作品タイトル不明
第406話
スライムの死核を買うなら農業ギルド。家庭菜園持ちが自家消費する分以外は小遣い稼ぎで売りに出されるか新しいスライムの購入代に充てられる。充分に餌を食べ肥大化したスライムが死んでしまう前にスライム管理の専門職に依頼して株分けしてもらうか若い個体と交換するだけなので基本低コストで済む。
一般家庭は通常、トイレ用と残飯処理用の二種類のスライムを飼育している。なので、どちらかの個体が肥大化したら専門職を呼び、必要数だけ株分けした後に小さな死核片を挿入してもらうだけだ。余った個体は買い取りという形で回収してもらう。大体は処理費と買い取り回収代が大体トントンになるので専門職に出張料だけ支払う。勿論、回収した死核を使いたければ交換代や株分け代を支払えばいい。無理矢理搾取はされない。
「スライム代って安いんですね」
「そりゃあ高かったら街中が糞便と残飯だらけになるからな。快適な生活のためにそこは低コストで抑えられている」
「スライムの職人さん達って食べていけてるんですよね?」
「予想以上に高給取りだぞ。一つの死核から二十匹分の砕片が採れるし、育ったスライムはサイズにもよるが四〜十匹に株分け出来るんだ。株分け時に大きくなった核も抜き取って死核にするから、それが彼らの利益に回っている」
そんなスライムの株分けで職人さんにとって一番儲けが出るのが黒スライムだった。黒スライムが大きくなりすぎると文字の修正に使い辛いので小まめにリサイズしてもらう必要があるからだ。中サイズになったら一般家庭や食堂の鍋釜の煤落とし用に回され、大サイズは鍛冶師の炉や炭焼き窯の掃除用だ。そして株分けされて小さくなった黒スライムは再び文字修正用に回ってくる。
スライム・デッドコア・サイクル・システム、略して『SDCS』だな。
最初は小振りの死核から研磨して交易品に回していこう。マクラメと言うか組紐細工で周囲を囲ってみたり、ビースにしてみたり……かな? でも柔らかいのがネックだ。琥珀だと思うしかないか。前世でも処理法が有ったよなぁ……貼り合わせるとか。
「あっ、ダブレット!!」
「ん?」
「柔らかい素材を硬い素材でカバーしてあげる技法です。スライムの死核の周りを魔導ガラスでコーティングすればそこそこ丈夫になりますよね」
「魔導標本にスライムの死核を入れた感じか」
「そうです。理屈としてはそんな感じです」
「面白いな。交易品に使えるレベルになるまではラルフロ=レーンに相談するしかないが」
「う〜ん。ボク、ラルフロ=レーンさんが苦手なので…」
「ミーシャ安心しろ、俺も苦手だ」
個人としては苦手だけれど、ビジネスパートナーとしてや作業の為の質問相手としては有益な 人(ドワーフ) だからなぁ……。
まぁ、最初にやるのはカボッションカットを使った交易品用のアイテム作りと、ファセットカットの練習だ。そして【 魔(ま) 海鞘(ボヤ) 】の 火屋(ほや) 作り。それと別にオロール先生のトマホークの柄の研磨練習。この辺りの作業は連動してるハズ。職校の単位にしてもらえたら嬉しい。
そして肥料用に販売される数が多いのはダントツ一位で赤スライムの死核だ。肥料とトイレはイメージで直結するからなのか?
農業ギルドではスライムの死核とセットで番手の粗い 木賊(とくさ) も売っている。リンド=バーグさんに連れてきてもらいましたよ。色んなサイズの死核が売られている。そして目方売りだった。注文しておけば何色の死核でも購入可能なのも嬉しい。それより、赤スライムの死核は食べさせた餌の違いでレア度が変わるのか。一般的な家畜由来の餌で育てたスライムから採取した死核と使役魔獣由来の餌で育てたスライムの死核は値段が倍以上違うし!!
つまりアンディーの………(以下略)。今飼っているスライムには申し訳ないが、極限まで育ててから死核を回収しよう。
ムキュウ ムキュウ
「アンディー、どうしたの?」
ムキュウ ムキュウ
(「まぞのくさ におい するの」)
(「本当に?」)
(「におい するの」)
アンディーの方が俺より嗅覚は良さそうだもんなぁ。農業ギルドの職員さんに聞いてみよう。
「あの、すみません。こちらの農業ギルドって【 魔増(マゾ) 草(そう) 】って取り扱ってますか?」
「栽培されたものでしたら置いてますよ」
ムキュウ
あ、【 魔増(マゾ) 草(そう) 】って栽培もしてるんだ。
「採取物とどんな違いがあるんですか?」
「栽培物は安定供給が出来る代わりに若干薬効が弱い、つまり苦味が少ないです。試されますか?」
ムキュウ キュウ
(「ますたー ほちい」)
「ボクの従魔のアンディーが【 魔増(マゾ) 草(そう) 】好きなんです。ボクも試食してみたいので一束お願いします」
「承りました。従魔と一緒に召し上がるなんて珍しいですね」
「ボクはドワーフも口に出来る餌なら従魔と一緒に食べる主義なので」
「それは素晴らしい心掛けですね」
「ええ。従魔達と仲良くなれますので」
職員さんの笑顔が微妙に引き攣っている気がする。気にしちゃダメだな。【 魔増(マゾ) 草(そう) 】を受け取ると二つに分けてアンディーと味わう事にする。ちゃんと『汎用魔法』の JSS(浄化清浄殺菌) トリプルコンボを掛けてから口にした。咀嚼すると確かに苦味と青臭さが薄い。これだったらサラダに散らすと味のアクセントになるんじゃないか? 加熱しても薬効が消えないんなら天ぷらでも良さそうだ。仄かな苦味の山菜天ぷらだと思えばいいじゃない? それこそ高級食材だな。前世なら銀座に居を構える高級天ぷら屋さんで出てきそうな感じだよ。まぁ俺は銀座の天ぷら屋さんなんかには行った事は無かった訳ですがね。
ムキュウ〜ン
(「おいちいの」)
「そうだね、栽培物は確かに食べやすいね」
「そっ…そうなんですか?」
「はい。冒険者ギルドで買ったものと比べてですが、こちらの方が爽やかな苦味で青臭さも少ないですね。従魔だったら物足りなく感じるかもしれません」
「そうですか……。情報提供ありがとうございます」
ヤバい、農業ギルドの職員さんにドン引きされた!!