作品タイトル不明
464.代々つながるもの
怠いので横になっていたら、お父様が何かを持ち込んだ。大根、かしら? それをゴリゴリと擦っていく。見守るリリーは首を傾げ、マーサも不思議そうだった。
私もお父様の奇行をじっと見守る。動きたくないだけで、頭やお腹は痛くないの。だからクッションに寄りかかって、お父様の手元を見つめる。ヘンリック様はお迎えが来て、何度も「動くなよ」と念押しして出かけた。
頼られるうちが華よ。頑張ってきてね。カールハインツ陛下が同席する会議があると聞いた。さすがに国王陛下相手に「休みます」は通らなかったみたい。説得に参加したベルントは、ほっとした顔で馬車に乗り込んだ。特別手当が必要かも。
「おかぁしゃま、ぼく、いぃこ、できる」
丁寧に区切って話した後、ベッドによじ登った。一人では登れなくて、後ろからマーサが支える。子供用の小さな踏み台を作ってもらおうかしら。可能なら二段くらいの階段型がいいわね。
ベッドの端に乗って、自分で靴を脱いだ。すぽんと勢いよく脱げて、飛んでいった靴に驚いている。
「レオン?」
「いぃこ、する」
いい子にできるは、いい子でいるの意味ではないの? 四つん這いで距離を詰め、レオンはゆっくりと手を持ち上げた。お腹の手前で止めて、首を傾げる。
「平気よ」
触ってもいいと許可を与えた。今朝、ヘンリック様がレオンに教えていたわ。赤ちゃんがいるお腹は、絶対に押したり叩いたりしてはいけない。中の赤ちゃんが驚いてしまうから。子供用に噛み砕いた説明に、レオンは目を丸くした。
妹と赤ちゃんがイコールにならなかったのね。赤ちゃんは誰のことか、二回確認していたわ。何度も根気よく話すヘンリック様と、まったく理解できずに混乱するレオン。申し訳ないけれど、見ている私にしたら面白い会話だった。
「いぃこ」
お腹に手を置いて、優しく左右に動かす。撫でるというより、確認するために触れる感じね。
「素敵なお兄ちゃんね、赤ちゃんも喜ぶわ」
私も嬉しい、付け足すとレオンはにっこり笑った。リリーが「可愛い」と呟く。その声に、私もそう思うと頷いた。
辿々しく、レオンは歌い始める。私が歌い聞かせた子守唄よ。歌詞を覚えていないようで、鼻歌だった。それでもお腹に手を置いて、聞かせようと頑張っている。重ねて歌い、レオンの黒髪を撫でた。お互いに撫で合うような、不思議な状況がしばらく続く。
「よし、できたぞ!」
黙々と大根をおろしていたお父様が、容れ物を見せた。大量の大根おろし……それを差し出す。
「レモンを絞った大根おろしを、カロリーネが食べていたのを思い出してな。どうだろう」
子供みたいに嬉しそうに提案されたら、食べるの一択よね。頂くわ!