作品タイトル不明
第381話
お昼ご飯の前に教員室に報告に行くことになった。ローザ=リオールさんは何日か針を打ったら暫く鍛冶の作業場には来ない模様。まぁ食堂で会えそうだし、用があったら学生用の掲示板に張り紙をしておけばそのうち目に留まる。そしてXYZと書いておいてもちょっとエッチな凄腕のスナイパーはやって来ないハズ。
魔蛸(マダコ) の吸盤は脚の太い所に付いている大きな吸盤はガラスの運搬や固定具や、毒の吸い出し等に使われているものの、先端の小さい吸盤は廃棄されているので新たな用途が生まれるかもしれないと言われた。
クラーケンの吸盤は中に入っている硬い爪を靴のスパイクに使ったりする。爪を抜いた吸盤部分は兜の内側に中敷きとして使ったりされている。 魔蛸(マダコ) の吸盤と違って吸着力は弱かった。吸い付きじゃなくて爪で食い付くせいだとか。クラーケンで怖いのは脚の締め付け力と吸盤の中の硬い爪だ。巨大な個体になると比例して吸盤中の爪も大きくなりすぎてしまい靴のスパイクには使いづらいので、盾に取り付けてスパイクシールドにしたり、農具のレーキ等に使ったり、後は巨人種に売ったりしているとか。クラーケンは魔石は勿論だけど皮や墨が貴重部位であってその他の部分、つまり筋肉部分は人気がない。理由は単純、水っぽくて塩辛いからだ。強いて言えば干物にしてから粉末状にしたものを『 烏賊様塩(イカサマーソルト) 』と言う名称で利用するくらいだ。良く言えば調味料、詰まる所は代用塩だ。
三件とも登録案件に回された。ローザ=リオールさんとの連名ね。明日も一緒に針打ちをする約束をした。お昼を済ませたらハーレー=ポーターさんの研究室(と言う名の追い出し部屋)に向かう。何でもこの部屋に入り浸っているのだとか。別名=ゴーレム機構研究室。略してG研。
コンコン 「失礼します。ミーシャ=ニイトラックバーグです」
「あ〜、いらっしゃい〜」
部屋に入るとそこには気怠そうなハーレー=ポーターさんが……じゃねぇ!! 口調はアレだが何時になくキリッとした感じで会合の準備をしていた。
「ハーレー先輩、今日は宜しくお願いします」
「いいよいいよ、畏まらなくて。で、何から語るぅ~?」
「お任せします」
「うん、ミーシャって一応わたしの親戚だったんだねぇ。まさかフィオナお祖母ちゃんの所にお世話になってたとはねぇ〜」
そこから話すのかーい!!
「はい。ボクもまさかハーレー先輩が親戚だったとは……(いや、認めたくないんだけどね、ゴニョゴニョ)」
「今頃、重鎮共が泡食ってるんじゃない〜? 飛び出すポーター氏族に飛び込み殴り込みしてくる大量発案提供者が出た〜〜!! って」
「あくまで結果論なので。ボクもまさかポーター氏族に関与するとは思ってもみませんでした」
「そこはねぇ〜、互いに利用すればいいと思うよ〜。ミーシャもポーター氏族も」
って、くだらない話をしながらもハーレー=ポーターさんはテキパキと資料を準備している。この 人(ドワーフ) 、見た目や態度に騙されちゃいけない 人(ドワーフ) だ。ビシッとしてたら大賢者と呼ばれてるわ。典型的な見た目で損するタイプだけど本人が気にしてないから良いんだろうな。
「で、どこから話すぅ? パラパラポンチ絵機構? コンパクト炉? それとも恒熱調理板?」
「任せます」
「じゃぁ、パラパラポンチ絵機構からにしよっかぁ…。アレ、そもそも手動でしょ?」
「はい。文字通り手で紙をパラパラ弾きます」
「その弾く部分をゴーレム機構に乗せるのはいいんだけどさぁ〜、どれが一番コンパクトなのか悩んでしまってねぇ…、発案者本人に基本を聞こうと思ったわけ〜」
「基本はパラパラと弾くですけど、最終的には残像でもいいと思います」
「残像ってぇ〜、達人級の剣士が高速で動くと複数居る様に見える現象の〜?」
「はい。ただ、記録した紙をどうやってそこまで高速で動かすかはボクには全く分かりません」
「あはははは……楽しいなぁ。高速化だけじゃなくて残像利用ねえ〜。ふふ……ヤバっ……あひっ」
ヤバいのはあんただよ!! いきなりマッドサイエンティストモードに入るのは止めてもらいたい。
「ぐふふ……、ひぃひぃふぅ〜。先ずは基本に戻ろうじゃないか。パラパラ機構、便宜上そう呼ぶよぉ〜。動かす絵の枚数はどれくらい必要かなぁ?」
「えっと…、多分ですけど一秒間に二十四枚くらい使えば滑らかに見えると思います。ボクが本の隅に落書きした絵を指で弾いた時は八枚から十二枚くらいだったので、最低値はその辺りだと思います」
前世だと三十フレームとか六十フレームとかの表現を聞いた記憶があるけどな。しっかり説明出来ないから言わないけど。
「そうかぁ、簡単な物なら絵師に描かせればいいけどねぇ、作業指南書とかはギリいけるかぁ〜?」
「絵姿を写し取る魔道具は無いんですよね?」
「静止画を写し撮る魔道具はあるよぉ〜。お高いけどねぇ」
「絵師のスキルで速記ならぬ高速描画みたいなものは?」
「あるよぉ〜。肖像画を描く時に秒速で姿を描くスキルがあったハズだねぇ」
「だったら動作モデルにスロウの呪文を掛けて、その動きを絵師に描いてもらうとかはどうですか? 基本の動きが分かればアレンジは利くと思います。魔獣の動きなんかは冒険者から聞き取りして描くことになると思いますけど」
「最初はそこから始めよっかぁ……」
「パラパラさせなくても高速スライドでも絵は動いて見えると思います」
「紙を動かすのはゴーレムだからねぇ〜」
「映像記録の魔道具は無いんですか? それにパラパラ機構で動かした映像を記憶させるとか」
「有るけど高〜い!! それは目の前で起きている事を記録は出来るけどねぇ、紙上の動きを記録する様には出来てないねぇ。っていうかぁ〜、パラパラポンチ絵機構が規格外なんだよぉ〜。そっかぁ……そこをリンクさせれば記録させられなくもないのか………きひっ」
こうして開発談義をするには楽しいけれど、やっぱり(相当に)ヤバい先輩との打ち合わせ会議が始まってしまったのだった。