軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お前の命は勿論、このブルーム子爵家の存続は全てお前にかかっているからな(3-2)

第二王子のレイモンドが十五歳になった時、学園に入学する年齢となったので、学友や側近候補、婚約者候補を探す目的もあって、家格を問わず十歳から十七歳までの子供たちを集めたガーデンパーティーが行われた。

因みに、ディルニアスの時にも開かれていたが、「自分で探す」と誰に声をかけることもなく短時間でパーティーは終わってしまい、あわよくば御近付きになろうと考えていた貴族たちから、大変不評であったらしい。

家格を問わず、と言っても無礼講になる訳ではない。なので、何となく下位貴族の子息や令嬢たちは、会場の端の方に集まっていた。

しかし、王太子殿下の婚約者の遊び相手をしているというダイアナ・ブルーム子爵令嬢のことは知れ渡っていたので、「紹介して欲しい」「第二王子と面識はないのか」等と周囲に人が集まって来て、ダイアナはうんざりしていた。

そんな中、遠くの方からざわめきがさざ波のように広がってきた。

何事かと視線を向ければ、ヴァイオレット・オルトニー公爵令嬢の登場であった。

十歳以上の、家格に関係なく貴族の子息や令嬢たちが集められた王室開催のパーティーなのだから、当然十歳のヴァイオレットも含まれる。そしてこれが、ヴァイオレットの公式での初のお茶会となっていた。

真っ直ぐな淡い金の髪は、胸の下程の長さがあった。ハーフアップにした髪は、黄金色のレースのリボンで結ばれている。少しずつ色が違う黄色のレースを幾重にも重ねて模様を浮き上がらせているデイドレスは、ヴァイオレットにとても似合っていた。

相変わらず殿下の独占欲がよく分かるドレスだわ、とダイアナは遠くから見守った。このような公式の場では、ダイアナからヴァイオレットに話しかけることは出来ない。家格が下の者から上の者に話しかけることは出来ないのだ。お姉さんなのだから守ってあげなければ、と思っていても、家格はどうしようもなく、ダイアナには見つめることしか出来なかった。

しかし、今日のパーティーで一番位が高いのは第二王子のレイモンドになるが、女性の中ではヴァイオレットが一番位が高い人間になるので大丈夫だろう、とダイアナは思っていたのだが。

「貴方、どこのお家の方かしら?」

歳の頃はダイアナよりも少し上だろう。ヴァイオレットに直接自分から話しかける令嬢に、ダイアナは驚いた。

「誰?」

「ブランドン侯爵令嬢だよ」

「そうなんだ。ありがとう」

思わず呟いた言葉に、隣にいた子息が解説してくれたのでお礼を言う。

え? 侯爵令嬢が公爵令嬢に話しかけているの? 駄目でしょう? とダイアナは驚いて二人を見つめた。

「わたくし、王太子ディルニアス様の婚約者、ヴァイオレット・オルトニーと申します。失礼ですが、どちら様でしょう?」

ヴァイオレットは、怒ることもなく優雅に自己紹介をした。遠くて細かい表情が見えないが、傍に控えている侍女のジェインから怒りのオーラが立ち上がっているように見えて、ダイアナはハラハラした。

ヴァイオレットより格上はいない。どう考えてもこの令嬢の方が格下なのだから、謝れば、何とかなる、筈。ヴァイオレットはきっと穏便に済ませてくれる筈。なのに。

「ああ、引きこもり令嬢の。王太子殿下の縁談除けの為の妄想の御令嬢かと思っておりましたが、実在したんですのね」

赤い髪をクルンクルンに巻いて、ラメが入った黄金色のドレスを着た令嬢は、クスクスと笑っていた。

「え? 馬鹿なの? 何歳(いくつ) なの?」

「確か、十四歳だね」

「十四歳にもなってあれ? あの目が痛くなるドレス何?」

「第二王子妃を狙っている家だから、殿下の色を着てるんじゃないかな?」

「いや、駄目だよね? 婚約者じゃないのに殿下の色を着たら駄目だよね?」

この人詳しいな、と思いながら、ダイアナはヴァイオレットを見守った。

「まあ……。このような場所で、王太子殿下に妄想癖があるなどと侮辱するなんて、聞き捨てなりませんね」

「な……っ! そんな事、言ってないでしょう!」

「いいえ、貴方が仰ったことは、そういう意味です。ねえ、レイモンド様?」

「ああ、そうだね」

ヴァイオレットが背後を振り返ると、レイモンドが入場して来るところであった。位の高い者が一番最後に入場するのだから、ヴァイオレットが入って来たのなら次はレイモンドになるのは当たり前である。

レイモンドはくすんだ金色の髪をかき上げながら、琥珀色の瞳を細めて困ったように微笑んだ。

「で、殿下……」

だが、ブランドン侯爵令嬢は驚いたようであった。

「ち、違うのです。誤解なのです」

「うん、とりあえず、この令嬢を 丁(・) 重(・) に(・) 保(・) 護(・) してくれるかな」

腕を軽く上げると、騎士が三人ほど令嬢を取り囲んだ。

「な、何をなさるの! わたくしは!」

「こちらに」

「いや! 触らないで!」

女騎士が令嬢を抱えるように、会場を出て建物の中へと連れて行った。ざわざわと、皆、落ち着きを失くした動揺が、大きく人々の間に広がっていく。今日は子供が主役で招かれているのだから、通常の大人の貴族のように、思考をすぐに切り替えることが出来る者は殆どいなかった。

