作品タイトル不明
第288.5話 (閑話)
♪ 亡国の夢も 神世の泡沫も 人の世の夢も 今は彼方に…
掴め!! 砕け!! 駆け抜けろ!!(おー!!)
ゆくぞ、我ら 啼哭(ていこく) 過激団〜
ゆくぞ、我ら 啼哭(ていこく) 過激団〜 ♪
『 啼哭(ていこく) 過激団のテーマ』のサビが流れ、緞帳が閉じられる。割れんばかりの拍手が会場を支配し、再び開いた緞帳の向こうから花束を手にしたメンバーが姿を現す。
「ユミルーー!!」
「きゃー、カーク!!」
「アーク様ぁぁ!!」
「ご隠居ーーっっ!!」
「シュケーさぁぁ〜〜ん!!」
「みんな、ありがとーー!!」
『 陽炎(かげろう) ユミル』が頭からバニーカチューシャを外し、観客席に向かって投げる。『 聖騎士(ホーリーナイト) シュケー』、『 守護神(ガーディアン) カーク』、『 代官(ガバナー) アーク』『 ご隠居(ハーミット) ミック=ニー』等々、出演者達がステージの上から次々とバニーカチューシャを観客席に向かって投げてゆく。軽快なリズムでドラムロールが鳴り、ステージ袖側の空中ブランコに腰掛けた『 道化師(クラウン) エイト』にスポットライトが当たる。
ドラムロールが止まった瞬間、空中ブランコが動き出すとバランスを崩した『 道化師(クラウン) エイト』が右足一本をブランコに引っ掛けたままステージと観客席の上空をブランブランと往復する。
「うひゃ~、ご隠居〜〜、助けてくださいよぉぉ!!」
右手に持ったバニーカチューシャを振り回しながら頼りない声を上げながら観客席の上を行ったり来たりする『 道化師(クラウン) エイト』。再びドラムロールが鳴り響き、観客席後方にスポットライトが当たる。そこにいるのは『 投擲槍(ジャベリン) のヤッシー』。
パン、パン、パン、パン
「ヤッシー!!」
「ヤッシー!!」
「ヤッシー!!」
パン、パン、パン、パン
会場から拍手と共に沸き上がるヤッシーコール。 「いくぜ!!」 という掛け声と共に空中ブランコが動き出す。ヤッシーは膝裏でブランコを挟んだ逆さまの状態でエイトに近づいてゆく。
ドゥルルルル…… ドラムロールが鳴り響く。空中ブランコが最接近した瞬間、ドゥオーーンと銅鑼の音が鳴り響く。その瞬間、ヤッシーがエイトをキャッチ!! 無事に観客席後方の空中ブランコの待機位置に舞い戻る。それと共に天井から観客席に花びらが舞い落ちる。エイトの持っていたバニーカチューシャも降ってくる。それもお客さんが怪我しないようにご丁寧にパラシュートの付いたバニーカチューシャが。そして会場は拍手と指笛と歓声とに包まれるのだ。
『 啼哭(ていこく) 過激団』名物、エイトの う(・) っ(・) か(・) り(・) カーテンコールとヤッシー・レスキューだ。
『 啼哭(ていこく) 過激団』はS級冒険者クランにして劇団である。
普段は冒険者として様々な探索や魔物の討伐依頼をこなし、依頼の無い時は自前の『 啼哭(ていこく) 劇場』で様々な冒険譚を演劇仕立てで披露する。その演目の題材は自分たちクランの体験談もあれば、英雄伝説、神話、人気小説と様々だ。中でも人気の演目は『漫遊記』。悪い領主が村娘を借金奴隷にしようと画策するところを旅の冒険者パーティーが助け出すという創作物語だ。
実際のところ、その様な悪い領主はそうそう居るわけではなく、
「お父っあん、オートミールが煮えたわよ」
「ゴホゴホ…… ミーツ、済まないねぇ」
「それは言わない約束よ」
からの
「未納の年貢麦のカタに娘は借金奴隷として貰っていくぜ」
「あ〜れ〜」
なんて話は殆どが創作なのだ。
