作品タイトル不明
588.金髪のお姫様はご機嫌ななめ
家族での食事を終えて戻れば、ローズは目を覚ましていた。さすがにずっと眠ったままではない。夕方に起きたときは泣きそうになり、リリーが絵本を読み聞かせた。いまは起きても泣かず、開いた絵本を凝視している。
「ローズ、どうしたの?」
話しかけながら額に触れ、熱が下がったのを確認する。ローズの頬も赤みが引いて、体調も悪くなさそう。きちんとお粥も食べたと報告を受けた。
「こりぇ……」
指さした先には、黒髪のお姫様がいた。白雪姫のような愛らしいお姫様で、目が青い。指で示されたお姫様を見て「可愛いわね」と当たり障りのない言葉を選んだ。気に入らないの? それとも……。
「ちぁう」
悲しそうに自分の髪を引っ張った。襟足を超えた程度の長さに整えられたローズの髪色は、私に似たくすんだ金髪。黒髪のお姫様が描かれているから、お姫様になるために黒髪が必要と勘違いしたのかも。
「金髪のお姫様もいるのよ」
「ちあう!!」
さっきより勢いよく否定された。子供の癇癪は、自分の言いたいことが上手に伝えられなくて起きることが多い。だから促さずに待った。早くとせかしたら怒り出すし、勝手に想像して言葉にしても怒るのよ。どちらにしても怒るのなら、言い出すまで待つほうがいいわ。
言葉を考えて整理して、自分なりに伝える。とても大事な訓練だわ。レオンもよく考え込んで、無口になったことがあったわね。ゆっくりとでも、伝えてくれたのは嬉しかったわ。
「にぃ、こりぇ」
レオンが黒髪という意味? それから自分の金髪を引っ張り、唇を尖らせた。
「……ちあう……」
悲しそうに呟いた。なるほど、髪の色が違うことが気に入らない。お姫様が何色でも関係ないんだわ。お姫様になりたいのではなく、レオンと同じ色が欲しい。
「お兄ちゃんのレオンと同じ黒がいいのね?」
「……んっ」
ローズは素直に頷いた。まだ尖った唇を指で押したら、唇がさらに尖った。まさか押し戻されるなんて……! ふふっと笑ったら、不思議そうな顔をする。
「お父様はレオンと同じ黒よ。私とローズは同じ金髪……それではダメなの?」
「やっ!」
「そう、困ったわね」
前世と違って、染めて髪色を変える技術はない。貝殻の粉できらきらさせる化粧はあるけれど、その程度よね。 螺鈿(らでん) 細工がないから、使い道としては化粧品くらい。貝殻そのものを使った工芸品はあったかも。
少しばかり現実逃避して、関係ないほうへ考えを向ける。
「ディは私と同じ金髪で、ユリアーナも同じだわ。それでも嫌?」
こくんと首を縦に振る。こうなってしまうと、どう説明しても納得しないでしょう。黒がいいと言われても、生まれて初めて髪色を確認したくらいだし。産み分けるのも無理。持って生まれた色を大切にするべきと言ったら、泣き出しそうね。
無理なことは無理、と教えるチャンスと捉えるべきかしら?