作品タイトル不明
第259話
クルラホーンはいつの間にか姿を消していた。そして俺のツナギのポケットに空のポーション瓶が入っていた。 “ ゴチ ” と書かれた小さな紙片が貼られていたから意外と律儀なのかもしれない。まあ単に瓶が邪魔だったんだろうけどな。
「よーし、職校に帰る前に大事な確認事項がある。靴紐を緩めてズボンを膝まで捲れ。よ〜〜く肌を見るんだ」
よく分からないけど皆言われるまま足首から脛、膝に至るまでを確認する。
「何か変わったことがあった奴はいるか?」
ん…? どういう意味………あ、もしかしてヒルとか!? ヤバッ、単なる実習だと思ってたからヒル対策を忘れてたわ。
「先生、特には…」
「何のチェックっすか?」
「ヒルは付いてません」
「はい、正解。良かったなー、ヒル対策してないのにヒルに喰われなくてよかったなぁ…。はい、理由が分かる奴」
「………」
「ヒルが居ない地域だったとか?」
「いや、この辺りはヒルはいるぞ」
「分かりません。教えてください」
「まぁ、単純にヒル避け剤を撒いたのと、この辺りにはリーチフロッグが棲息しているから…ってのが理由だな。リーチフロッグは捕まえやすいから野営時の食材として重宝するけど、獲りすぎるとヒル被害が深刻になるから注意だ。詳しい資料は冒険者ギルドか学園の図書館にあるからな」
蛭喰い蛙(リーチフロッグ) 、とは言うもののヒルのみを食す訳ではない。魔物の血を吸ったヒルを多食したリーチフロッグは魔法薬の材料になるので、錬金術ギルドの管理下で養殖されている。天敵はヘビ。【 深山(ミヤマ) マンバ】という毒ヘビがリーチフロッグを好んで捕食する。その【 深山(ミヤマ) マンバ】に吸い付く、俗称= “ マンバ喰らい ” と呼ばれるヒルも存在する。
「次から野外実習の時は各自ヒル対策をしてから参加する様に。冒険者ギルドに行くと色々置いてあるからな」
リーチフロッグの事が気になったので職校のタイムカードを記録してから冒険者ギルドの資料を読みに行く事にした。今日は時間的に学園の図書館で閲覧は無理だ。冒険者ギルドでリーチフロッグの載っている資料の閲覧申請をしていたら支部長さんに声を掛けられた。ギルド支部長と書いてギルドマスター略してギルマスと呼ぶ地域もあるが、ドワーフ冒険者ギルドの場合は本部長か支部長呼びだ。
「ミーシャ=ニイトラックバーグは “ ドワーフの為のギルド ” のうち、商業ギルド、冒険者ギルド、馬車ギルドに所属が有って、且つ職校と学園で学んでいるんだったね」
「はい、そうです。ちょっと身分証が多くて大変ですけど…」
「という訳でギルド証を統合しておいたよ。どこに行ってもこれ一枚の提示で済むからね」
と言って手渡されたカードは従来のギルド証とはデザインが全く違った。北斗七星をモチーフにしたデザインで、星の脇に各ギルドのマークが付いており、下の方に俺の名前が書かれていた。星が金色に塗られていると、そのギルドに所属しているという事になる。
「 “ ドワーフの為のギルド ” って五大ギルドですよね? これ、星が七つ有るんですけど……」
「柄杓の 合(ごう) 、 合(ごう) いうのは水を汲む部分の事なんだが、その 合(ごう) の部分の端の方から順に、冒険者ギルド、商業ギルド、農業ギルド、馬車ギルド、錬金術ギルド。続いて学園、職校の順で並んでいる」
チェックすると、冒険者ギルド=盾、商業ギルド=巾着、農業ギルド=鎌、馬車ギルド=蹄鉄、錬金術ギルド=瓶、学園=本、職校=鎚、のマークになっていて、俺の所属する五つの団体の星が金色に塗られていた。そして良〜く見たら学園の星の脇に小さい星が付いているんだけど………これって見ちゃうと死を呼ぶ北斗の星じゃないよね?
「学園の星の脇に小さい星が付いてますよね?」
「それは魔術師ギルドだ。学園の付属扱いなのでね」
「魔術師ギルドは五大ギルドに含まれないんですね」
「ドワーフ領ではそうだな。ヒト族領なら馬車ギルドが外れて魔術師ギルドが代わりに入る。エルフ領だと魔術師ギルド、農業ギルド、錬金術ギルドの三大ギルドだね」
「あれ、酒精ギルドは?」
「それは特別枠だからね。生命と同じで誰にも束縛されることのない独立ギルドだ」
「五大ギルド証なのに七つの星が有る理由は何故ですか?」
「それはミーシャ=ニイトラックバーグが二人目の七星統合証の持ち主だからだよ。もう一人はハーレー=ポーターだ。彼女は冒険者ギルド以外が埋まっていたハズだ。ちなみに学生ではない複数ギルド所属はこちらのカードだ。三つ以上のギルドに所属すると渡される」
見せてもらったのは五芒星の付いたギルド証。俺のギルド証と同様に星とマークが付いている。
「本来はこちらの五星統合証のみだったんだがね、ハーレー=ポーターのせいで七星統合証が出来たよ。でもミーシャ=ニイトラックバーグも持ってくれたから無駄にならなくて済んだけどね…」
支部長さんが苦笑いしながら教えてくれる。あの 人(ドワーフ) 、問題児というかイレギュラー扱いなんだな。
「これって学生証としても有効なんですよね?」
「勿論。一枚に圧縮した代わりに紛失すると大変な事になるので気を付ける様に。再発行料は…金貨十枚だな」
「ひっ………」
「一星につき金貨二枚だからな。嫌ならバラ持ちでもいいが…」
「いや、無くさない様にします。『キーボックス』に入れるので大丈夫です」
「ハーレー=ポーターはそう言って三回再発行したがね…」