『 村娘(カントリー・ガール) ミーツ』を助け出す為に『 陽炎(かげろう) ユミル』がハニートラップを仕掛けてみたり、『 投擲槍(ジャベリン) のヤッシー』がジャベリンに付けた手紙を投げ込んでみたり、『 代官(ガバナー) アーク』扮する悪の領主と悪徳商会役の『 苺屋(いちごや) ベリー』が密談をしたり、『 道化師(クラウン) エイト』がうっかりパンを喉に詰まらせたり、『 ご隠居(ハーミット) ミック=ニー』が「シュケーさん、カークさん、懲らしめておやりなさい」と指示を出す定番の遣り取りが人気の『漫遊記』。他にも英雄伝説の『テイマーの鬼退治』や風刺物の『三匹のオーク』『金の斧・ミスリルの斧』、悲恋のラブロマンス『ラミアとヒューリー』なんかが人気の演目だ。
今回は新商品『ハニー・バニー&兎の秘薬と鮫の御守り』の宣伝を兼ねた公演を十日間ほど行う。ヒト族領では近年、年末から春先までの間 恋の炎で寒さを飛ばせ! などという触れ込みで恋人探しのイベントが行われているので、それに目を付けたドワーフがウサギの耳を模したカチューシャと御守りを作り、イベントアイテムとして売り込みに来たのだ。その宣伝役に抜擢されたのが『 啼哭(ていこく) 過激団』。人気の劇団にバニーカチューシャを付けて『漫遊記』を演じてもらいたいという事だった。
「 『啼哭(ていこく) 』はん、いきなりですんまへん」
「いえいえ。しかし、恋人探しのイベントに目を付けられるとはドワーフも目敏い」
「いやいや〜、たまたまなんですわ」
ドワーフの商人はウサギの耳を模したカチューシャの説明と共に御守りの説明を始める。一見、巫山戯ている様に見える商品なのだが、ブラッキー神お墨付きの状態異常回復薬としつこい輩の撃退の鮫の歯の御守りもセットになっている。売値も低価格に抑えられており、そこにはちゃんとブラッキー神へのお賽銭も含まれている。追加で『どこのウサギの骨』というストレス発散用にゴミ箱に投げ込むウサギの骨まで用意されていた。流石、新しい物を作らせたら右に出る者はいないと評される種族だけはある。
「『 啼哭(ていこく) 』はんの凄腕商人、『 苺屋(いちごや) 』はんとお話し出来るなんて光栄やわ」
「いえいえ、カーン=エーツさんには敵いません」
「出たっ! 有名なセリフや。ほな飴ちゃんあげるな。 黄金虫(スカラベ) 印の菓子でございます」
「そちらこそ有名な黄金色の菓子のくだりを。その 黄金虫(スカラベ) 印の菓子というのは?」
「これ、これから売り出す【鉱夫飴】って飴なんですわ。その純正品のマークが 黄金虫(スカラベ) やね。正式販売が開始されたらいの一番に『 啼哭(ていこく) 』はんに卸しますわ」
「それはありがとうございます。それ込みで『ハニー・バニー』を売り込みに来たと」
「せやせや。『ハニー・バニー』一式は儲けは薄い代わりにブラッキーの神さんにお賽銭を届けられるのがウリなんや。」
「という事は『 兎鮫仲裁(ウサギとサメのなかなおり) 』由来ですね」
「流石や!! 一発で当てはるとは流石は『 啼哭(ていこく) 』はん」
「あれも私共の演目になっておりますので。そうですね、『ご隠居』を呼んで参ります」
「うっ……、はい。よろしゅう頼んます…」
「『ご隠居』、…という訳です」
「カーン=エーツさん、いいでしょう。我らが劇団で『ハニー・バニー』の宣伝、やろうではありませんか」
「『ご隠居』様、おおきに!! でもほんまにええんですの?」
「流行りに乗ってこそ…ですよ。カーッカッカッカッ」
二つ名は『 黄泉門(イエロー・ゲート) 』。その由来は『 黄泉(タルタロス) の門を開けるもの』。『 啼哭(ていこく) 過激団』のクランリーダー『 ご隠居(ハーミット) ミック=ニー』が高らかに笑い声を上げるのだった。