軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

95.大地の命

「……なるほど」

驚嘆するヘンリーを見て、少し思考に耽る。

ヘンリーが言う「戦争の形が変わる」というのが分かった。

「戦争は、負傷兵の方がやっかいだったな」

「はっ。負傷兵の手当て、治療に人員をさかねばなりませんので」

「ふっ、戦死された方がよっぽど助かるな」

ヘンリーは無言で頭を下げた。

もちろん、死者なんて少ないに越したことはない。

が、短期的に見れば、負傷兵よりも戦死者の方が軍にかかる負担が軽い。

「さすが陛下でございます。私がその事を理解したのは、兵務省に入ってから一ヶ月経ってからでございました」

「この軽傷なら一瞬で直すポーション、これがもし量産可能となったら……戦力はどれくらい上がる?」

「……軽く見積もって、三倍」

ヘンリーは少し考えて、きっぱりと言い放った。

そこまで上がるのか……いや、そうなんだろうな。

ヘンリーがいう「戦争の形が変わる」というのが冗談ではない訳だ。

俺は少し考えて、まずはジェシカと向き合った。

「ジェシカ」

「はい」

「それはちゃんと持っておけ。帝国の法では、最前線の将兵はいかなる状況であっても私的な理由で異動させてはならないとなっている。帝国は『戦士の国』だ、それは何があろうと変えてはならん」

