作品タイトル不明
第165話
「おや、新人ちゃん、エルフさんと一緒だね」
食堂のおばちゃんに声を掛けられた。
「はい。さっきお風呂で仲良くなりました」
「今日はエルフさんから差し入れしてもらった木の根を炒めたものがサービスで付くよ」
(共)「ふふふ、嬉しいねぇ」
木の根!? 古代エルフは木の根を食べるのか!? ……ん!? これ……前世のキンピラゴボウにそっくりだぞ。もしや木の根とはゴボウのことなのか? 『対物簡易鑑定』をかけたら、
木の根と【食用マンドラゴラ】の炒め:前世のキンピラゴボウ的な炒め物。木の根に見えるがゴンボという菊の仲間の長い根。スライスして干した物はお茶にもなる。
まさか異世界でキンピラゴボウかよ。居酒屋だったらお通しってとこか。
「ミーシャ、お願いだはんで、酒っコ飲ませてけろじゃ」
訳:(ミーシャ、お願いだから、お酒を飲ませて下さい)
「仕方ないなぁ…。おばちゃん、エール二つ。ボクとオロール先生の分です。お金はボクが支払います」
「けやぐ、めやぐだな」
訳:(友達よ、ありがとう)
オロール先生、その言葉は素!! 素が出てるから!! 食堂にいる 人(ドワーフ) 達で意味分かってるのは多分俺だけだから。
塩が効いたバター炒めのキンピラゴボウだった。どうせなら醤油とラー油で味付けしたいな。
キンピラゴボウ以外のメニューは、蒸し【茄子花芋】にソーセージと焼き【 玉菜(キャベツ) 】。まぁ可もなく不可もなくってとこだな。オロール先生は塩をガンガン振って食べている。流石、短命種。タイミングを見計らってエールを追加注文する。エールは一杯銀貨一枚。巷で飲むより割高だけど、食堂の運営費に充てられているとのことなので、食堂を利用する 人(ドワーフ) 達は皆快く支払っている。
(共)「ミーシャは 木の根(ゴンボ) が平気なのか?」
(共)「あ、はい。鑑定では食べられる草の根っ子と出ているので」
(共)「大抵、初見だと「エルフに木の根を喰わされた!!」とトラブルになるんだけどね」
(共)「ははは…、普通そうなるとは思いますよ」
寮の食事は酷くはないけどこれが続いて耐えられるかと言えば微妙ではある。主に味付けとかの問題で。街道や山野を移動中にトカゲや虫を採って食べる事を考えたら遥かにマシだけど。調味料を持ち込んで味変すれば寮の食事でも何とかなりそうだが。
(共)「調理師さん、明日の朝はこの【角麦】を粥にしてくれないか?」
オロール先生が食堂のおばちゃんに何かを手渡していた。
(共)「オロール先生、食材の持ち込みってOKなんですか?」
そう質問したら食堂のおばちゃんが答えてくれた。
「普通はしないよ。エルフさんには特別だよ。エルフさんは私達ドワーフとは食の好みが違うからね」
「そうなんですね」
「新人ちゃんも明日はエルフさんの【角麦】のお粥を食べてみるかい?」
「お願いします」
(共)「ミーシャ、これが【角麦】。ドワーフはこの粥はあまり喜ばないけど食べられるかな?」
こっ、これは蕎麦米!? 蕎麦の実を脱穀したやつなのでは? そう言えばエルフは【 橅(ぶな) 麦】を食べるって言ってたな。
(共)「エルフは【角麦】って呼ぶんですね。ドワーフ語では【 橅(ぶな) 麦】です」
「ミーシャ、けやぐ、部屋さ、あべ」
訳:(ミーシャは友達、部屋に行こう)
いろんな意味で古代エルフと仲良くなりました。言葉の問題さえ解決出来れば古代エルフとドワーフは良い飲み仲間になれそうだ。
学生寮は二階が男子寮で三階が女子寮。一階には寮母さんや厨房スタッフ、職校の講師陣などが住んでいる。二階への階段と三階への階段は別の場所にあり、二階と三階の直接の行き来は出来ない構造になっている。共同浴場と食堂は学生寮の一階と渡り廊下で繋がった別館に有る。
本来なら非常勤講師のオロール先生は一階に泊まることになるんだけど、ワガママを言って三階の端っこを使わせてもらってるんだって。その理由は……部屋に行ったら理解できた。この部屋、何だかヤニ臭い。この古代エルフ、大酒飲みでヘビースモーカーなのかよ。短命種じゃなくても寿命縮んじゃうよ。
「ヤニ臭くて、しょしい…」
訳:(煙草臭くて恥ずかしい)
いやいや、分かってるんなら控えてください。
(共)「えーっと…『汎用魔法』の『浄化』と『換気』をかけましょう」
染み付いた臭いは簡単には消滅しないみたいだけど、とりあえずスッキリしたので良しとしよう。学生寮は木造ではないから布団やカーテンなんかの布類を移動してから『清浄』を掛けたら染み付いた臭いも水洗い効果で取れるんじゃないかな?
そして『汎用魔法』で『消臭』を覚えようと思いました。布類に染み付いた臭いを消すのは大事な事だよな。汗臭さを消すのとかにも使えそうだし。もしかしたら探索や討伐なんかでも使えるかもしれない。
良く見たら床にゴザと絨毯が敷いてある。古代エルフって土足厳禁文化? オロール先生は靴を脱いで敷物の上にあがったので俺もそれに倣う。
(共)「さてミーシャ、あなたの魂の話をしようじゃないか」
絨毯の上で胡座をかいたオロール先生は急に真顔になってそう話し始めた。