軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

224.五商五娼

「まずは……『五商五娼』です。これ、守られてないです」

ジョンがいい、俺は自分でも分かるくらい眉がビクッとなった。

「『五商五娼』ってあれだよな、取り分がざっくり商人と娼婦で半々ってやつ」

「そう」

ジョンははっきりと頷いた。

「守られてないってことは商人もっと取ってるってことだろうけど、オイラはそもそも商人側が5ってのもとりすぎだと思うんだ」

「それは仕方がない」

俺はそういった。

リオンはやや意外そうな顔をした。

「そうですかい?」

「意外か?」

「ええ、まあ。有り体にいえば」

「気持ち的には分かる。女が体はってるんだからもっと取り分ふやしてやるべきだ。そういいたいんだろ?」

「そう」

「だが、娼婦の枠を帝国が決めたのはなぜか、暗いところに潜られるのをさけるためだ。厳しくしすぎて店ごと法の目が届かないところに潜られると、女の扱いは途端に悪くなるぞ」

「そうなんですかね」

「ジョンなら分かるだろう? かつて闇奴隷商から逃げ出した身として」

「……はい」

ジョンは重々しく頷いた。

「ちゃんと国が認可した奴隷商はその認可の取り消しってのに怯えるもんで、まだ奴隷を人間扱いして くれる(、、、) んですが、闇奴隷商だと本当に人間扱いされないです」

「そっか、娼婦も奴隷と同じになるってことか」

リオンは頷いた、少し納得した様子だ。

「そうだ。帝国が枠と同時に決めたことは主に二つ。娼婦の身の安全を守ること、性病の診断と治療をちゃんとすること。この二つをくどいくらいに押しつけるかわりに、商人側には半分とる事を認めている」

