作品タイトル不明
23.(マルレーネ)私の手を離れていくのね
ローザリンデ嬢の手の甲を叩いて、ダメなものはダメと叱った。簡単そうで、貴族には難しいわ。人前で叱ることはしないし、大泣きされて目立つもの。普通はその場はなあなあにして、後で言い聞かせる。でも、アマーリア夫人の中では、やらかしたらすぐ叱るルールみたい。
今日のお茶会もすごく勉強になったわ。カールハインツは子供枠に入ったのが嬉しいようで、手元に残る四つの箱を丁寧に重ねていた。ローレンツも同様だけれど、箱を一つ持ってカールハインツに相談している。交換のお願いかしら?
「これと交換でどうだ?」
「うん、ありがとうございます。兄上」
仲良く解決できたようで、ほっとする。ルイーゼは箱を放り投げて、中身だけ手元に残していた。兄妹でこんなに性格が違うなんて。クッションの上に赤瑪瑙を置いて、くぼみに嵌まるのが楽しいみたいね。中身がレオン殿と被っているけれど……見た目がそっくりな色違いの箱ばかり選ぶからだと思う。
レオン殿を本当に好きなんだわ。この気持ちは大切に育てて上げよう。ただの幼馴染みや友人で終わるか、恋に発展するか。将来はわからない。王家と筆頭公爵家だからではなく、本当に好き合った仲で結婚出来たら幸せになれそう。
一時期は手が付けられない我が儘娘だったけれど、今では可愛い仕草で私達を楽しませてくれる。このまま素直に大きくなって、好きになった人と添い遂げてほしいわ。この国は安定していて、他国と政略結婚する必要はないのだから。
ヘンリック殿を始めとする公爵家が国内を纏め、外交を私やカールハインツが請け負う。いずれは政務もカールハインツに任されるわ。ローレンツは騎士の道を目指していたのに、この頃は読書や勉強にも精を出している。兄の補佐をしたいんですって。
物理的に敵から守るだけでなく、傍らで力になりたい。ローレンツが精神的にも成長した証ね。早く国王になったから、カールハインツは気負いすぎていた。その姿に、何とかしたいと弟が奮起する。側近候補も揃って、カールハインツの結婚式も来年に控えていた。
「私の手を離れていくのね」
嬉しいような、寂しいような、でも誇らしさもある。思わず漏れた言葉に気づいたアマーリア夫人が「親はいつも取り残されるのですよ」と微笑んだ。まるで取り残された経験者のように言うのね。私より若いじゃないの。ふふっと笑ってしまった。
アマーリア夫人のこういうところ、本当に好きよ。いつも場を柔らかくしてくれる。緊張も、恐怖も、彼女の手にかかったら魔法のように変化して、優しさや笑顔が残るの。
「次のプレゼントは、アマーリア夫人が用意するのよね? お茶会が楽しみだわ」
いっそ定期的に恒例にしようかしら。王家と三つの公爵家から始めて、ときどき他家も招いたらいいわ。両公爵夫人に相談してから、アマーリア夫人を巻き込みましょうか。