「……はい」

俺が「なにか言おうとしている」事を察して、ジェシカはますます真剣な顔をした。

「そなたは余の妃だ、どんな建前をつけたところで、それが私的な理由になる。そうとしか見られない。つまりだ」

「は、はい」

「そなたが次に戻ってくるのは、凱旋か、敗走かのどっちかだ」

もう一つの可能性に屍となって――があるが、それは言わないでおいた。

「余は、当然凱旋を望んでいる」

「――はい!」

「本当に分かっているか?」

「え?」

意気込んで頷いたジェシカ、きょとんとなってしまう。

「帝国は戦士の国、だから妃のそなたを将に取り立てるという制度の変更は通る。が、本来ならする必要はない。だが余はした――何故か」

「……」

真顔で俺を見つめ、固唾をのむジェシカ。

「そなたならと思った、そなたの為に変えた」

「――――!」

目の前にいるジェシカの空気が、見るからに変わった。

もとから凄味のあった女だが、それがますます強くなった。

俺の目に狂いはなかった。

直属部隊編成の為、ジェシカはいったん退室して、そこに俺とヘンリーの二人が残った。

彼女が出て行った扉を見つめ、ほぅ……と息を吐くヘンリー。

「すごいですな」

「ん?」

「陛下のお言葉を賜ったあの一瞬で、まるで一年どこかで修行してきたかと錯覚するくらい強くなりました。あの闘気は普通の人間にはだせません」

「それを最初から持っていた女だ。彼女にも言ったが、だからこそ制度を変えた」

「それを引き出した陛下の人心掌握はさすがでございます」

「それはそうと……話を戻す、ポーションを量産する方法を見つけないとな」

「はい」

ヘンリーはものすごい真顔になって頷いた。

「まったく知らないままであればよかったのですが、その存在を知ってしまっては……」

「うむ」

俺はあごを摘まんで、少し考えた。

「歴史上、ポーションが存在したのは確かだな」

「はい」

ヘンリーは深く頷いた。

回復魔法は知っていたが、ポーションの事はヘンリーに聞くまでは知らなかった。

そのヘンリーがこうして言い切るからには、何かの書物で読んだということだろうな。

「作り方の手かがりは?」

ヘンリーは首を静かに振った。

「だろうな。あればとっくに再現しようとしてるものな」

「はい。帝国の年間予算を投じてでも研究する価値はあります。手かがりさえあれば」

「それくらいの代物だもんな」

ヘンリーは「軽く見積もって戦力三倍増」といった。

戦士の国であり、常に征戦をくり返し続ける帝国にとっては何よりも大事なこと。

ヘンリーは年間予算といったが、それこそ国を傾けてでも研究させる価値がある。

歴史上、不老不死を追い求めて国と自分を破滅させた皇帝は星の数ほどいる。

ポーションは、それに匹敵――いやそれを遙かに上回る、帝国に取って必要なものだ。

「とはいえ、手かがりがまったくないのではやりようが無い」

「はい……」

「王宮の蔵書は数万あるが……」

「……」

ヘンリーは静かに首を振った。

だろうな。

王宮の蔵書といえば、この地上に存在するありとあらゆる最重要な知識の粋を集めたものだ。

それでもないのだろう。

……まあ、あればとうに再現している。

手かがりはない。

というのは、普通の場合だ。

俺は、一つ心当たりがあった。

「ヘンリー、お前はリヴァイアサンを知っているか?」

「はあ……陛下の魔剣のことでございますか」

ヘンリーは慎重に聞き返した。

リヴァイアサン――元はレヴィアタン。

皇太子が持ってきた時はヘンリーもその場にいた。

思えば、付き合いが長いな。

そのレヴィアタンがリヴァイアサンになった事を知っているから、慎重な回答に繋がった。

「いや、そっちじゃない。もう一つ何か知らんか?」

「…………、――っ!」

首をひねって考えたあと、ヘンリーはハッとした。

「白銀の時代!?」

「そうだ、白銀の時代にいた四賢者の一人、リヴァイアサン」

「まさか!?」

俺は小さく頷いた。

直接は聞いてない、だが、確信はある。

前に夢の中――のようなところで聞いた不思議な声。

ルテーヤーがバハムートに。

そしてレヴィアタンがリヴァイアサンに。

それぞれ確信した後、ますます確信した。

四賢者の一人リヴァイアサンは、 この(、、) リヴァイアサンだ。

それは、もう一つの事実に繋がる。

「リヴァイアサン」

俺は手を掲げて、リヴァイアサンを呼び出した。

人型をした、人ならざるリヴァイアサンは顕現し、俺にひざまづいた。

「お呼びでしょうか、我が主」

「答えろ、回復魔法が存在した時代にお前はいたか」

「はっ、時の皇帝に力を貸していた」

「おお……」

ヘンリーが感嘆した。

賢い彼だ、すぐに理解した。

どの書物にも残っていない、回復魔法とポーションの情報。

それは、目の前の「生き証人」の頭の中に存在している事を瞬時に理解した。

「すごい……」

失われた知識を引っ張り出す俺を、ヘンリーは心底尊敬する眼差しで見つめてきた。

「ポーションの事も知っているな」

「はっ」

「教えろ」

「大地には『龍脈』なる魔力の通り道が存在する」

「龍脈」

おうむ返しにつぶやき、舌の上に転がす。

まったく初めて聞く言葉だ。

ヘンリーを見て、「お前は」と視線で尋ねる。

はっと我に返ったヘンリーは首を振った。

再び、リヴァイアサンに聞く。

「その龍脈とはなんだ?」

「魔力の、いわば川のようなもの。せせらぎから始まり、支流となって本流に合流し、やがて大海につながる」

「……集まって凝縮した魔力が実体化するのか」

「さすが我が主。さようでございます」

俺はリヴァイアサンの言った事をじっくり吟味した。

「つまり、その龍脈はいま存在してないと?」

「はっ。龍脈は一カ所をのぞいて全て寸断し、枯渇した」

「一カ所? 残っているのか?」

「再生した、といった方が正しい」

「どこだ?」

「アルメリア、州都ニシル」

「……え?」

完全に予想外だった。

もっと辺境なり、神聖な土地の名前が出てくるものだと思っていたが、予想に反してなじみの深い地名がでてきた。

親王時代の俺の封地、一時期はそこに住んで統治もしていた。

「龍脈は大地の命脈。命とは水」

「水」

「あの地もダメだったが、近年再生しつつある」

「水……再生……?」

あごを摘まんで考える。

すると、横からヘンリーが。

「陛下が特等水路を整備なさったから?」

「さよう」

リヴァイアサンが静かにうなずいた。

「……」

珍しく、完全に予想外な事で驚く俺。

「すごい、さすが陛下でございます」

一方で、ヘンリーはますます驚嘆していた。