軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

81.失敗は繰り返さない

着替えが終わった後、ゾーイとケイトを連れて宿を出た。

昼間のデュセルも、夜間に負けず劣らず栄えていた。

昨夜は夜だったから気づかなかったけど、都に比べて、建物も、人々の服装なども。

全部が、「派手」な感じだ。

街挙げての成金スタイル、という感じだ。

「解りやすい街ですね」

呟くゾーイ、どうやら同じ感想のようだ。

ケイトはそのゾーイを不思議そうに見あげた。

まだ、そういうのが分からないようだ。

しばらく歩いたあと、それまで俺の後ろに付いてきていたゾーイがペースを上げて俺の前に出て。

「この店です、ご主人様」

といって、豪華な店構えの店を指した。

ゾーイが調べてきた、オルコットの詩が置かれてある店だ。

その店はデュセルの中心も中心、行き交う人間がかなり多い、繁華街のど真ん中にある、超一等地だ。

周りの店も、行き交う通行人もそれなりの身なりをしている。

路地裏から物乞いが出てくると、すぐにどこかの店の店員が出てきて、それを追い払った。

「良いところに店を構えているんだな」

「こんなところにお店を……赤字が凄そうです……」

ケイトが困り顔で呟いた。

「赤字で良いんだよ」

「え?」

「超一等地で店を構えるほど、人気な詩人だという虚像を作り出せればいいんだ。店舗一つ二つの赤字なんて、昨日ばら撒いてた黄金――オルコットに送った賄賂に比べれば安いもんだろ?」

