作品タイトル不明
22-1.(ヘンリック)転ぶ前に手を出すな
ローズにはドライフラワーは「きれぇ」で終わるもので、最初のぬいぐるみのほうが気に入ったらしい。ご機嫌でぬいぐるみにしがみついている。これはウサギ、か? なんにしろ、自室に置くよう言い聞かせなくてはならない。
大きなぬいぐるみは、以前にも購入した。あれはレオンのためのクマだったな。団欒の間に置いたのだが、すぐに猫の餌食になった。しがみついて眠り、齧り、爪を研ぎ……気づいたら悲惨な状態になる。あの時大泣きしたレオンは、傷だらけのぬいぐるみを寝室まで引っ張って帰った。
鼻や目を真っ赤にして「クマ、かぁいそう」と泣いたな。あまりの嘆きっぷりに、新しく買おうと提案したが、嫌だと断られた。甘やかすと思ったのに、アマーリアは「だからお部屋から出したらダメと言ったでしょう?」とレオンに言い聞かせる。
イルゼが屋敷のお針子を総動員し、翌朝までにチェック柄の布で服を着せた。着脱可能な衣服ではなく、直接縫い付ける方式だ。そのため傷はほとんど見えなくなった。齧られた鼻部分には違うボタンがつけられ、傷だらけの鼻周辺の生地は背中から調達したらしい。
「クマ、なおった!」
大喜びで受け取り、イルゼ達にお礼を言った。あの姿に、これも教育の一つだったのかと感心したものだ。大事なものなら傷つけられる場所に放置しない。壊れたと思っても直して使う。簡単なことのようだが、金がある貴族は思いつかないだろう。
新しく買えばいいと考えた俺は、まだまだアマーリアの境地には届かないようだ。
ウサギのぬいぐるみに抱き着く娘も、同じ道を辿るのだろうか。それはちょっと可哀想だ。転ぶ前に手を差し伸べたいと思うのが親である。だがレオンの時と対応を変えれば、ローズを優遇したようになる。仕事の時の公平目線で行けば、完全に失格の行いだった。
難しいな。
「ここに皺が寄っていますわ」
アマーリアに眉間をつつかれ、はっとする。考えていた内容を口に出せば、アマーリアは「まあ」と目を丸くした後で笑った。
「ローズがぬいぐるみを放置すれば、私はレオンの時と同じように注意します。でも片付けたりはしないわ。自己責任だもの」
「まだ幼いのだし、手を貸しても……」
「レオンが手を貸すのは止めませんが、大人が手を出してはダメよ。成長しなくなります」
危険予知ができない子になれば、将来大ケガをする。転ぶ前に支えられることに慣れた子は、転ぶ際に手を突き出したり受け身をとったり出来なくなる、と。大きくなって顔から転ぶより、幼い頃に経験して回避できる子に育てたい。
そんな話をしていたら、周囲が聴き入っていた。なぜだろう、恥ずかしいのに誇らしく感じた。