作品タイトル不明
397.陛下に恋愛相談 ***SIDE公爵
忙しい中、やりくりして時間を作った部下を裏切れない。そんな思いで、執務机の書類を手に取った。文字が上滑りし、まったく頭に入ってこない。眺めても進まないのは、誰より知っていた。
「ケンプフェルト公爵、具合でも悪いのか」
心配した部下が呼んだのか。書類が回ってこないので心配したか。カールハインツ国王陛下が現れた。ぼんやりと顔をあげ、視線を合わせる。
「……人払いを」
ベルントが部下達と共に出ていき、扉が重々しく閉ざされた。立ち上がって礼を尽くすべき相手だが、頭がまったく働かず動けない。
「夫人と何かあったのか」
以前は丁寧な敬語に似た口調だったのに、この頃は話し方に余裕も出てきた。話してもいいのか迷い、妙な緊張が全身を襲う。
「楽しそうに帰ったのに、復帰したらこれだ。皆が心配していたぞ」
「……実は」
忙しい時間をやりくりし、書類の優先順位を考え、休日を作った部下に申し訳ない。その気持ちが先に立った。ぽつりぽつりと妻の話を始める。
相手は、自分の半分ほどの年齢の子供だ。それでも国王陛下であり、敬うべき主君だった。彼は黙って最後まで聞いたあと、嬉しそうな笑顔を見せる。
「よかった。公爵には父のせいで苦労をかけているから、幸せそうで安心した」
自らも被害者だったのに、気遣う余裕がある。王の器とは、これほどに大きいのか。感心する部分と同時に、少しの恥ずかしさも生まれた。こんなに年齢が違うのに、全く余裕がない自分が情けなくなる。
「公爵にとって、夫人は初恋なのだと思う。大切な想いを育んでいるのだから、初めて尽くしでいいじゃないか。実はな、今は私も同じ心境の仲間だ」
こそりと告白されたのは、年齢の近い侯爵令嬢に恋をした話だった。カールハインツ陛下なら、呼びつけて妻になるよう命じることもできるのに……ゆっくりと愛を育みたい。母である王太后陛下とも相談し、まずは親しくなることから始めたと。
婚約者として縛り付ければ、令嬢の自由な意思が尊重できない。その言葉に、胸がずきんと痛んだ。借金の肩代わりをちらつかせて妻にした俺は、彼女を縛りつけた。契約は変更したが、破棄していない。
そこまで情けない話をすることはできず、執務に戻る陛下を見送った。カールハインツ陛下の後ろ姿が見えなくなったところで、机に向かう。書類を淡々と処理し始めた。
全部片付けて、アマーリアに契約の解消を申し出よう。その後に一緒に暮らしてくれと頼む。今なら彼女は応じてくれる、と思う。もしダメなら、縋ってでも……。
みっともなくても、情けないと呆れられても、これが等身大の俺だ。レオンより未熟な俺だが、アマーリアを愛している。心で叫んだ途端、はっきり自覚した。陛下の言われた通りだ。アマーリアは俺の初恋で、きっと最後の女性になる。
人を愛すると満たされて、同時に足りなくて……こんなに泣きたくなるのか。百面相していたらしく、部下達が「閣下がおかしいのは過労のせいだ」と手分けして書類を減らしていたことに気づくのは、書類が片付いた後だった。