作品タイトル不明
第315話
【 樹精(ドライアド) 】の 母体樹(ぼたいじゅ) の体内には動物やヒト型生物の血管に相当する管が張り巡らされていて、その管の中を水や栄養素や魔力なんかが通っているんだけど、その流量バランスが狂うと 母体樹(ぼたいじゅ) が病気にかかる。
そして【 樹精(ドライアド) 】にとって 母体樹(ぼたいじゅ) はその字の示す通り依り代的な存在。別に【 樹精(ドライアド) 】が 母体樹(ぼたいじゅ) の近くから離れられない等の制約はないそうで、その気になったら『ブルー=フォレスト』生まれの【 樹精(ドライアド) 】が『イースト=キャピタル』で生活してても問題ないのだとか。【 樹精(ドライアド) 】語がヒト族に通じるかどうかはまた別だけど。でも、近くにいようが遠くにいようがその 母体樹(ぼたいじゅ) が切り倒されたりしたら【 樹精(ドライアド) 】は死んでしまう。なので 母体樹(ぼたいじゅ) を護る為に【 樹精(ドライアド) 】が近くに棲息することが多いので 母体樹(ぼたいじゅ) から離れられないという認識にされている模様。勿論 母体樹(ぼたいじゅ) が病気になっても影響は受けるので、今頃その【 木々奇鱗(きぎきりん) 】に罹患した 母体樹(ぼたいじゅ) が依り代の【 樹精(ドライアド) 】は困っているに違いない。
【 木々奇鱗(きぎきりん) 】は樹の樹皮が本来のそれとは違い、松かさに覆われた様になってしまう病気で石化病の一種だ。松かさ状の病巣が奇妙な鱗の様に見えるのでそう呼ばれている。動物やヒト型生物がかかると【 石鱗(せきりん) 症】とか【 砂利石(じゃりいし) 病】と呼ばれる病気になる。放置すると石化が内臓にまで到達して死ぬ病だ。
「その 母体樹(ぼたいじゅ) は助かったんですか」
「石化を解除して、回復魔法を掛けてきたからね。詳しい原因はその 母体樹(ぼたいじゅ) に憑いている【 樹精(ドライアド) 】に聞かないと分からないな」
「同じ 母体樹(ぼたいじゅ) が再度【 木々奇鱗(きぎきりん) 】にかかったりするものなんですか?」
「かかりやすくはなるみたいだよ。予防薬を与えるとかで防げるみたいだけど」
「あの…ボク、マック=アースさんにちょっとお話が」
俺は『 脈(みゃく) 見役(みやく) 』のリーダーのマック=アースさんにそう伝えると少し離れた方に来てもらう。
「あの、コカコッコの蹴爪の削りカスって予防薬になりますか?」
「なる!! って職校生ってそんな物も持ってるの!?」
「いえ、職校生が…ではなくボクの私物なんですけど」
「あるのなら譲ってほしい。ニックの見立てだと、【石割り 啄木啄木(ゲラゲラ) 】が悪さをしてそこから【 木々奇鱗(きぎきりん) 】に罹患したんじゃないか…だと。なので、コカトリスやコカコッコ由来の石化解除薬や石化予防薬は有効というか特効薬だ」
「それなら少しですけどお譲りしますね」
「蹴爪の削りカスの代金の支払いの件だけど」
「いいですよ。サービスします」
「いや、それはサービスとかでは済まされない物だよ」
ヤバい、俺、素材の価値とか適正価格が分かっていない。コカコッコの蹴爪だって石化繋がりの思い付きで聞いただけだったし。
「だったら代金分として、その 母体樹(ぼたいじゅ) にコカコッコの蹴爪の削りカスを与えに行くところに同行させて貰えませんか?」
「それは構わないけど。それだけでいいの?」
「実は、ボクの庇護養親が【 樹精(ドライアド) 】の加護持ちでして、それもあって 他人(ひと) よりも気に掛かってしまっただけなんです」
誤魔化せるか? 誤魔化せ、俺!!
「そうだったんだね。処置に連れて行くのはいいけど授業の方はどうなってるのかな? 君は一般参加の生徒でしょ?」
「はい。今日は焚口に蓋をするのを見る為に戻ってきました」
「今日は蓋をしたら夕方になっちゃうか。明日以降の予定は?」
「明日は特に予定は入れていません」
「じゃあ、明日にしよう。それで、その削りカスは今どこに置いてあるの?」
「寮の部屋です」
嘘です。削りカスは木賊の肥料にしちゃったので、部屋に戻ってから断面を少しだけ研磨して削りカスを作ります。
「じゃあ、空のポーション瓶を渡すからその中に削りカスを入れてきて欲しい」
「分かりました。他に使えそうな素材とかありますか?」
「君が何を持っているか分からないからなぁ…。 母体樹(ぼたいじゅ) について勉強もしてないから予想が付いていない訳でしょ?」
「はい。恥ずかしながらその通りです。植物に関係ありそうな物が使えるんじゃないかと予想している程度です」
「実際、それは正解だよ。肥料とか灰とか」
俺の手持ちで対象になりそうなのは【スライムの死核】と…植物由来ってことなら琥珀はどうなんだ?
「【スライムの死核】と、あと琥珀を持ってます」
「琥珀か。今持ってる?」
「あ、あります」
「見たい」
餌入れ用マジックバッグから取り出すフリをしながら『 次元収納(インベントリ) 』から琥珀を取り出す。黒っぽかったから売ることもなく放置していた琥珀です。
「これ、何処で買ったか覚えてる?」
「学園の購買部でワゴンセールされていました」
「何やってるんだよ学園は…。これは使える。預かっていい?」
「どうぞ。格安だったので買ったのはいいんですけど、研磨対象としては面白みが無くて放置していた物なので」
「琥珀は結構使い道があってね、装飾品や装備品になるのは勿論だけど、戦闘用の使役獣を封入する事も出来るし、焚き上げて使う事も出来る。低品質でも量があれば燃料として使える。そして【 樹精(ドライアド) 】関係には薬として使える」
「知りませんでした」
「樹の成分が詰まっている化石みたいな宝石だから、特殊な溶剤に入れれば植物限定の石化解除薬に早変わり…って、これはニックの受け売りなんだけどね」
マック=アーサーさんが俺から琥珀を受け取ると魔導ガラス製の大きなポーション瓶に入れ、そこに謎の液体を注ぐと蓋をした。
「そろそろ焚口を塞ぐぞーーー!!」
そして本来の目的、炭焼きの授業が再開された。