作品タイトル不明
第307話
巣箱(ケージ) はアケビ蔓と板材を組み合わせた物だった。屋根の掛かった木の 洞(うろ) っぽく見えなくもない。壁に掛けて使う用にデザインしてあったが、別に用意した補助金具を使えばテーブルや棚の天板に置くことも出来る様になっていた。すっごくオシャレ。これ、 巣箱(ケージ) だけでなくランプシェードとしても使えそうです。パイク=ラックさん、どうせなら同じ様なデザインの物を【 魔多々媚(マタタビ) 】蔓で作って、寝室用のランプシェードとして猫の人用に売り出せばいいのにね。
キュウ キュウキュウ
アンディーが 巣箱(ケージ) 目掛けて一目散に潜り込んだ。パイク=ラックさんはマジックバッグを貸してくれて、中に壁に立て掛ける用の板材にコルクバークを貼り付けた物を入れてくれていた。それも固定するのに釘を使わない、突っ張り仕様のやつをだ。L字金具にネジ状の突っ張り金具が付いていて、前世のホームセンター等で売っている賃貸物件でも簡単に原状回復出来るDIYの増設壁みたいな感じだ。ゴツゴツしたコルクバークがワイルド感ありあり。コルクバークというのはコルクの樹の表皮を剥いで乾燥させた物だ。園芸で着生植物を育てる時や爬虫類飼育の時のシェルターなんかに使うので、その手の界隈の人達にはお馴染みの素材でもある。そのコルクバークがDIYの増設壁に貼り付けてある。アンディーがそのコルクバークの壁をスルスルと登っていって 巣箱(ケージ) に収まった。そして巣穴から顔を出すとムキュウと一鳴きして滑空………ベチッと床に着地 (落下かもしれない…) した。おっと、野生のムササビが現れた!! って感じです。
次に入り口近くにアンディー用のトイレを設置。少し大きめのスライム甕って感じ。勿論、蓋付きだ。使うときは蓋を開けて用足ししてもらう。排泄後は蓋をしておく。説明したら使い方を理解してくれたみたいなので一安心。穴の上で四肢を突っぱね、長太い尻尾をピンと上げて用足ししてくれていた。終わったらちゃんと蓋もしてくれるしな。これで安心してアンディーと一緒に過ごせる。授業とかに連れていけない時もこの部屋で待っていてもらえる。そしてこのアンディーのトイレの赤スライム由来の【スライムの死核】を肥料にして 木賊(とくさ) を育てたらどうなるんだろう? 特殊な石を生み出すことの出来る幻獣の排泄物を処理させたスライムから取り出した【スライムの死核】だよ。もしかしたらスーパー凄い 木賊(とくさ) が出来るかもしれない。
(「ますたー すてきな べっど ありがとう」)
(「パイク=ラックさんが凄いんだよ」)
(「あたちの いた もりのおうち みたい」)
鳥の巣箱みたいなのを選ばなくて正解だったかも。
「ぼく、お風呂に行ってきて晩ご飯済ませてくるから。机の上にアンディーのご飯を置いておくからね」
ムキュウ
キャベツを一・二枚剥がし、オレンジも置いておく。それとブドウも数粒。今日はあまり汗もかいていないから学園の樽風呂でサッと済ませればいい。そして夕飯。あまり期待していなかった時に限って事件は起きた。
「はい。今日は【アルケミートバイソン】のポトフだよ」
「あの、【アルケミートバイソン】って何ですか?」
「おや、初めてかい? 【アルケミートバイソン】は錬金肉だよ。錬金術の力で【プラントオーク】や鶏肉を牛肉に錬成するんだよ」
ちょっと待って、異世界の牛肉事情が理解できない!! 豚肉を牛肉に等価交換で変化させるって事なの!? 何その、お肉の錬金術師。
「【アルケミート】は狩りの得意でない亜人種が都市部でも効率よくお肉を食べられる様に開発された錬金術の凄い技術なんだよ。詳しい話は魔術の授業か錬金術の授業で聞いておくれ」
「説明、ありがとうございます。職校の厨房では【アルケミート】の話は聞いたことがなかったのでビックリしました」
「まぁ職校なら普通のバイソンを使っていると思うよ」
「えっ、そうなんですか?」
「職校だったらバイソンを育てて解体して、骨から内臓から様々な使い方を学ぶじゃないか。【アルケミート】で生み出された肉に骨は無いからね」
分かった様な、よく分からない様な…。
そして、渡された【アルケミートバイソン】のポトフは、薄切り肉と櫛切りタマネギとゴロゴロ乱切りジャガイモが具材で汁は少な目。味付けは牛肉の出汁とタマネギの甘みがよく出た塩味で………、ってコレ、塩味の肉じゃがなんだけど!!
くっ…俺、何でこの数ヶ月気付かなかったんだ。ジャガイモとタマネギと肉があったら肉じゃがが作れるって事を!! しかも醤油も見つかってるし、甘みとコク出しは水飴を使えばいいじゃない。彼女に作ってもらいたい手料理でいつの時代でも常に上位に鎮座している肉じゃがの存在を今の今まで忘れてましたわ。まぁ、原因は俺の母親があまり肉じゃがが好きではなかった為、そこまで頻繁に食卓に上らなかった所為もあるんだけどね。
後は、肉じゃがより鰻の蒲焼きに心奪われていたから…だとも言う。
あっ、そうなったら【アルケミートバイソン】のすき焼きを食べてみたい。しゃぶしゃぶでもいい。牧場で肉牛を飼育して潰して…だと牛肉価格もお高くなって、なかなか口に入らなそうだけど、お肉の錬金術で豚肉→牛肉ならまだ何か口に入りそうな気がするんだけど。
いくら塩味だからとは言え、一度 “ これは肉じゃが!! ” と認識してしまった物と硬い黒パンは合わない。 重曹(ナトロン) で膨らませたパンも合わない。ウドンは無理でもせめてパスタだよねぇ。
どうやらオススメの食べ方は、ジャガイモを潰して薄切り肉で包み、薄くスライスした黒パンに挟んで食べる…って事らしい。もしくはペースト状にしたジャガイモをパンに塗って食べる。俺は白ご飯と一緒に食べたい。やはりカーン=エーツさんに【濁穀】の購入依頼をするのが一番の近道なんだよなぁ…。