作品タイトル不明
第316話
煙突から立ち昇る白色の煙が微妙に青みがかってきたので、そろそろ焚口を閉じるタイミングだとのこと。
「この状態の炭焼き窯をとりあえず鑑定しておくんだ。まぁ中がどうなっているとかは分からないんだけどな、この状態の温度がどう表示で出たかは個々で記憶しておくように。高温状態に関しての経験になるから、今後の様々な作業での指標の一つになるはずだ」
皆、無口になる。どうやら普段だと見たことのない謎表示になってるんだな。俺だって『対物簡易鑑定』がちょっと変な表示だもん。まぁ鑑定様はそこそこ表示してくれているので…というか、 “ 約400℃ ” とかは俺にだけそう見えてるんだろうけど。なので、生徒や講師との会話には表示バグっぽい『対物簡易鑑定』の表示を話すことにします。
「いいか、煙突の煙が透明になったら焚口を閉じる。焚口下部の通気口、そこはそのままだ。焚口を閉じたら煙突も塞ぐ。後は七日から十日くらい放置して自然に消火するのを待つ。流石に火の番は不要だから寝に帰っていいけど、トラブル防止のために誰かが近場で待機してるのが好ましいな」
「カリキュラム的には残るべきなんですか?」
「そこは残れる奴は残っていいぞ…としか言いようがない。炭焼きを極めたい生徒は別だが、他の授業や作業もあるだろうからここから先は窯に付き合わなくても特に評価が落ちたりはしない。窯を開ける時は来てもらいたいがね。残る講師も生徒もいる。冒険者パーティーも交代交代で窯の付近を見守ってくれる。窯を放置してまだ熱い窯から火事を出す様な事は無いのでその点は心配しなくていいぞ」
「すみません、帰らせて下さい」
「無理して残るより、一回帰って飯を食って風呂に入って寝て、頭の中をスッキリさせてから見守り隊に戻ってくる方が事故がないからな。しっかり休んでこい。明日は授業も出なくていいぞ。どうせ目ぼしい講義は組まれてないだろうしな」
「ありがとうございます」
「先生、次回は生徒だけで炭焼きをする実習ですけど、今焼いている窯から炭を取り出してから開始するんですか? それとも放冷中に次に焼く材の準備をした方がいいんですか?」
「本来は出来栄えを確認してから…が筋なんだが、材を乾かす段取りがあるから九日あたりから木を切りに行っても構わない。まぁ乾燥が足りなければ講師がスキルで乾かすからな。ちなみに別の場所にある炭焼き窯では炭焼き職人を目指す生徒達がスキルに頼り過ぎる事なく炭焼きをしている」
「わかりました。全員で相談します」
「煙突から出る煙が透明になってきたぞ。さぁ、蓋だ!! 焚口を閉じよう。慌てなくていい。火傷に注意しろ」
全員で石を置き泥で隙間を埋めて焚口を閉じる。土魔法万歳。
「焚口封鎖!!」
「煙突も閉じました」
「よーし、お疲れさん。寮や自宅に帰る前に風呂に入っていかないと炭焼き臭いからな。『消臭』や『脱臭』が使えるやつはスキルを使ってから、使えないやつはよ〜く体を洗ってから風呂に入れよ。分かってても嫌がられる臭いだからな」
悪(・) い(・) 虫(・) どころか愛妻も愛娘も寄ってこないってやつか。
「ヤッター!! 『熱視線』が出た!!」
「おっ、やったな!!」
二年目か三年目の生徒の一人から歓喜の声が上がった。
「先生、『熱視線』ってどんなスキルですか?」
「『熱視線』は『汎用魔法』だ。熱感知のスキルで広義では鑑定に含まれる。対象物の温度を色で表すことが出来るスキルだ。鍛冶とかガラス製造をやるなら持っていて損は無いスキルだな。勿論スキルが無くても作業は出来るぞ」
どうやらサーモグラフィー的なスキルの模様。もしかしたら蛇のピット器官の様に生物の温度を感知出来るんじゃないか? 暗殺者とかの必須スキルっぽいぞ。
「先生、その『熱視線』って例えば冒険者が索敵に使うとかしてるんですか?」
「あー、止めとけとしか言いようがない」
「私としてはその使い方は勧めないかな」
『 脈(みゃく) 見役(みやく) 』のリーダーのマック=アースさんが割って入ってきた。現場というか当事者の意見は参考になる。
「『熱視線』は検脈師には必須スキルなんだけど、それを戦闘で使いこなせる様になるのにはかなりの時間が必要になるよ」
「自分の場合は二十年くらいかかりましたよ」
エルフの二十年って!!
「エルフだから二十年って事ではないですよね?」
「ニックはエルフだから二十年くらいは気にしていない…が正解かな?」
「当たり。です!!」
あー、ヒト族の冒険者だったら使い熟せる頃には引退の二文字が見えてくる年数が必要なスキルなのか。
「初期状態の『熱視線』を持ってる人はスキルを使えばわかると思うけど、目の前が温度差ごとに色分けされた視界になってるよね。ここから次の段階に進むのに十年はかかるんだ。それが一番のネックかな」
つまり前世のTVで盛夏の駅前、もしくは動物番組で深夜の草原をサーモグラフィーで漫然と撮影したものが画面に出ています状態って事か。
「今、私たちがこうやって一箇所に集まっているけど、ここから更に密集したとしても普通に眼で見たら個々の姿も人数も把握できるでしょ? でも初期状態の『熱視線』だと赤い塊でしか見えないんだよね。バラけたら赤い点々に見えるけど。スキルを鍛えていったら最終的には普通の視野に熱感知が乗るんだけどね…」
画像処理されていないサーモグラフィー画像を漫然と見るのは辛いな。しかも静止画じゃないから対象は当然動く訳で。……う〜ん画面酔いしそう。
「暗殺者とか熟達の斥候だと使い熟してるんですよね?」
「多分ね。でも建物の中にいる熱源体までハッキリと見える訳でもないし…、あ、『透過視』の能力があれば見えるね。暗闇の中で活躍するには『透過視』無しでも使えるから鉱山やダンジョンなんかでは便利なスキルなんだけど。私たち検脈師は地中奥深くの脈の温度の変化を知るためにこのスキルを利用している。あと、使う職業は…回復術師のエキスパートや助産師だね。体内の微妙な温度差を見て病巣や胎児の確認をしてるハズだよ」
「ハズ…っていうのは?」
「そこはスキル展開が違うから鍛えていくルートが違うんだよ」
スキル、奥が深い。