「た、確かに……」

驚きつつも、ケイトは納得した。

「あそこに一般客なんて行かないはずだ、そうだろ?」

ゾーイに水を向けた。

ゾーイは静かに頷いた。

「さすがご主人様です。聞き込みをしたら、大体そんな感じでした」

だろうな。

夕方、俺達はさっきの店に戻ってきた。

街を一回りして、民の生活を見て回った。

街全体が成金チックというのはわざとらしい演出とかじゃなく、どこもかしこも金と物が溢れていた。

不況だから塩を食べない、売り上げが落ちて税金が減ってるなんて真っ赤な嘘だ。

その確認が取れたところで、実際に店に入って、藪を突っついてみようと戻ってきたのだが。

「えっ!!」

真っ先に声を上げたのはケイトだった。

驚いた彼女はバタバタと店の方に走っていった。

「ご主人様!?」

閉ざされたドアの隙間から店の中をのぞき込んだケイトは、驚愕した顔で俺を呼んだ。

俺は眉をひそめて、店に近づいていった。

午前中に来た時とはまったく様子が違っていた。

看板がなくなってて、ドアが閉ざされている。

ケイトの側にいって同じようにドアの隙間から中を覗き込むが、店の中はがらんとして何もなかった。

俺は一歩二歩と後ずさりして、距離を取って店の建物の全体を視界に入れる。

「ゾーイ」

「はい」

「ココで間違いないよな」

「間違いありません」

「中は? 店の中には入ってたよな」

「はい。店のあっちこっち額縁に入ったオルコットの詩が飾られて、接客用のテーブルとソファー、様々な調度品もありました」

「ふむ……もし、そこの人」

俺は通りすがりの通行人を呼び止めた。

「なんだい」

「ここの店なんだけど、なにがあったのか分からないか?」

「なにが?」

呼び止められた男は閉まっている店をみた。

「なにがってなにが? ここはもう一年以上前から空き家になってるんだが?」

「え?」

「嘘っ!?」

俺の後ろで聞いていたケイトとゾーイが揃って声をあげた。

「そうか。済まなかったな引き留めて」

男が立ち去った後。

「ご主人様! これは変です」

「一年前って、朝に来たときには、ちゃんとありました」

「……二人とも、周りの店の人に聞いてこい」

「はい!」

「分かりました!」

ゾーイとケイトは応じて、言われたとおり近隣の店に駆け出して、聞き込みをしてきた。

店の人間だけじゃなく、客や通行人にも聞いてみた。

しばらくして、二人は狐につままれたような顔で戻ってきた。

「どうだった」

「どこも同じです、あそこに店はない、って」

「前の店も何だったのか覚えてないくらい、立ち退きしてから凄く経ったっていってます」

「なるほど……」

「どういう事なのでしょうかご主人様。明らかにおかしいです」

「何かに化かされたんじゃないでしょうか」

俺は考えた。

勘違いとかじゃ決してない。

ゾーイの能力は信頼しているし、そもそも俺もゾーイもケイトも、三人そろって午前中は「ここに店があった」のを見ている。

現実的に考えて……証拠隠滅と口裏合わせ。

素早く、そして大規模。

それを暴露するには……。

「ゾーイ」

「はい」

「何か食べ物を買ってこい。がっつり腹にたまる物だ。酒もあればなおいい」

「……分かりました」

何か聞きたげな顔をしているが、俺に何か考えがあると見抜いたゾーイは聞くのを後回しにして、まずは買い物に出かけた。

しばらくして、両手では抱えきれないほどの食糧と酒を抱えて戻ってきた。

「お待たせしました」

「付いてこい」

ゾーイとケイトを引き連れて、路地裏に入った。

饐えた匂いと淀んだ空気が支配する路地裏に入ってすぐ、地べたに座っている物乞いの姿が見えた。

物乞いは気怠げな目で俺たちを見ている。

「ゾーイ、それを渡せ」

「はい――どうぞ」

「――うおっ! パンに肉に、酒まである! これくれるのか?」

「ああ」

俺は頷き、物乞いの男に聞いた。

「朝、よそに追い出されてたな」

「ああ、いつものこった」

「それで戻ってきたって事は、いつもここに居るのか?」

「大抵はな」

「一つ聞きたい、この路地裏を出てすぐの、あの閉まってる店のことを知らないか」

「あの詩を売ってる店のことか?」

「「――っ!」」

ゾーイとケイトが息を飲んで、互いを見くらべた。

まるで何かに化かされている状況の中、ようやく 話が出来る(、、、、、) 人間に出会ったことで、二人から安堵が感じられた。

「ああ、あの店どうしたんだ?」

「昼くらいかな、急に大勢の人間がやってきて、物を運び出して締めたんだ。そのあと周りの店の連中に、ここには何も無かったって言え、って脅してた」

「やっぱり口裏合わせてたのね!」

ケイトの表情に興奮の色が混ざっていた。

「誰がやらせたのか、わかるか?」

「そこまではわからねえよ」

「そうか。いや助かった。これは気持ちだ、取っといてくれ」

そう言って、100リィーンほどの現金を物乞いに渡した。

ゾーイとケイトを連れて、路地裏から出る。

「ご主人様」

「ん?」

「どうしてあの物乞いが知ってるってわかったのですか」

「あれは『最強の人』だからだ」

「最強の人?」

「守るものがある人間に、脅しや懐柔は効くが、物乞いくらい落ちぶれて失う物がない人間はそういうのは効かない。だから素直に喋ってくれる」

「なるほど! 凄いですご主人様」

「ぐわああああ!!」

悲鳴が木霊した。

ゾーイとケイトがぱっと振り向いた。

おれ達がさっきまで居た路地裏の中から、男の悲鳴が聞こえてきたのだ。

「ご主人様!?」

「早かったな」

「え?」

「ふっ……」

俺は薄い笑みを浮かべながら、引き返していった。

ゾーイもケイトも付いてきた。

さっき居たところにもどってくると、物乞いが気絶して倒れていた。

そしてその横に、全身を焼かれて、体から煙をあげて、びくりとも動かずに倒れている知らない男達がいた。

「こ、これは?」

「口封じ」

「え?」

驚愕するゾーイ。

「店をあんな風に証拠隠滅する連中だ、俺達が接触したこの物乞いの口を封じようとするのは充分に考えられた。だから、バハムートに居させて、いざって時に憑依させるように命じた」

「おぉ……」

「ご主人様凄い……」

「こんなに早く始末するとは思わなかったけど、一つ解ったことがある」

「何がですか?」

「俺達は監視されている、じゃなきゃここまで早くないだろう?」

「――っ! 確かに!」

「さすがご主人様です!」