作品タイトル不明
第323話
十一の月・一の週・七の日。今日はパイク=ラックさんの作業場で【 魔多々媚(マタタビ) 】の新年飾り作りの指導を受ける。気合が入りすぎたのか早く目が覚めてしまった。そんな日は念入りに髪を梳いてツインテールを整えたり髭を編み込んだりするのが定番。アンディーはまだ寝ているな。
アンディーの餌を机の上に置いて朝食に向かう。そして職校の講義や実習の確認をしておく。案の定【 魔多々媚(マタタビ) 】の新年飾りの受注は終了していた。工賃はエール代にもならないが気楽に請けれる作業は生徒に人気がある。工賃も無いけど責任も無い、守るのは納期とおおよその規格サイズのみ、あわよくばスキルが生える…かもしれない。それは人気の作業だよね。
刺し子の針を打つ講義は来週。何日かあるのでどれかに出ればよし。縫い針、釣り針、かぎ針、 網針(あばり) などを作りたい生徒がやってくる。縫い針も縫い物用と刺し子用は太さが違うので、針を一回も打ったことのない場合は縫い針は作らせてもらえない。まぁ、初日に刺し子の針を打って翌日に縫い針を打てばいいだけではあるが。刺し子の針だと魔獣の骨を加工した物も存在するので色々試してみないと。骨を削り出すならある意味、俺の得意分野だしね。釣り針もいいよね。巨大マグロを釣る!!とか憧れるよねぇ……まぁ、やらないけど。
ハーレー=ポーターさんとの話し合いは週明けになった。俺の都合に合わせてくれるんだって。ハーレー=ポーターさんが入り浸っている通称=ゴーレム棟と呼ばれている建物の会議室に行けばいいのね。個人的にはパラパラ漫画を動かすゴーレムよりも携帯コンロの方を優先開発して欲しい。これまでに耳に入ってきた情報から察するとハーレー=ポーターさんはマジもんの天才。クセは強そうだけど、俺の異世界由来の知識を具現化してくれるなら深入りしない程度に近付いてみてもいいのかもしれないな。彼女には申し訳ないが 、“ あのハーレー=ポーターが作りました ” って言うのは異世界アイディアの隠れ蓑には丁度いい。
「おはようございます。今日は指導のほど宜しくお願いいたします」
「うむ。存分に学ぶのじゃ」
という決まり事の挨拶を交わし、そこから先の会話は通常運転に戻る。
「これは新年飾りじゃから、何年も部屋に飾るものではないのでのう、少しぐらい粗く組んでも問題はないのじゃ。尤も、 三毛皇(みけおう) 閣下に献上する品はそうもいかんがのう」
「分かりました。大きさも厳密な規格はないんですよね?」
「そうじゃよ。余りにも小さい物は組みにくいがのう。花冠くらいのサイズが丁度よいじゃろう。大小さまざまな方が使う側もどう使うか考えるじゃろうしのう」
「大きい物は玄関に飾り、小さい物は寝室に飾ったりプレゼントに使ったり…という感じですね」
「そうじゃよ」
サイズ問わずは販売戦略としては正しいよなぁ。好きな場所に飾ったり贈答用にしてみたり…それこそ極小サイズならアクセサリーみたいに身に着けたりも出来る。そうなると義理チョコみたいに挨拶代わりに渡す文化も生まれそうだぞ。飾る期間が終わっても中身は【 魔多々媚(マタタビ) 】だからそのまま飾っていてもいいし、バラバラにして楽しんでもいいし。【 魔多々媚(マタタビ) 】製の 魚籠(ビク) に魚を入れて贈るイベントはガチ系だから義理 魚籠(ビク) は広まらなさそうだけど、新年飾りなら義理渡しはイケるぞ!!
「ん!? どうかしたかの?」
「あ、いえ、新年飾りを挨拶代わりに渡しあったり配ったりもするんだろうなぁ…と考えてました」
「するじゃろうな」
「親しい間柄に渡すのは当然として、仕事上でお付き合いのある相手に渡すとか、意識している相手に渡すとかもありますよね」
「そうじゃのう」
「義理渡しというか、取り敢えず渡しておくか…な物も」
「そこで作りの粗い物や小さい物が生きてくるのじゃよ。作る側は練習になるしのう。猫の人は【 魔多々媚(マタタビ) 】じゃから余程の粗悪品でなければ許してくれるじゃろうし」
「腕輪サイズでそこそこちゃんとした作りの物を恋人同士で交換して着けるというのも良さそうですよね」
「ミーシャ、そういう事はカーン=エーツに言うものじゃな」
考えすぎて提案が早まったか。
「つい、考えが先走りました」
「いや、販売戦略と製品化は切っても切れない関係じゃしな。作ったはいいが売り先が無いのは困るしのう。不良在庫を抱えていては儲けは出ぬし新規に素材も買えぬのじゃ」
「そうですね」
「先ずは今年は新年飾りを広めるのが目的じゃ。その義理渡しや交換なんかは来年の販売戦略にするのがよいのじゃよ。しかしミーシャはきちんとしておる。作るだけでなく、ちゃんと売って次に繋げる事を考えておるからのう。作る事だけが至上主義の職人とは大違いじゃ」
「作りっぱなしの職人さんもいるんですね」
「おるおる」
「作るだけって楽しいですもんね」
「じゃがな、機能しない作品は作品ではないのじゃよ。それは只の独り善がりの作品じゃ。鑑賞するには良いかもしれぬがのう…」
結構耳の痛い話が出てきた。 “ 気を付けよう、中二病職人 ” って事ね。俺の考えたカッコイイ◯◯は作って満足で終わるもんなぁ…。そして素材に戻せなかったりで飾るか廃棄かの二択になるんだよね。俺、知ってる。
そう言う会話をしながら【 魔多々媚(マタタビ) 】蔓の選別をする。パイク=ラックさんが蔓を水に浸していてくれているので、すぐ使える柔らかさになっている。簡単なのは細めの長い蔓を何重かの輪にし、余剰部分で絡めていってバラバラにならない様に固定するやり方だ。絡めている途中て蔓が足りなくなったら蔓を追加して更に絡めていけばいい。一周出来たら解けない様に止める。次に簡単なのは必要円周より長めに切った蔓を何本か束ねて輪にし、切り端を軽く絡めてバラけない様にしたところを細めの長い蔓で絡めていくやり方。これも一番簡単なやり方同様にグルっと一周抑えてやればOKだ。
他には三つ編みしたり本数を多くして編んでみたり…。まぁ、面白がって色々試して構わないって言われたよ。失敗して細切れになっても細断してクッションの中身に混ぜたり出来るからって言われたよ。これは【 魔多々媚(マタタビ) 】だから猫の人用のグッズ素材にどういう形でも使い回すことが出来るからなんだけどね。ありがたや。