作品タイトル不明
336.マルレーネ様のお母様も交えて
部屋に残っていた女性へ、マルレーネ様が声をかけた。
「ベッティーナ夫人、これをカットしてくれる? 八つよ」
マルレーネ様によく似た専属侍女は、元侯爵夫人だ。王太后陛下の専属となられたベッティーナ夫人は、慣れた手つきでケーキを箱から取り出した。え? 毒見もなしで出すの? 八つにカットするなら、一つは毒見役用として……レオンと私、王族が四人。数が多いけれど、余る分には構わないのかも。七つにカットするなんて、大変だもの。
浮かんだ疑問を自分で潰し、箱を手渡した。ベッティーナ夫人は、丁寧に箱を開けてケーキを取り出す。長細いパウンドケーキの形だから、カットしやすいと思うわ。
形を確認するためか、私達にケーキを一度見せた。箱に詰める時、私が見た形は崩れていなかった。長方形の美しいオレンジ色のケーキだわ。今回は人参に柑橘も混ぜてもらった。柑橘のピールを混ぜてある。
「美味しそう」
マルレーネ様の期待の声に、お礼を言って切り分ける手元へ視線を向ける。お菓子をカットする姿って、じっと見ちゃうのよね。気づけば、駆け寄ったルイーゼ様とレオンも釘付けだった。
綺麗に均等に分けられたケーキは、そのまま何も添えずに皿へ並べられた。これって、マナーの一つなのよ。手土産は手を加えずに出す。食べた後で問題が起きたら、後から加えたジャムやクリームが原因か、わからなくなるから。王族や侯爵家以上なら知っているマナーだった。私はイルゼに習ったわ。
「どうぞ」
六枚の皿に盛られたケーキが並び、レオンは私の隣へ走ってくる。ソファーが座りにくい高さで、困ったように私を見上げた。にっこりと笑って唇を示す。自分の口でちゃんと説明して頂戴。
「おかぁしゃま。すぁりたぃ」
「座るのね、手伝うわ」
ひょいっと抱き上げ、隣に座らせた。嬉しそうにお礼を言う幼子の黒髪を撫でる。ルイーゼ様はその姿を見て、「あたちも」とマルレーネ様に腕を伸ばした。ベッティーナ夫人が先に動いて、マルレーネ様の隣に座らせる。
「ありがと、おばぁちゃま」
驚いて目を見張る私に、マルレーネ様はくすくすと笑った。
「家族だけの時は、祖母と呼ばせているの。いろいろと手伝ってもらっているわ」
ベッティーナ夫人が優雅に一礼する間に、カールハインツ様が動いた。七枚目の皿に、ケーキを乗せて運ぶ。それを空いている席の前に置いた。ローレンツ様がカトラリーと紅茶のカップを用意する。
ベッティーナ夫人を誘うのね。彼らにとっては祖母だから、一緒に食べたいのよ。それに、マルレーネ様もそのつもりで八つにカットするよう告げたのだと思うわ。ぴんときた私は、助け舟を出した。
「ベッティーナ夫人、よろしければご一緒にいかが?」
ケンプフェルト公爵夫人に誘われたら、断れないでしょう? 権力ってこういう時に便利ね。