「なるほどそういうことですか」

「で、あのやろうなんですけど、絶対『五商五娼』守ってないです」

ジョンははっきりといいきった。

「根拠は」

俺はきいた。

「潜入捜査でつけてもらった娼婦に心付け弾んだら全部喋ってくれました」

「実態は?」

「……八二、です」

「……」

「おいおい、それって……『八商二娼』ってことか? やりすぎだろおい」

「俺もそうおもいましたけど、小間使いの子にも小遣い弾んだら、他のお姉さんたちもそういう愚痴こぼしてたのを教えてくれましたよ」

「……そうか」

八商二娼。

その言葉、その比率を心の中で繰り返した。

そして、思い出す。

昨日持ってこられた贈り物の山だ。

あれはつまり娼婦たちから搾り取った結果だ。

頷き、今度はリオンの方を向いた。

「お前の方はどうだ」

「オイラの方はあんまり深い話は聞けなかったですね。聞くまでもないっていうか」

「なぜ?」

「女の背中に『バラ』があったんで」

リオンは困ったような顔でわらった。

今度はジョンが驚いた。

「『バラ』って……バラ斑のことなのか?」

「ああ」

バラ斑。

それは性病の一種で、発病するとバラのような湿疹や斑点が体にでるからそういう風に呼ばれている。

致死率が高く、娼館経営にはちゃんとしてもらわなければならないところだ。

なのに、それがあったという。

しかも普通に接客しているらしいのだ。

「女にはどういった?」

「もちろん指摘したんですけど、『これなってる子多いんですけど、なんですかね』って反応でした」

「……」

「嘘ついてるわけでもなさそうだし、分かってないって感じでしたね」

「ってことは……病気が広がってるってことなのか……? しかも知識のないままで」

ジョンは唖然とした

「そういうことになるな」

「ご主人様! 命令を下さい」

「なんだ?」

「今からそいつの店を封鎖します。俺とリオンに付けてくれた娘も証人として確保します」

「その必要はない」

「え? な、なんで」

「……あー」

戸惑うジョン。

リオンは何か察したような顔をした。

それでもなお訴えかけてこようとするジョン。

そのタイミングでドアがノックされた。

応じると、ゾーイがドアを開けて、一礼して入ってきた。

「どうだ?」

「ご主人様の予想通りでした」

俺の質問に無表情でゾーイが即答した。

いや、これは無表情ではないな。

それだけで人を殺せそうな、殺気たった目つきをしている。

かなり怒っている、有り体に言えば切れている、という目だ。

「デボラとカーラ、それにキャリーという幼い女の子。この三人がつい先ほど、店の中の井戸に突き落とされました」

「なっ!」

「あー……」

驚愕するジョン、苦虫をかみつぶしたリオン。

理解して、いや察していたリオンは諦めもあってか落ち着いていたが、ジョンは一瞬で沸騰したやかんの如く、顔が真っ赤になって頭から湯気が噴き出しそうなくらい激昂した。

「口封じしたのか! あいつは!」

「その通りでございます」

「デボラって子はどうなってるんですか!?」

半ば問い詰めるような口調でゾーイに安否を尋ねるジョン。

話を聞く限り、デボラっていうのがジョンにあてがわれた子のようだ。

「ご安心ください」

「え?」

「ご主人様は事前にこうなると予想しておりました。そのため私にフンババ様をあずけてくださいました」

ゾーイがそういうと、ジョンはあっけにとられてキョトンとした。

直後、ゾーイの背中から精霊の美女が現れた。

かつて絵画の中にいたフワワ、それが覚醒して、その時よりも一段と美しい姿になったフンババ。

そのフンババが穏やかな、母性すら感じさせる微笑みで現れ、そして俺の指輪の中にもどってきた。

フンババという存在、その顕現をうけて、ゾーイが説明を続ける。

「三人はすぐに私が救出し、連れ戻ってきました」

「そ、そうですか……」

ジョンは明らかにほっとした顔になった。

ちなみに、ジョーンがゾーイには微妙に敬語で話している。

二人とも俺の部下だが、ジョンを引き取った頃はゾーイはもういい歳で、ジョンはまだまだ子供だ。

それもあって、ゾーイがジョンたち闇奴隷から助け出した子供達の衣食の面倒をみてやったこともある。

その頃の事もあって、ジョンは俺には「フランクで馬鹿な部下」を演じているが、ゾーイには微妙に敬語を使っている。

実際確認したことはないが、ゾーイの事を姉のように思っているのかもしれない。

「すごいな、やっぱり。最初から口封じするって予想してたってことですか」

リオンは俺を褒め称えた。

「容易に想像がつく。口封じをするのも、その方法として井戸を使うのも。芸もなければ進歩もない」

俺はひややかにいい放った。

それは宮殿内でもたまにおこる「事故」だ。

陛下の御代の時にはもうなかったが、たまに妃ではない女官や使用人に皇帝の「お手つき」になったりすると、しばらくして井戸の中に転落する事故が起きたりする。

もちろん殺人だ。

毒殺であれば体内に毒がのこってそれが証拠になるが、井戸の転落なら遺体からは殺人か事故なのかは区別がつかない。

それもあって、井戸に突き落とすのは口封じの常套手段といってもいい。

俺はゾーイをみた。

予想はついているが、一応聞いてみた。

「ケガの具合は」

「外傷はいずれもかすり傷です。ただ衝撃を受け混乱をしているようです」

「いきなり殺されそうになればそうもなる。落ち着くまで無理強いはするな」

「はい」

「全てはお前に任せる。なんでもいい、死なせるな」

「かしこまりました」

ゾーイは頭を下げ、部屋から出て行った。

「ジョン」

「はい」

「兵を率いて娼館を包囲しろ。誰が中にはいってもいいが、誰も外にはだすな」

「はい」

「特に女は最優先で保護しろ、誰一人として死なせるな」

「はい!」

「リオン」

「うっす」

「ケグナの屋敷にいってケグナ本人を連れてこい。抵抗しなければよし、するのなら――」

「死なない限りはなんでもいい、ですね」

「うむ」

「うっす!」

ジョンと違い、忠誠心だけじゃない、荒事にも慣れているリオンはにやりと笑いながら言った。

口は笑みの形になっているが、目は全く笑っていない。むしろ怒りに燃えている。

ただでさえ弱い立場の娼婦、そこに病気、さらには口封じだ。

そのやり口に義憤を感じているのは間違いない。

「いけ」

「「はい!!」」

命令をもらった二人は、それを遂行すべく退出していった。