軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

242.ポケットの中には?

恐縮するお父様の隣で、エルヴィンは顔色が青い。緊張しすぎているようね。今回、国内のすべての貴族が集まった。貴族籍を持つ人は、招待の対象なの。数多くの貴族家の中で、フォンの称号を持つ家は三つだけ。

ケンプフェルト公爵家、ティルビッツ侯爵家、シュミット伯爵家。それぞれ爵位の筆頭に掲げられ、一つ上の爵位と同等と 看做(みな) されてきた。財産や権力の強さではなく、貴族としての起源が王家より古いこと。直系が本家を維持していること。この二つが重視される。

以前はもっと数があったものの、没落したり直系が途絶えたり。あやうくシュミット伯爵家も仲間入りするところだったけれど。

エルヴィンはその重圧を感じている。フォン・シュミット伯爵の跡取りで、実姉はフォン・ケンプフェルト公爵夫人だ。若手貴族の注目株だった。夜会では注意しないといけない。そんな話をしたら、お父様が苦笑いした。

「一応、私がそばにいる予定だ。何かあれば助けてやってくれ」

侯爵家と同等の筆頭伯爵家、それは複雑な立場だった。フォンの称号を持つのに、伯爵位なんて中途半端だわ。高位貴族にとって、美味しい獲物にしか見えないでしょう。

レオンが差し出すお菓子を齧り、お茶で喉を潤す。ユリアーナは薔薇の形の砂糖に目を輝かせた。可愛い小物が好きな子だから、持ち帰りたいのではないかしら。

「お姉様、このお砂糖……色で味が違うの?」

白以外に、薄いピンクと青がある。よく見れば、緑の砂糖もあった。葉っぱかも。すべて花びらやハーブで色付けした砂糖だと、リリーが教えてくれた。素敵、欲しいとユリアーナの目が訴える。

「気に入ったのなら、屋敷に揃えよう」

「ヘンリック様……」

ありがとうとお礼を告げ、甘やかし過ぎないでと付け加えた。ダメなのか? と困った顔をされ、私が答えに詰まるわ。

「あのピアノ、弾いてもいいのかな」

部屋の奥でカバーに隠されたピアノを見つけ、ユリアンは駆け寄った。ポケットが膨らんでいるのは、お菓子? 困った子ね。真似しようとしたレオンをやんわりと止めた。

「ゆん、してた」

「そうね。でも、ポケットでお菓子が割れると、リリーもマーサも困るわ。私も泣いちゃうかも」

「やめゆ」

すでに入れた一枚を出し、ソーサーの上に置いた。汚れた手を拭うレオンの姿に、はっとする。

「ユリアン、手が汚れて……っ! 遅かったわ」

化粧しているのに、額に手を触れてしまった。ぱたぱたと粉を叩いて直すリリーに詫びる。叱られたユリアンは、上着の内側で手を拭いてからピアノのカバーを取った。

ベルントが差し出した濡れタオルで手を綺麗にして、躊躇なく鍵盤に触れる。流れた曲はバラードなのに、どこか力強かった。弾く人の影響でこんなに違うのかと驚く。意外に上達していたユリアンの演奏を聞きながら、お父様やヘンリック様と貴族対策を話し合った。

絡まれる以外にも、何か持ちかけられた場合など。対策は決めておいた方がいいわ。まるで話の内容が漏れることを防ぐように、ピアノは曲を紡ぎながら響き続けた。