作品タイトル不明
第319話
『 脈(みゃく) 見役(みやく) 』のメンバー達が 母体樹(ぼたいじゅ) と会話?しながら本格的な治療が始まった。
「『穿孔』で最小限の穴を開けた。【 内打融薬(うちだゆうやく) 】投薬ーー!!」
「穴に『治癒』を掛けてから枝全体に『萌芽』を掛けてくれ」
「この辺りに “ 脈 ” の滞りがある。内部の水を引き上げて!!」
「頑張ってね。ちゃんと治るからね」
ザワ ザワザワ ザワワ…… 母体樹(ぼたいじゅ) が微かに枝を震わせて応えてくる。
ムキュ〜ウ ムキュ〜ウ アンディーも応援してくれている模様。俺には見守る事しか出来ないしな。
「邪魔そうな枝は少し払っちゃっていいかな? 嫌なら枝を動かさないでね」
ザワザワ 微かに枝が揺れる。そして密生している細い枝が心做しか隙間を開けた様に見えた。切りやすい様に協力してくれてる!?
「ありがとう。俺達もヒゲモジャになったら嫌なんだよね。 母体樹(ぼたいじゅ) さんもそうなの?」
「ニック、 “ 脈 ” を確認しながら枝を払って!!」
「この枝、切るのかい? 切らないのかい? 切ーーる!!」
「今、見学しているドワーフがね、今回の薬を準備してくれたんだよ。治療の技術が無いから見てるだけだけど、今回の治療の功労者なんだ」
ザワザワ ザワザワ 枝が揺れる。何の樹木か分からないけど……って、こういう時に『無礼コール』が役立つのか。取得を目指してスキルを意識しながら空打ちしよう。
「【石割り 啄木啄木(ゲラゲラ) 】の嘴跡を綺麗にして、そこに琥珀の 仮漆(ワニス) を塗布!!」
「枝を払った後の切り口にも塗布ね!!」
「整いすぎて帰ってきた【 樹精(ドライアド) 】もビックリしちゃうかもしれないね」
そんなこんなで 母体樹(ぼたいじゅ) の治療は終了した。検脈師の二人が樹の内部の “ 脈 ” を確認したら詰まりも石化も消えたそうなので、この 母体樹(ぼたいじゅ) の【 木々奇鱗(きぎきりん) 】は治ったんだろう。
「ミーシャ=ニイトラックバーグ、ありがとう。きっと 母体樹(ぼたいじゅ) も喜んでいるよ」
「ここに古代エルフが同席していないのが悔やまれるな」
いや、オロール先生がいたとしても 母体樹(ぼたいじゅ) と会話した時に口から出て来る言葉はあのクセの強い古代エルフ語なので、どう考えても俺しか聞き取れないんだってば。
「ボクの提供した素材、役に立ったんですよね?」
「役に立つもなにも、あの素材がなければここまで丁寧な治療は出来なかったよ」
「薬が 母体樹(ぼたいじゅ) に馴染めば完治だよ。今でもほぼ完治扱いなくらい効いてるし」
「私たちは “ 脈 ” の状態を見て疾患状態が確認できるからね。まぁ見えるからと言って治療できるかはまた別なんだけど」
「そこは回復術師と二人三脚だからね」
「 “ 脈 ” ってどこまで見えるものなんですか?」
「それは中々難しい質問でね…鍛え方の方向で結構変わってくるんだよ。『熱視線』もそうなんだけど…」
「地面の中を見ないで魔法の術式を見る方に進む人もいるんだよ」
「魔法の術式って、魔法陣とかですか?」
「そうそう。魔法陣の中を流れる魔力を見る事に特化したスキルを専門にする人もいるよ。そういう人は大半が魔道具の魔導回路を流れる魔力を確認する仕事に就いてるね」
「魔力の “ 脈 ” を乱したり出来るんですか?」
「机上の理論では可能です。ただ、魔法は高速展開な訳だし、魔法陣のどの箇所を阻害したら発動を阻止したり過剰反応させたりする…という事は、現実問題では割り込みする事は困難、ほぼ無理なのです」
「試した 人(ドワーフ) がいなかったっけ? 確かいたよね……ハリーだったかハッピーだったか…」
「聞いたことがある。ヒッピー=ポーカーだったっけ?」
「ハッピー=ポインターでなかった?」
「ハリー=ボーン?」
ちょっと待って限りなくハーレー=ポーターさんのパチモンっぽい名前なんだけど。他人ならいいけど、あの 人(ドワーフ) なら変な実験ってやりかねないよね。
「あの、ゴーレム研究の第一人者のハーレー=ポーターさんと名前の響きが似てる気がするんですけど、彼女ではないんですよね?」
ドキドキしながらそう言ってみた。思うところは、出来れば他人であってくれ!!
「それだ!!」
「変人だ」
「検脈界の異端児!!」
あ〜あ〜あ〜あ〜、こっちの界隈でも変わり種扱いなのですか、そうですか。
「良く知ってたね。…ってミーシャ=ニイトラックバーグは職校生だからハーレー=ポーターの事を知ってて当然か」
「ハーレー=ポーターは魔法陣や魔導回路を検脈の力で制御しようとしたんだよね」
「結論としては結果は二百年後…って感じだったんだ」
「それは失敗なんですか? 成功なんですか?」
「一応は失敗だよね。二百年間研究したら成功する可能性はあったそうだけど」
「何となくですけど、存命中に完成させそうですよね」
「完成したらいいですよね。完成形は見てみたいけど自分たちには無理でしょう」
「ニックでも無理か…」
「エルフみたいに長生きは無理です」
ムキュゥ〜ン
「アンディー、何?」
キュウ キュウ
「チョッ、チョットチョット!! 母体樹(ぼたいじゅ) が!!」
その声に慌てて 母体樹(ぼたいじゅ) の方に目を遣ると、 母体樹(ぼたいじゅ) 全体が白く輝き仄かに甘い香りを漂わせていた。
「この香り、 杢薫(もっくん) だ!!」
「治ったんだ!!」
杢薫(もっくん) と言うのは、琥珀を溶かして作った 仮漆(ワニス) 薬が樹木の病を完治させた時に発せられる甘い芳香の事なのだという。琥珀を香として焚いた時の匂いにも似た香りで、植物の生命力の香りそのものなのだと。
「放蕩【 樹精(ドライアド) 】が早く戻ってきたらいいね」
「お祝いしようか。飲ーむ?」
「ニック、病み上がりに飲ませるんじゃない!!」
軽いお祭り騒ぎな『 脈(みゃく) 見役(みやく) 』のメンバー達。勿論、俺も嬉しいです。余り物というかすぐには使わない素材が 母体樹(ぼたいじゅ) の病気の回復の役に立つだなんてこれっぽっちも思ってなかったし。そしてアンディーも嬉しそうだ。樹上棲カーバンクルだからかな?
{ ――人よ……これを…… ―― }
サワサワと枝が動き、 母体樹(ぼたいじゅ) の根元に乳白色の何かが落ちてきた。
「今、声がしたよね?」
「人よ…って言ってたよね」
「厳密にはここに居るのはヒト族じゃなくて、ドワーフとエルフだけなんだけどね…」
「マック、分かっていてもそれは言ったらダメなんだよ…」
マック=アーサーさんが拾い上げた そ(・) れ(・) は、乳白色をしたタコさんウィンナーそっくりな物体だった。