作品タイトル不明
第396話
初めて『 茶人之部屋(チャット・ルーム) 』を使ったこともあり、 三毛皇(みけおう) さんに疲労の色が見える。そろそろこの空間からお暇した方が良さそうです。それに、しょっちゅう誘いに来るんでしょ? 俺、知ってる。まぁ、十五年目にして初のスキル発動だよ。俺ならスキル枠と割り振ったポイント返しやがれ!!…ってなるわ。 三毛皇(みけおう) さん、オトナだね。
「本日はお招きいただきありがとうございました。また 茶室(ルーム) に寄らせて下さい」
「うむ。いささか二人だけでは寂しいものもあったがな」
「でも、元日本人の転生者って俺とミケヲさんだけですよね?」
「その気になれば上様をお呼びしてもよいのだが」
「いえ、結構です」
「結構なのね。いつ呼ぶ?」
「あ、それは詐欺師のテクニック。言い直します、要らないです」
「クソッ、騙されなかったか……」
「それ、職校の詐欺に気を付けようの授業に使いますからね」
「なに、そんな授業がある訳?」
「マジックバック詐欺、ダメ!絶対 ……な授業があるそうです。しかも寸劇仕様。学生が演じるんですよ」
「ドワーフ、ヤバいね」
「ミケヲさんに言われちゃいましたよ。認めたくない。演目もワンパターンみたいですよ」
「だったら『時そば』やんなよ、『時そば』。落語の演目」
「蕎麦の代金を支払うときに 「今、何刻だい?」 って聞いてきて支払う小銭を何枚か誤魔化す話ですよね」
「そう、それ」
「前向きに検討します」
若干のジェネレーションギャップは否めないものの、双方共に中身はオッサン。ノリと雰囲気は居酒屋で同窓会って感じだ。まぁ部屋にいるのは精神だけだから茶室に居るのに何も飲み食い出来ていない訳だけれども。
「『 茶人之部屋(チャット・ルーム) 』で語らうのは楽しいですけど、放置状態の肉体は不安ですよね」
「敵襲が無ければそこまで神経質になる必要もないがね」
「それでも怖いものは怖いですよ」
「対処法が一つ有るぞ」
「本当ですか? ミケヲさん教えて下さいよ」
「並列思考を取得するのだ。思考一号を此処に呼び、思考二号以下を肉体に残せばいい」
「そんな無茶な」
よりによって並列思考とか言ってきたよ。それ、結構チート級なスキルだぞ。チートでなければ物凄い努力の元に取得するスキルだし。
「まぁ、吾輩は『 茶人之部屋(チャット・ルーム) 』の為にかなり前に並列思考を取得済みだからな。ミーシャ君にも出来るだろう」
「出来るだろうって、随分投げ遣りな」
「出来る出来る。元日本人なら結構簡単に並列思考は生やせるハズだ」
「本当にですか? 俺の事騙してません?」
「ミーシャ君はオヤジギャグと言うものを知っているかね?」
「オヤジギャグ……って、布団が吹っ飛んだとか、ハエ 早(はえ) ぇとか、曲がったままの勾玉とか、魔神は暇人とか…………」
「そう。そのオヤジギャグ。駄洒落とも言うな。それ鍛えたら並列思考が生えるからね」
マジかー!! そりゃぁ、何となくスキルが生えてきそうな訓練っぽいけどさぁ。オヤジギャグとか語呂合わせとか。
「本当の本当?」
「本当に。どうせなら語呂合わせも試せばいい。架空の電話番号を作るとかだね。毛染め剤の会社で 三四(ミヨ) – 九六九六(クログロ) とか、温泉施設で 五五(ゴーゴー) – 六○(ロテン) 二六(ブロ) とかだね。後は回文。トマト、キツツキ、新聞紙、竹藪焼けた」
「どれもこれも凄く懐かしいですね」
「普通に思考を巡らせている裏でネタを考えていればいい」
偶に顔がニヤケて変人扱いされるがね…、って、それは嫌だな。俺、ただでなくても変な企みをしてるって言われるのに。
「それでは本日の茶会はこれにて閉幕しよう」
三毛皇(みけおう) さんがそう宣言したら 蛍の歌詞が別れを促すBGMが流れ始める。いかん、この曲を聞いたら脊髄反射で帰り支度を始めてしまうのは日本人の習性じゃないか。替え歌で 「ホテルの光、窓覗き…」 とか歌った記憶が蘇る。こんなのも並列思考の練習になるのか???
「それではミーシャ君、また会おう」
三毛皇(みけおう) さんは 「フニャニャニャ ニャ〜ァ」 ……と言う謎のセリフを残して去っていった。疲れた。精神的に疲れた。寝よう……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝、スッキリとした目覚めにはならなかった。それでもごく当たり前に早朝になれば目は覚めるので軽くストレッチをして髪と髭を整える。元気にはなったけど職校も学園も出席停止状態。まぁ、インフルエンザに罹った様なものだと思うしかないな。
ムキュウ ムキュウ と鳴きながらアンディーが背中に張り付いてくる。背中のリュックは姫騎士様に昇格した。【 運魔(ウマ) 】に強化石を着けたりするのだから、アンディーにも何か着けてあげてもいいかもしれない。とは言っても強化石の事は全く分かっていないんですけどね。調べる前にぶっ倒れちゃったし。
ムキュウ
(「ますたー ますたー」)
「アンディー、おはよう。昨日はありがとうね」
(「ちんぱいちたの」)
(「ごめんね。もう大丈夫だよ」)
ムキュウ キュウキュウ
安心したのかアンディーは俺の背中で眠り始めた。すぅすぅという寝息と緩やかな心音が背中越しに伝わって来ると、俺もなんだか眠たくなる……そのままベッドに転がり込むとアンディーを潰してしまうな。布団の海にダイビングでいいか……。
そこから数時間経ち、朝食に降りてこないのを心配して見に来てくれたフィオナお義祖母さまに、 「面白い寝相だったのですわ」 と茶化されてしまったのは言うまでもない。