しかし。

「さて、義姉上。私にエスコートをする栄誉を頂けますか?」

恭しく腰を折り、レイモンドの差しだす手をヴァイオレットは小さく笑って見下ろした。

「ふふふ。誰が義姉上ですか。まだ法律的にはレイモンド様の義姉上ではございません。それはともかく、よろしくてよ」

「ありがとうございます。私のエスコートを、兄上は許してくださいますかね?」

どこかおどけたようなレイモンドの声に、周囲の空気がふっと軽くなったのがダイアナには分かった。

「……多分?」

首を傾げながら、ヴァイオレットはレイモンドの掌の上に手を置いた。

「そこは、大丈夫と断言して頂きたかったですね……」

「そうね。 今(・) は(・) 居(・) な(・) い(・) か(・) ら(・) 、大丈夫でしょう」

レイモンドの場を収めた手腕に感心していたダイアナは、ああ、そうか、と察した。

ヴァイオレットが初めて公式の場に出るのだ。あのディルニアスがこの場に居ない訳がない。きっと、何処からか見ていたことだろう。

ということは、先程のブランドン侯爵令嬢の失言も聞いていた筈だ。自分への暴言よりも、ヴァイオレットへの失礼な態度に怒っているに違いない。だから、レイモンドはディルニアスから守る為に侯爵令嬢を 保(・) 護(・) したのか、とダイアナは納得した。

「ねえ、あの方が本当に王太子殿下の婚約者なの?」

「え? ええ、そうだけど」

以前、お茶会で一緒になった令嬢に突然話しかけられ、怪訝に思いながらもダイアナは頷いた。あれ以来、やはりと言うか、ダイアナはあの場に居た令嬢たちから疎遠にされていた。

「びっくりする程、綺麗な方ね」

「そうでしょう!」

本人を見て考え方を改めたのだろうか、とダイアナは思ったのだが、相手の令嬢の顔がニタリと歪んだ。

「あんな綺麗な方の隣に貴方、よく居られるわね? そんなみすぼらしい髪や瞳の色で! ドレスだって安物じゃない。恥ずかしくないのかしら? わたしにはとても無理だわ」

暫くしてから、ああ、自分は攻撃されているのかとダイアナはようやく理解した。余りにも唐突だったので、何が起こったのかすぐに理解することが出来なかった。

「あの方も、引き立て役として貴方を傍に置いてるだけなんじゃないの? 遊び相手だなんて、貴方の思い上がりじゃない?」

楽しそうに口元を、目を、顔を歪ませている令嬢を見ながら、これは、この暴言は、ヴァイオレットを馬鹿にしている、とダイアナは怒りが湧き起った。ヴァイオレットが、そんなつまらない考え方をする筈がないではないか。

「あら、面白いお話をなさっていらっしゃいますのね?」

ダイアナが声を出すよりも早く、第二王子のレイモンドにエスコートをされたヴァイオレットが声をかけてきた。

楽しそうに顔を歪ませていた令嬢が、慌てたように愛想笑いを浮かべる。

「迎えに来たのよ、ダイアナ。わたしと一緒にいらしてくださらない?」

ヴァイオレットは、にっこりと笑ってダイアナに手を向けた。

こちらからは傍に行けないダイアナを、わざわざ迎えに来てくれたのかと一歩近寄った。

だが。

本当に、自分なんかが傍に居ても良いのだろうかとダイアナは不安を覚えた。この令嬢に言われたように、自分の容姿がみすぼらしいからではない。先程の、ブランドン侯爵令嬢に凛とした佇まいで対峙したヴァイオレットの隣に、自分は立つ資格があるのだろうか、と不安に思ってしまった。

ヴァイオレットは、ダイアナが躊躇してしまったのが分かったのだろう。

「……ねえ、そこの貴方」

「わ、わたくし、ですか」

ダイアナを攻撃して楽しんでいた令嬢を、ヴァイオレットは見据えた。

「ねえ、貴方。百合や薔薇が自分を引き立てる為に、傍にぺんぺん草を置くと思います?」

「え? ぺんぺん草……?」

「ええ、そうよ」

ヴァイオレットは、口角だけを上げて笑った。レイモンドは吹きだすのを堪えたようで、んぐっ、と変な声を出していた。

「百合や薔薇は、それ自体だけで引き立っているのよ。わたくしだってそう。余計な物なんて何も要らないわ。 貴方のような人(ぺんぺん草) なんて、引き立て役にもならないの。わたくしの傍に置く価値もない人が、わたくしの傍にいてくれる大切なお友達に色々と言ってくれましたわね?」

十歳の少女でありながら、誰にも反論させることのない気品と矜持に、ダイアナは見惚れた。ヴァイオレットは今、周囲を完全に圧倒している。

高貴な人物(ヴァイオレット) から自分という存在を全否定されて、注目を集めてしまった令嬢は青褪め、逃げるようにその場を後にした。