと」
「いや、ロールキャベツも美味かった」
いいなぁ、ロールキャベツ。ミートローフも食べたいけどお高いお店なんだ。接待向けの店ってことはミケヲさんをご招待したらいいかもな。ミートローフかぁ……研磨に関係ないけどね。ん…、待てよ、シュガーローフカットってあったよな。立方体だとそれが一番歩留まりと言うかカラット数がキープ出来るカットじゃないか? まさかローフ繋がりするとは思わなかった。
となったら研磨方針を変えないと。天と地、つまり尖る上側と平らな底面を決めて、側面は綺麗に直方体になる様に整形だな。綺麗なブロックを作るところからだ。それが出来たらホイップクリームを搾り出した時のツノというか、栗の尖ったところというか、ドングリの先端というか、そんな感じになる様に研磨すればいい。スタッズみたいな感じとでもいうのか? 形を決めた理由は……ミートローフの話だとギャグでしかないので、この尖った先端で内気な相手を突付いてアタックとか、心をノックする先端とか、そんなイメージだとしておけばいいんじゃないか? 想いを伝える【 天河石(テンガ) 】でノックしてもしもーし……ってやつだよ。